北日本漁業経済学会は10月8日、9日とオンライン形式(Zoom)で第50回札幌大会を開き、一般報告、総会、シンポジウムを通じて、地域漁業の振興、漁業経済的アプローチの大切さを改めて確認するとともに、国が進める水産政策の改革における資源管理の位置づけ、現状と課題を幅広く議論した。参加者は延べ90人を数え、シンポでは「新水産政策下におけるTAC制度の課題〜北海道漁業を事例に〜」をテーマに水産庁の見解を交え、各業界、試験研究の関係者が真剣な意見を交わし、現状と課題が浮き彫りにされた。
9日午後から開かれたシンポは、二平章会長が「いま北日本地域の漁業者は、改正された漁業法の新しい秩序の中で将来に不安を持っている。一つは地域漁業を守ってきた組織(漁協)と権利(漁業権)が縮小、弱体化しないか心配している。もう一つの疑問は、改正漁業法における資源管理がめざす沿岸魚種へのTAC拡大方針で、数量規制を中心とする方法、効果、実現性、信頼性は大丈夫なのか懸念される」と挨拶した。
次いで、コーディネーター・濱田武士理事(北海学園大)が趣旨説明を行い、「水産政策の改革」立案プロセス、そこから見える展望(漁船漁業の将来像)、TAC管理の特徴、政策推進の方法などを簡潔に整理し「北海道におけるTAC制度、資源管理の調整問題を対象に、政策の評価と課題を明らかにし、業界と行政にとって今後の筋道をつける機会になるよう期待する」と述べた。
このあと、「水産改革と資源管理」晝間信児氏(水産庁)、「北海道スタイルを目指した沿岸漁業の資源管理」本間靖敏氏(道漁連)、「北海道における沖合底びき網漁業の立場から」柳川延之氏(道機船連)、「北海道におけるTAC制度への今後の課題」石川傑氏(北海道)、「道央日本海〜オホーツク海海域のホッケの資源評価と管理」板谷和彦氏(道総研)と5つの報告を受け、コメント(水産北海道協会・上田克之)、水産庁の魚谷敏紀資源管理推進室長の捕捉説明などを交えて参加者との質疑応答を行った。
総合討論では、後藤友明氏(岩手大学)が新しい管理目標のベースにあるMSYの定義、新漁業法における位置づけを解説した上で「現行MSYがめざす方向性、TACの運用」という課題をあげ、「現場との信頼性は細かいやり取りから生まれる」と指摘した。
本間氏からは「漁業経営を維持しながら、公平な管理をすべきで、ステークホルダー会議で決定ではなく、その前に漁業者としっかり向き合い、意見を聞いてほしい」との注文がつき、柳川氏は「ホッケの管理目標も魚価や処理能力を考慮し現実的に考えるべきで、沿岸、沖合の実績、配分も変わっている。MSYは現場が肌で感じている資源管理と異なり、びっくりする。ホッケは良い勉強になるので、水産庁も参考にしてほしい」と提言した。水産庁も「ステークホルダー会議に入る前に漁業者と意見交換したい」「MSY自体は変えないが、漁獲シナリオで工夫できるし、踏み込んだやり取りを考えている」と柔軟な姿勢を強調した。
ホッケ(道北系群)資源に関して、板谷氏は「まだまだ親魚が足りない。かつての10万㌧を獲る方向ではなく、現状の3万㌧を少しでも上に上げたい」「ステークホルダー会議の前に、地域事情を考慮しどう獲っていくのか議論を積み上げる必要がある」と述べた。最後の後藤氏は「資源評価の公表からステークホルダー会議に至るプロセスが確立されていない。スケソウ、ホッケなど北海道の資源管理のプロセスは将来的に重要な取り組みとして注目したい」とまとめた。