ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

181. 空き地の子猫

2021-11-01 | 風物

 

 以前は20匹ほどいた空き地のネコたちはいつの間にかどんどん姿を消して、メスの黒猫が一匹だけ残っていた。ところがその一匹も姿が見えなくなったと思っていたら、しばらくして子猫を2匹連れて戻って来た。どこかに隠れて子猫を生んでいたのだ。

 子猫は黒と薄茶で、2匹で元気よく遊んでいた。どちらかというと黒猫の方が力強いし、薄茶の方は少しおとなしい。黒猫はオスで、薄茶はメスかもしれない。とにかく空き地の猫は一匹しかいなかったのが3匹に増えて良かった。これで空き地も少し賑やかになるだろう。しかし安心してはいられなかった。おとなしい薄茶の子猫がいつのまにかいなくなった。このごろ空き地の上空にはカラスの一家が飛び回り、ときどき猛禽類も姿を現す。小さな子猫は簡単に捕まってしまうだろう。それとも人間に捕獲されたのかもしれない。

 

 周りのマンションには猫を飼っている家が多い。そうした猫たちは空き地で見かけたような猫が何匹もいる。模様のきれいな猫が引き取られているようだ。捕獲者は向かいのマンションの一階に住む男性。彼は朝出勤前に固形の餌を庭先に置く。すると待ち構えていた猫たちはいっせいに集まって来る。多い時は4か所に餌を置くから、餌代も大変だろう。その上、猫たちが食べている最中に鳩たちが寄って来て横取りしようとする。厚かましい鳩たちだが、猫たちはおとなしい。

 夢中で食べている猫の上から捕獲者が段ボールをすばやく被せると、動きの鈍い子猫は捕まってしまう。そうして周りの子猫希望者のもとに配られるのだ。引き取られた猫ははたして幸せかどうかわからないが、家の中の窓際に座ってずっと外を眺めている。衣食住は満たされているが、肝心の自由がないからうつ病にならないか心配だ。

 

 野生の猫はたっぷり自由がある。しかし自活で生きるのは大変だ。

 数年前、黒茶まだらの猫が子猫を6匹連れて来た。空き地デビューだ。6匹もいると賑やかで子猫どうしで追っかけをしたり、取っ組み合いをしたり。その中に黄色い縞々の子猫がいた。6匹の中で一番身体が大きい。運動能力も抜群で、木の枝に飛びついて身体をぶらぶら揺らしたりしている。どうやら雄猫らしいから、名前をつけることにした。映画「大脱走」のスティーブ・マクイ―ンなどはどうだろうか。黄色の猫だからマキーイン、それがなまってマキィ―ン、もうひとつなまってマッキィ。

 

 マッキィといつもいっしょにいる猫がいる。黒と白のきれいな猫。おっとりとした猫で、たぶん雌猫だろう。マッキィの妹みたいだから名前は「イモト」と名付けた。と言っても、我が家のキッチンから眺めている私は彼らに触ることはできない。ただ見守るだけだ。

 夏になると餌をくれる男性の庭では上に金網を張り、その上に寒冷紗を張って夏のひざしを防いでいる。マッキィはそこにするすると上がって寝ころがる。風が下から吹き上げてずいぶん気持ち良さそうだ。イモトも羨ましそうに下から見上げているが自分では登って行けない。マッキィは大得意で身体を揺さぶり嬉しそうに大笑い。そこがずいぶん気に入った様で、餌が出て来ても降りて行かないほど。

 

 元気で活発だったマッキィが成長するにつれてなんだかおとなしい猫になってきた。餌の時間になっても自分より小さな猫たちに遠慮して、彼らが食べ終わるのを待っている。いったい何があったのだろう。身体は大きいのに、気が小さくなってしまった。

 思い当たるのはひとつだけ。空き地の外から見るからに獰猛そうな大きな雄猫が時々姿を現すようになった。顔は傷だらけで気が荒そうな猫だ。ある日、マッキィはその猫に押さえつけられてじっと耐えていたが、すきを見て脱兎のごとく逃げ出した。その時から急に気弱な猫になってしまったようだ。自分が強い雄猫ではないと自覚したらしい。

 マッキィの姿はしだいに見えなくなった。ある時は北側の屋敷の庭にいて、そこの女主人に追い出されてすごすごと逃げて行った。ある日は北側のホテルから出てきた姿を見た。ホテルでなにか食べ物を貰ったらしい。私も乾いた猫の餌をスーパーで一袋買って来て3階からマッキィの姿を見つけては投げ与えたことがあるのだが、その音に怯えて餌を食べずにどこかへ行ってしまった。

 その後、姿を見かけたことはない。どこに行ってしまったのか?

 どこかで無事に生きていてくれたら良いが。 MUZ 2021/10/31

 

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