パンデミックのとき以来、久々の噂カテゴリー。噂研究の抄読です。
オルポート&ポストマン「デマの心理学」(南博訳 岩波書店)。
この本は、噂研究の古典的基本、ベーシックの本です。医学生にとっての「朝倉の内科学」みたいな本。2008年10月に岩波モダンクラシックシリーズから再版されまして、これはありがたいことです。
今回は「歪みの基本形」。
流言が人の口から口へと伝わってゆくなかで、中身が変わってゆくことはよく知られたところです。
では、どのように変わってゆくのか、歪みのパターン3つ。
- 平均化
かねがね抱いている考え方、偏見、先入観がはいり、これらに合わない部分がそぎ落とされてしまう。「知覚には、想像や価値づけや判断の始まりがもつれあっている(バートレット)」 - 強調
1.とは逆に、ある部分が強調され重要さを与えられる。ある細部を選んで、それを強調するころにより、最終的な話に誇張された劇的な性質を与える。 - 同化
人々のもっている通念に沿うように変化する。
たとえば、こんな例。
原子力発電では色々あって誤解しそうだから、仮に「カスミ力発電(カスミを食って生きてく・・・のカスミ)」なるもので想像しましょう。
ニッポン第一カスミ力発電所がオープン。原発100基分の電力が100分の1のコストで発電できます(カスミですから)。CO2ひとつ出さず、1年365日トラブルなく動いています。作業員クマゴロウ氏は敷地内豪華な当直室で優雅な勤務が気に入り飲み仲間に自慢。今回は勤務明けの時間をレクリエーションセンターで次の日までまったりと。
でもその日、近所の飲み仲間ノンベエさん曰く、
「あの発電所の作業員クマゴロウ氏、仕事に入ったの見たけど、それから見んなあ。携帯にかけても出ん。こりゃあ大変じゃ。カスミが渦を巻いてカスミ波にやられてしもうかんかいのう。調べてくれよ記者さん!」
偏見:新しいパワーは何か危ない。何かよくわからん。不気味だ。
平均化:安全で無害(そりゃカスミですから)、優雅な勤務という、飲み仲間の話は記憶からウサンムショウ。
強調:連絡がつかんという事がいつの間にか中心に。(世の中、携帯かけ放題の職場なんてそう多くなかろうに・・・とは考えない)
同化:あたらしい発電はアヤシイ。××電力の勤務環境は劣悪である。作業員見殺しあり。という通念に沿って話は変化してゆく・・・