先週、恒例の在宅皮膚科医会主催の勉強会に行ってきました。
今回のテーマはフットケアと末梢血管障害に分かれていて、とにかく足についてたくさんお勉強をしてきました。
その中でも、神戸医科大学形成外科の寺師浩人先生の末梢血行障害のお話は、目からウロコのお話だったので、ご紹介します。
足の先端や踵が紫色になって、やがて黒くなって腐っていく・・。
こういう病変の原因は、糖尿病が原因だったり、踵などは褥瘡だったり、冬場などは動脈硬化による血流障害だったりします。
今回は、この末梢血行障害の専門的かつ最新のお話でした。
こういう足の病変を見たときに、まず考えるのはこれが褥瘡なのか、重症下肢虚血なのかの判別が、その後の明暗を分けるのだということでした。
その前に、今まで私たちはそう言う末梢の動脈閉塞に伴う足先の病変をASOと呼んでいました。
ASO 閉塞性動脈硬化症
ところが、この呼び方がまかり通っているのは日本だけなのだそうで、世界的に通じる疾患名は、末梢動脈性疾患PADなのだそうです。
そして、そのなかで重症の下肢虚血がCLIと言われています。
そうか、ASOとはもう言わないんだ~。でも、ネットなどではASOで検索したほうが圧倒的に出てきます。
でも、専門医療機関だとやはり「PADとは・・」に変わっていました。
話を戻します。
この説明に入って最初のスライドは、禿げたおじさんの頭のカサブタでした。
何故、ツルツルに禿げたおじさんの頭の傷が治りにくいか・・。
その訳は、傷は毛根から上皮化するからだそうで、禿げてしまうと毛根がないので、産毛とかからそろそろと治ってくるので、なかなか治らないのだそうです。
反対に足の底はエクリン汗腺から上皮化するそうで、糖尿病などで自律神経障害を合併すると汗をかかなくなって、ドライになってやはり上皮化しにくくなるのだそうです。
褥瘡であれば、環境を整え除圧、栄養、外科処置をおこなうことで、上皮がが正常に行われるわけです。
でも、CLIなのに、褥瘡と同じ外科処置を行ったら、血流がないのに新たに傷をつけるので、そこからどんどん壊死が進行して、あっという間に切断する羽目になったりします。
なので、そこの鑑別診断が最も重要となるのです。
病院であれば、ドップラーによる血流の確認ができるし、ABI,SPPなのどの血流検査ができるので確定できるのですが、在宅はそんなものはないので、所見で判断するしかありません。
どこを見るか。
1)下肢の動脈を触知する。必ず両足。
大腿動脈から始まり膝窩動脈、足背動脈そして一番重要なのが後脛骨動脈です。
後脛骨動脈が足首から下の血管の元なので、これが触れればCLIではないですし、足背動脈が触れていても、後脛骨動脈が触れなければCLIということになります。
2)痛み。
CLIは、激しい痛みを伴います。
そりゃあそうです。血流が止まってしまって、そこから先が腐っていくわけですから、輪ゴムをぐるぐる巻きにしているようなもんですよね。
間歇性跛行と言って、歩いていると痛みで足を引きずってしまいます。
特徴的なのは、足を下げると痛みが緩和し、上げると痛みます。
3)Red Ring Sign
踵の褥瘡かな??と思っているとそうじゃないのが良くわかります。
中心に白い壊死した部分があり、その周囲が輪っかのように綺麗な赤いふちどりになっています。けれど、それは毛細血管が充血して見えているだけで、よく見ると肉芽がありません。
褥瘡だと、白色壊死組織とか黒色壊死組織とかはあっても、その周囲の赤いところには、プツプツと肉芽が存在します。
たぶん、普段そう言う足の創を見慣れている方は「あれか!」とわかると思います。
この3点で、即デブリをしても良い褥瘡なのか、絶対いじっちゃいけないCLIなのかを判別するのです。
肉芽がある=血流がある=褥瘡 なのです。
その他にも、CLIは皮膚が冷たい、毛が生えていない、変形がない、皮膚が平滑でテカテカしている、足の指と踵が高発部位、慢性的で重篤な感染がないなどが挙げられていました。
CLIであれば、まずは血流を再建しなければ、創は治らないばかりか悪化の一途をたどるのです。
最近、問題になっているのは術後のバンテージやストッキングです。
血栓予防でとても重要なツールですし、下肢のリンパ浮腫でも使われます。
しかし、きちんと既往歴などを確認しないと、ものの数時間で下肢の壊死を招くことがあるのだそうです。
全身の重度の動脈硬化、血管の石灰化などがベースにあると、ただでさえ血流は悪くなっています。そこにもってきて平均15~20mmhgと言われるストッキングを履いたらどうなるかということです。
