バンコックの師範学校を卒業した ばかりの新米教師が、一般の温とはことな 自分の教師生命をふるさと東北タイの子 供たちとともに送りつつ、その一方でその村 を中心とする権力者 実力者の悪とたたか う映画でした。(この小説は井村文化事業社 から本がでています) ついでながら触れ ておきますが、この小説、映画は、いわゆる 七三年以降 七六年まで続いた労働者、農民 学生たちが自分たちの国をもう一度考えなお そうと立ちあがった「反省の郎」に書か れ、作られたものです。 中央の権力に抗して 地方のみなおしがおこなわれたころのもので す。 地方文化という時期のもので す。もし興味をもたれる方はどうか小説をお 読みください。
そのカラーでみる「グルー・パン・ノーク」 でだいたいのイサーンの景観のイメージを持 つこともできました。 水田といっても区 く、段々になっていて水はない。 やたらに 野井戸から水を運ぶ村人の木々が豊 にはえているのには小さい。 オートバイ ののあとは砂ぼこりが舞う。 ケーン (民族楽器)のうらがなしい調べ イメージとしては質素というより同然の貧困なくら しのイサーン、まだまだ権力者、有力者の横 行する社会というものでした。乾燥した台地 森林が群生し、天水のみにしがみついてわ ずかの天の恵みを奪い合っている、というも のでした。全くもって前途多難な農村社会と いう先入観を私の心に植えつけられたもので した。
もう一つ、「ここも同じタイなんだなあ」 という複雑な思いをしたことがあります。 は じめてタイに行った時の帰路、午後の便に乗 りました。 良く晴れていて、ドムアング空港 を飛びたってずっと、ヴェトナム近くまでく っきりといろんな景観が見えました。 飛びた ってしばらくは運河をみごとに利用した区画 整理のいきとどいた水田をもつデルタが広々 続いている光景でした。 ところが三十分も 過ぎたころでしょうか、 あのみごとな水田地帯 が姿を消して、一面やけただれたような 赤味の土がまだらにみえ、それと濃緑の丘、森の起伏のみの原野が広がっている景観にかわ ったのです。 「人工的」な水田に対し、「手のつけられない」荒野といった感じでした。 赤と緑のコントラスト、川と丘の高低の起伏、 そうした景観がモヤにりぶっているのを眼下にして「ここもタイなのか」と夢をみているような錯覚をおぼえたものでした。 「ただ今、高度・・・・・・ メーター、 ウボン上空を通過中であります」という機内放送がありました。ウポンとはタイの東北の国境の町です。
この荒涼とした地面にいったい人間が生息しているのだろうか? オオカミやサルやワニなどのみがわがものに楽園を巣づくっている世界ではなかろうか? そんなことを想像させる光景が続いていました。
ウボンのはずれには蛇行して流れる大河メ コンも見えました。水面がキラキラ輝いて、 その流れはそのままゆるやかにくねって天に つづいているのでした。ジャングルでもな い、森林地帯でもない、かといって砂漠でも ない、しかし人間の手のほどとしようのない 荒涼とした景観でありました。もし、そこに 人がいたとしても、その社会は自給自足的な 部族社会といったたぐいのものではなかろう か、なんて手に想像したものです。
「森に入る」という言葉も聞いていました。 タイにおける非合政治活動家たちが中央の 弾圧から逃れ、地下活動の舞台として東北タイ(北部、南部タイにもある)の森(ジャングル) の中に入ることをそう呼んでいるのです。イサーンの人々の生活の貧しさ、また反パンコ リックの感情といった土壌からある限定された 場所であるが彼等の活動を許容するところがあるようです。ヤオ、メオ族などの山岳民族 をもつ北部タイにも、マレー系の文化園を色濃く持つ南部タイにも、中央の手のとどきにくい地域に彼等の活動の拠点があるようです。 中央の国家権力のとどきにくい地域の一 つとして今でもこの「イサーン」の社会が存在しているんだなあ、と思ったものです。
メコン川を越えるとラオス、そのむこうにカンボジア、そしてヴェトナムといったイン ドンナの国々が隣り合っています。 私は今、現代史の悲劇の現場を一人の旅人として空から眺めていたものです。「あの赤ちゃけた 涼たる空間にいくたびの戦争が起こったこと に か….....」と恐ろしさまでもまじった気のひき しまる思いになったものでした。 直接的には イサーンとは関係ないかもしれませんが、そうしたインドシナ情勢がダブルイメージとし てふりかかってきました。
タイの生きとし生ける人々をさらに深く知るためには、いつの日か、こうした地上にお りて道なき道を一度歩いてみたいものだ、と と思ったことでした。以上のようなロマンチックな思いから、厳しい現実の世界まで、断片にすぎないけれど もバラィティに富んだ私の「イサーン」に対 するイメージがこの自分の目でみたいという 欲求をかきたてたのも事実です。
「イサーン」へ旅立つ前に今の機会に今少 し 「イサーン」について書きとめておきたい と思います。
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