えつこのマンマダイアリー

♪東京の田舎でのスローライフ...病気とも仲良く...
ありのままに、ユーモラスに......♪

第2章 怒涛の日々 5.

2007年04月14日 | 乳がん闘病記
5.
 「僕がいたって、何も変わらないじゃないか………」
 この一言で、それまで、宣告を受けてからそれまで、家族の前でも妹の手前も懸命にこらえていた涙が、堰を切って流れ出した。息子の前でも何でも、一度流れ出したらもう止めることはできなかった。キッチンに座り込んで、子供のようにしゃくり上げて泣いてしまった。
 ―私が今一番必要としているのはあなたなのよ。あなたがそばにいてくれるだけでいいの…たとえ何もしてくれなくても、そばにいてくれるだけでいいの…なのに、なぜそれをわかってくれないの……?『僕がいるから大丈夫だよ』って、なぜ言ってくれないの………?―
 
 それまで私が気丈にふるまってきたのは、第一には自分自身の冷静さを保つためだった。一度くじけたら、二度と奮い立てなくなるのではないかと怖かったからだ。でも、それより何より、家族の気持ちの負担を考えてのことでもあった。「自分の身に起こったことでよかった」と心から思った意味を裏返して考えれば、今一番辛いのは私ではなく、夫や子供たちだということだ。それがわかっていたからこそ、気丈にふるまってきたのだ。

 わかっていたはずなのに、私は夫を追い詰めてしまった。彼が、いつも冷静な彼が、血相を変えて暴言を吐いたのは、おそらくそういうことだったのだろう。自分の意思ではいかんともしがたい状況に、彼は誰よりも苛立ちや無力感を感じていたのかもしれない。「自分がしっかりして支えてやらなければならない」と自分に言い聞かせているのは、他ならない彼なのかもしれないのだから。そして、いまだ現実に順応できないでいるのは、当人の私より彼の方なのかもしれなかった。私は泣きながらそう悟っていた。

 夫をそこまで追い詰めてしまった自分が情けなかったり、哀しかったり、逆にかわいそうだったり、でもやはり限りなく心細かったりして、涙はいつまでも枯れなかった。夫にも申し訳なくて、さめざめといつまでも泣いた。そして、告知以来初めて、心がぎゅっとしぼんでしまうような冷たい孤独感を、ひしひしと味わっていた。

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