湖水地方の滞在先にコニストン湖を選んだのは偶然だった。
本当は、ウィンダミア湖のあたりにしたかったのだけれど、手頃なコテッジがなかったのだ。
ウィンダミア湖にしたかったのには、理由がある。
子供の頃興奮して読んだアーサーランサムの「ツバメ号とアマゾン号」の舞台だったからだ。
訳者の神宮輝夫さんがあとがきで舞台はイギリス北部の湖水地方ウィンダミア湖と書いていたのがずっと心に残っていた。
イギリスにいた時もウィンダミア湖に足を運んだ。
コニストン湖?ま、ウィンダミアに近いし、いいか。
せっかくだから「ツバメ号」シリーズ全巻持って行って読もう。
重いので我が家にある岩波のハードカバーではなく、新書版を新たに買い揃えてイギリスに来た。
コニストン湖の遊覧船に乗ろうとすると
「ツバメ号とアマゾン号コース ヤマネコ島」とある。
えー???
ツーリストインフォメーションには、ツバメ号とアマゾン号の本も置いてある。
「ヤマネコ島はコニストン湖にあるの?」
「そうだよ。私が生まれたところは、ツバメ号と伝書鳩に出てくる街さ」とインフォメーションのおじさん。
私が持っていたツバメ号の本を見せると、嬉しそう。
ひとしきりその話で盛り上がった。
コテッジに帰って新書本を見てみると追加されたあとがきに
「舞台は湖水地方のコニストン湖」と書かれている。
これを運命と言わずして何を運命という。
しかも地元の博物館では著者のアーサーランサム展がたまたま開催中。
感激で一人涙がにじむ。
コテッジの窓から見えるコニストンオールドマンが「ツバメの谷」に出てくるカンチェンジュンガとわかった時には、昨日までと違った山になってしまった。
「ツバメ号とアマゾン号」はアーサーランサムが書いた子供向けの小説。
全部で12巻から成る。19カ国で翻訳されている児童文学の古典だ。
全巻が翻訳されたのは、日本だけ。神宮輝夫さんありがとう。
アーサーランサムは1884年にイギリスのリーズに生まれ、子供の頃夏休みを湖水地方で過ごす。
その後、戦争記者になりあちこちを転々としたあと、ロシア革命時にロシアですごす。
レーニンの秘書と結婚したとランサム展では書いてあった。
第一回のカーネギー賞受賞者でもある。
なんとMI6(イギリスの諜報機関 ジェームスボンドね)にも所属していた。
45歳で「ツバメ号とアマゾン号」を書く。
登場人物の子供達の個性が生き生きと描かれ、100年経った今でも色あせない。
イギリスにはアーサーランサム協会もあって、根強いファンに支えられている。
日本からもランサムサーガに惹かれて湖水地方を巡礼する人も多い。
当然乗りましたよ遊覧船「ツバメ号コース」。
ガイドは日本でオペラ歌手をやっていて日本語も少し話せるというロバート。
これが、ハリハウ。
フリント船長の屋形船。
実はVictorianスチームゴンドラだけど、まさにこんなだったそうな。
ベックフット。
宝物を見つけたウの島
馬蹄湾。右の岩がジョンがツバメ号をナンパさせた岩。
そしてヤマネコ島。
秘密の港が見える。
今日は、誰かが停泊していて全然秘密じゃないけどねとロバート。
ツバメの谷。
ズボン破りの坂。
そして、カンチェンジュンガ。
アマゾン川の河口。
アマゾン号が隠れた葦の原。
これで身悶えするのは、ランサムファンだけっていうのはわかっているけど書かずにはいられない。
ロバートは他の乗客には内緒で、彼が集めている世界中のツバメ号の本のリストを見せてくれた。
日本の本も半分揃っている。
スウェーデンのを手に入れるのが難しいんだよね。
私が、日本に帰る時には、私の持ってきた本を全部送るね。
重いから持って帰るのも無駄だし、捨てて帰るのも残念。
私の本が一番喜ぶ完璧な貰い主を見つけたよ。
というと嬉しそうに住所をくれた。
待っててねロバート。
まだ、ノーフォークの湖沼地方で、残りの半分を読まなきゃならないから。
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