20代ももうすぐ終わろうとしていた。
仕事にも東京での暮らしにも慣れてきた。
学生時代からの遠距離恋愛は四年も過ぎてそろそろ身を固めるかと思っていた。
永すぎた春ではないが上手くいかなかった。彼女はバツ1がトラウマでもう一生結婚はしない方がいいと思っていたみたいだ。
そんな時、誰も知らないバンドで
『スピッツ』の1stシングル『ヒバリのこころ』をふとラジオから聴いて気に入った。
1991年の頃だろうか。
4枚目のアルバム『クリスピー』まで全然売れなくて、それでも面白い詩を書くし不思議なメロディで思わず口ずさんでしまうし、周りの誰も知らないスピッツをひそかに聴いていた。
6枚目のアルバム『はちみつ』まで試行錯誤のインディーズ時代から7年間くらいだろうか。TV主題歌の『空も飛べるはず』でプチブレイクして、『ロビンソン』が発表され衝撃受けて、やはり大ヒットしてしまった。
この草野正宗という人は実に不思議なアーティストだ。内面にはすごい情熱秘めているのだがとてもシャイで不器用さを自身がよく理解している。
物事の仕組みを両面から見抜いている。
真面目にズルく生きるような軽さに憧れながらも繊細な神経で大胆になりきれない。
彼が20代前半のインディーズ時代に創作した名曲が沢山ある。ザブルーハーツ目指して真似てみたが全然ダメで、当時全盛だった日本パンクロックの影響受けて変な曲も描いていた。
時代の流行りから決別して自身の描きたいまま2nd、3rdアルバムへと突き進むところが特に面白かった。2nd名前をつけてやるはシュールさ(超現実主義)では群を抜いている。3rd惑星のかけらはロックになりきれない半端さが半端なく面白い。
4thクリスピーと5th空の飛び方で今のスピッツの原型ができたと思う。
君が思い出になる前にとか黒い翼とか名曲だ。空も飛べるはずは本当にロングセラーでスピッツらしい暗さと希望のある歌いやすい曲だ。
ここまで世の中に認知されず売れないバンドのスピッツが1987から1993までの初期だと思う。1994に発売されたロビンソンには身震いがするほど感動した。
何度聴いても青春の情景が浮かび夢と希望を感じさせてくれる凄い威力あるJPOPだ。サビのキーが非常に高いのに力まないでサラリと歌ってしまうマサムネの歌唱力にも恐れ入った。
世の中に認知されてブレイクすると不思議なもので自分からどんどん離れていってしまうような気がして嬉しい反面さみしかった。
マサムネがブルーハーツ甲本ヒロトに憧れその天才ぶりに絶望したスピッツ初期から30年。
ブルーハーツは10年で解散し、ヒロトは好きな音楽を細々と真島とともに歩んだ。それに比較してやりたい音楽をやり続けたスピッツはもうとっくに伝説のバンドブルーハーツをいろんな意味で超えたと思う。
泥にまみれて醒めない熱でやり続ける凄さがスピッツにはある。平凡さもやり続ければ非凡になる。この10年くらいのスピッツは何故かリピートして何度も聴けない。
彼らももう51歳だ。
50代のおじさんがいつまで走り続けるのか、こちらも還暦過ぎてもじじぃになってもスピッツを聴き続ける。追っかける。