43.
そんな根暗な思考回路から抜け出し、視点を転換したいとき、私が思い出すようにしているのが河合隼雄氏*の言葉だ。2005年4月末、ある福祉のTV番組で氏がうつ病について語っていた内容がとても印象的で励みにもなったので、ここに紹介させていただく。長年臨床心理学のカウンセラーとして心の病を背負った人に接してきた河合氏の言葉は、患者本人にも、その周りの人間にも、とても参考になると思う。
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うつ病とは、本来は創造力のある人が心のエネルギーの行き場を失った状態であり、その意味で“クリエイティブ イルネス(creative illness)”だと言える。ゆえに、一旦行き場を失ってしまったエネルギーが再び行き場を見つけたとき、クリエイティブな方向に再び浮上できる。
しかし、がんばり過ぎた結果がうつ病なのだから、鬱に追い込まれた環境にそのままいる限り、それ以上もがいても浮上するのはむずかしい。違った状況に立ってみることが大事だ。
現在日本の社会では、確かにうつ病患者が増えている。社会全体がうつ状態になっているともいえる。文化庁庁官を引き受けたのは、社会全体のうつ状態をなんとかできないかという思いがあってのことだ。経済で行き詰まった日本の社会が、経済界だけでもがいていても力を回復できない。文化に目を向けてみるのも大事ではないかと思った。「もうかりまっか?」よりも「楽しんでまっか?」にしよう。
うつ病患者に接するカウンセラーは、励ますのではなく、「大変だね。辛いね」と一緒に沈んでやるのが良い。一緒に浮上するのには時間がかかるが、絶対に希望を捨てないでいれば辛抱できる。患者やその家族へのメッセージとしては、「希望を持って待とう!」だ。
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河合氏と私とを結んでくれたのは、氏の長年のファンだった高校の同級生のPさんが、氏の著書を勧めてくれたことがきっかけだった。まだ私が発病する以前のことだ。治療の副作用に苦しみ、自分の思考回路の中で堂々巡りに陥ってしんどかったとき、ふと河合氏の言葉を思い出させてくれたのも、実は彼女だった。「Good Job ノート」を記し始めた当時、その存在を家族や友人には言えないでいたのに、なぜか彼女にはすんなりメールで伝えられた。すると彼女はこう言ってくれた。「えつこさんは、そうやってちゃんとセルフカウンセリングしているんですよ」と。「弱いときがあったっていいじゃないですか。弱っている自分でもいいじゃないですか」と…。たったその一言で私はとても救われた気持ちになり、背中をぐっと押し出されるような気がした。―そうか、根暗でもいいんだ、自分で自分を癒してるんだ、これでいいんだ…― そう思えた。
* 河合隼雄氏
残念ながら、河合氏は1年近い昏睡状態の末、2007年7月19日に永眠されました。心よりご冥福をお祈りいたします。
そんな根暗な思考回路から抜け出し、視点を転換したいとき、私が思い出すようにしているのが河合隼雄氏*の言葉だ。2005年4月末、ある福祉のTV番組で氏がうつ病について語っていた内容がとても印象的で励みにもなったので、ここに紹介させていただく。長年臨床心理学のカウンセラーとして心の病を背負った人に接してきた河合氏の言葉は、患者本人にも、その周りの人間にも、とても参考になると思う。
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うつ病とは、本来は創造力のある人が心のエネルギーの行き場を失った状態であり、その意味で“クリエイティブ イルネス(creative illness)”だと言える。ゆえに、一旦行き場を失ってしまったエネルギーが再び行き場を見つけたとき、クリエイティブな方向に再び浮上できる。
しかし、がんばり過ぎた結果がうつ病なのだから、鬱に追い込まれた環境にそのままいる限り、それ以上もがいても浮上するのはむずかしい。違った状況に立ってみることが大事だ。
現在日本の社会では、確かにうつ病患者が増えている。社会全体がうつ状態になっているともいえる。文化庁庁官を引き受けたのは、社会全体のうつ状態をなんとかできないかという思いがあってのことだ。経済で行き詰まった日本の社会が、経済界だけでもがいていても力を回復できない。文化に目を向けてみるのも大事ではないかと思った。「もうかりまっか?」よりも「楽しんでまっか?」にしよう。
うつ病患者に接するカウンセラーは、励ますのではなく、「大変だね。辛いね」と一緒に沈んでやるのが良い。一緒に浮上するのには時間がかかるが、絶対に希望を捨てないでいれば辛抱できる。患者やその家族へのメッセージとしては、「希望を持って待とう!」だ。
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河合氏と私とを結んでくれたのは、氏の長年のファンだった高校の同級生のPさんが、氏の著書を勧めてくれたことがきっかけだった。まだ私が発病する以前のことだ。治療の副作用に苦しみ、自分の思考回路の中で堂々巡りに陥ってしんどかったとき、ふと河合氏の言葉を思い出させてくれたのも、実は彼女だった。「Good Job ノート」を記し始めた当時、その存在を家族や友人には言えないでいたのに、なぜか彼女にはすんなりメールで伝えられた。すると彼女はこう言ってくれた。「えつこさんは、そうやってちゃんとセルフカウンセリングしているんですよ」と。「弱いときがあったっていいじゃないですか。弱っている自分でもいいじゃないですか」と…。たったその一言で私はとても救われた気持ちになり、背中をぐっと押し出されるような気がした。―そうか、根暗でもいいんだ、自分で自分を癒してるんだ、これでいいんだ…― そう思えた。
* 河合隼雄氏
残念ながら、河合氏は1年近い昏睡状態の末、2007年7月19日に永眠されました。心よりご冥福をお祈りいたします。