これはSSPという皮膚還流圧を測ると明確になるようですが、在宅にはありませんから全身の血流の状況で判断しないといけないですね。
ちなみに、心臓や血管のOPE後などに、急に足先が紫色になり、激しい痛みを訴えた場合、コレステリン結晶塞栓症を疑がわなくてはいけません。
足先が紫色で大理石みたいにムラムラした模様になり、これをBlue Tou Syndrome というそうです。
これに関しては、現状でも皮膚生検をして確定診断をすることが多いそうですが、寺師先生は生検は禁忌!と言っていました。
病院医師からは、今でもやっているし大丈夫だ、という反論もありましたが、10人中1人でもそのリスクがあるのなら、絶対やめるべきだと言っていました。
なるほどー。
CLIの診断が付けば、寺師先生はステロイドを開始し、血流障害の原因がわかれば再建術をしてから、創の治療を開始するのだそうです。
その間壊死した足先はドライになっていきますし、血流が回復すれば指先も自然脱落するそうです。血流があるから自然脱落は起こるのだということでした。
そして、最後に一番みんながざわついたこと。
「腱や腱膜に達した創は、入浴も足浴も禁」だと言うのです。
シャワーで流すのはいいが、水圧がかかり腱に沿って細菌感染が広がるということでした。
これは寝耳に水でした。
今までもずっと足浴や入浴は進めてきただけにびっくりです。
やはり医師からも疑問だという意見が出ましたが、これも「ほとんどの人が改善しても、そういうリスクがわずかでもあれば、それはNOなのである。」との見解を崩しませんでした。
褥瘡も最近入浴禁止という説もあるそうで、うーんこれはどっちなんだろうか〜。
現場経験では、ほとんどの患者さんが褥瘡でもCLIで炭酸浴で著しく改善してきましたし、昨年の形成外科の勉強会では、その先生もエビデンスがある!炭酸浴は効果がある!って言っていましたから、この話で全部やめちゃう気にはなりませんでした。
ただ、今後腱の露出した創に関しては、医師と十分に相談していきたいと思っています。
時期としては、PADまっさかりの冬なので、皆様足先に十分注意してください。
後脛骨動脈触知をお忘れなく。
今回のテーマはフットケアと末梢血管障害に分かれていて、とにかく足についてたくさんお勉強をしてきました。
その中でも、神戸医科大学形成外科の寺師浩人先生の末梢血行障害のお話は、目からウロコのお話だったので、ご紹介します。
足の先端や踵が紫色になって、やがて黒くなって腐っていく・・。
こういう病変の原因は、糖尿病が原因だったり、踵などは褥瘡だったり、冬場などは動脈硬化による血流障害だったりします。
今回は、この末梢血行障害の専門的かつ最新のお話でした。
こういう足の病変を見たときに、まず考えるのはこれが褥瘡なのか、重症下肢虚血なのかの判別が、その後の明暗を分けるのだということでした。
その前に、今まで私たちはそう言う末梢の動脈閉塞に伴う足先の病変をASOと呼んでいました。
ASO 閉塞性動脈硬化症
ところが、この呼び方がまかり通っているのは日本だけなのだそうで、世界的に通じる疾患名は、末梢動脈性疾患PADなのだそうです。
そして、そのなかで重症の下肢虚血がCLIと言われています。
そうか、ASOとはもう言わないんだ~。でも、ネットなどではASOで検索したほうが圧倒的に出てきます。
でも、専門医療機関だとやはり「PADとは・・」に変わっていました。
話を戻します。
この説明に入って最初のスライドは、禿げたおじさんの頭のカサブタでした。
何故、ツルツルに禿げたおじさんの頭の傷が治りにくいか・・。
その訳は、傷は毛根から上皮化するからだそうで、禿げてしまうと毛根がないので、産毛とかからそろそろと治ってくるので、なかなか治らないのだそうです。
反対に足の底はエクリン汗腺から上皮化するそうで、糖尿病などで自律神経障害を合併すると汗をかかなくなって、ドライになってやはり上皮化しにくくなるのだそうです。
褥瘡であれば、環境を整え除圧、栄養、外科処置をおこなうことで、上皮がが正常に行われるわけです。
でも、CLIなのに、褥瘡と同じ外科処置を行ったら、血流がないのに新たに傷をつけるので、そこからどんどん壊死が進行して、あっという間に切断する羽目になったりします。
なので、そこの鑑別診断が最も重要となるのです。
病院であれば、ドップラーによる血流の確認ができるし、ABI,SPPなのどの血流検査ができるので確定できるのですが、在宅はそんなものはないので、所見で判断するしかありません。
どこを見るか。
1)下肢の動脈を触知する。必ず両足。
大腿動脈から始まり膝窩動脈、足背動脈そして一番重要なのが後脛骨動脈です。
後脛骨動脈が足首から下の血管の元なので、これが触れればCLIではないですし、足背動脈が触れていても、後脛骨動脈が触れなければCLIということになります。
2)痛み。
CLIは、激しい痛みを伴います。
そりゃあそうです。血流が止まってしまって、そこから先が腐っていくわけですから、輪ゴムをぐるぐる巻きにしているようなもんですよね。
間歇性跛行と言って、歩いていると痛みで足を引きずってしまいます。
特徴的なのは、足を下げると痛みが緩和し、上げると痛みます。
3)Red Ring Sign
踵の褥瘡かな??と思っているとそうじゃないのが良くわかります。
中心に白い壊死した部分があり、その周囲が輪っかのように綺麗な赤いふちどりになっています。けれど、それは毛細血管が充血して見えているだけで、よく見ると肉芽がありません。
褥瘡だと、白色壊死組織とか黒色壊死組織とかはあっても、その周囲の赤いところには、プツプツと肉芽が存在します。
たぶん、普段そう言う足の創を見慣れている方は「あれか!」とわかると思います。
この3点で、即デブリをしても良い褥瘡なのか、絶対いじっちゃいけないCLIなのかを判別するのです。
肉芽がある=血流がある=褥瘡 なのです。
その他にも、CLIは皮膚が冷たい、毛が生えていない、変形がない、皮膚が平滑でテカテカしている、足の指と踵が高発部位、慢性的で重篤な感染がないなどが挙げられていました。
CLIであれば、まずは血流を再建しなければ、創は治らないばかりか悪化の一途をたどるのです。
最近、問題になっているのは術後のバンテージやストッキングです。
血栓予防でとても重要なツールですし、下肢のリンパ浮腫でも使われます。
しかし、きちんと既往歴などを確認しないと、ものの数時間で下肢の壊死を招くことがあるのだそうです。
全身の重度の動脈硬化、血管の石灰化などがベースにあると、ただでさえ血流は悪くなっています。そこにもってきて平均15~20mmhgと言われるストッキングを履いたらどうなるかということです。
これはSSPという皮膚還流圧を測ると明確になるようですが、在宅にはありませんから全身の血流の状況で判断しないといけないですね。
ちなみに、心臓や血管のOPE後などに、急に足先が紫色になり、激しい痛みを訴えた場合、コレステリン結晶塞栓症を疑がわなくてはいけません。
足先が紫色で大理石みたいにムラムラした模様になり、これをBlue Tou Syndrome というそうです。
これに関しては、現状でも皮膚生検をして確定診断をすることが多いそうですが、寺師先生は生検は禁忌!と言っていました。
病院医師からは、今でもやっているし大丈夫だ、という反論もありましたが、10人中1人でもそのリスクがあるのなら、絶対やめるべきだと言っていました。
なるほどー。
CLIの診断が付けば、寺師先生はステロイドを開始し、血流障害の原因がわかれば再建術をしてから、創の治療を開始するのだそうです。
その間壊死した足先はドライになっていきますし、血流が回復すれば指先も自然脱落するそうです。血流があるから自然脱落は起こるのだということでした。
そして、最後に一番みんながざわついたこと。
「腱や腱膜に達した創は、入浴も足浴も禁」だと言うのです。
シャワーで流すのはいいが、水圧がかかり腱に沿って細菌感染が広がるということでした。
これは寝耳に水でした。
今までもずっと足浴や入浴は進めてきただけにびっくりです。
やはり医師からも疑問だという意見が出ましたが、これも「ほとんどの人が改善しても、そういうリスクがわずかでもあれば、それはNOなのである。」との見解を崩しませんでした。
褥瘡も最近入浴禁止という説もあるそうで、うーんこれはどっちなんだろうか〜。
現場経験では、ほとんどの患者さんが褥瘡でもCLIで炭酸浴で著しく改善してきましたし、昨年の形成外科の勉強会では、その先生もエビデンスがある!炭酸浴は効果がある!って言っていましたから、この話で全部やめちゃう気にはなりませんでした。
ただ、今後腱の露出した創に関しては、医師と十分に相談していきたいと思っています。
時期としては、PADまっさかりの冬なので、皆様足先に十分注意してください。
後脛骨動脈触知をお忘れなく。