えつこのマンマダイアリー

♪東京の田舎でのスローライフ...病気とも仲良く...ありのままに、ユーモラスに......♪

第6章 ホルモン療法 5.

2007年08月27日 | 乳がん闘病記
5.
 自分のこんな状態を、家族にも決して言えなかった。妹にも言えなかった。心配をかけたくなかったのだ。がんになっただけでも充分心配かけているのに、さらに頭までがおかしくなっているなんて、どうして言えようか…。必死にそぶりを隠し、悟られないようにした。そのために、人前では無理やりテンションを上げ、集中力を限界まで高めなければならなかったので、その不自然さがわかる人にはわかったかもしれない。そして、一人になると異様な疲れを覚えた。

 おそらく家族には悟られずにすんでいたと思うが、あるとき私は同級生相手に一大失態を演じてしまう。麻酔科医であるE君にメールを出すときに、誤って同窓会幹事のメーリングリスト宛てに送ってしまったのだ。メーリングリストに登録してある30名ほどの幹事全員に、プライベートなメールが送られてしまったわけだ。そこには、「放射線治療」「主治医」「カンファレンス」のような、がん治療が容易に連想される記述があったので、大概の人はそれらのキーワードとがんを結びつけたに違いない。
 もちろん、病気を隠さないで必要に応じて公表していくことを、私は手術前から決めてはいたが、誰にもかれにも吹聴するつもりは毛頭なかった。さすがの私もこれには衝撃を受けた。これほどまでに集中力が低下しているとは…。

 そこで、いつも上手に話を聞いてくれる親友のAさんに、これらの精神的、神経的症状について思い切って打ち明けてみた。このメーリングリストに彼女も入っているから、この失態のことも彼女は知っていたからだ。でも、同じ病気の経験もなければ、まだ更年期の症状を感じたこともないと言う彼女は、「そんなことってあるぅ?」と半信半疑だ。「あのメールを間違って送っちゃったのも、そのせいだってぇ?」と笑っている。無理もない。本人の私でさえこんな経験は初めてだったし、こんな感覚は経験しなければ絶対わからないとも思った。私の切々とした訴えに、彼女はその後黙って耳を傾けてくれたのだけれども…。

 それなら、経験者のBさんはどうだろうか。彼女は皮下注射による治療をすでに受け終えていた。しかし、経験者ならわかってもらえるのではないかという期待は裏切られた。多少の抑うつ感や無気力感はあったけれど、それほど強い症状ではなかったと言うのだ。
 たとえ同じ治療を受けていたとしても、感じる効果や副作用は一人一人違うはずであろう上に、実際彼女は皮下注射の治療しかしていないので、私とは副作用が違って当たり前だったのかもしれない。にもかかわらず、彼女が同じ経験を共有していないという一言で、私はさらに落ち込んだ。―私だけがおかしいのだろうか? この説明しがたい状態は、一体何によるものなのだろうか…?―

 男性医師の記したガイド的な書物だけではなく、精神的な症状について綴られた体験談でも読んでいれば、また違っていたのかもしれない。男性医師はその道の専門家ではあっても、決して乳がんや女性の更年期を実体験できないのだから。あるいは、患者会にでも入っていろいろな経験者と話していたら、活路は開けていたのかもしれない。「私も経験しましたよ」「そうそう、私も…」と、ひょっとしたら共感が得られたのかも…。机上の勉強だけではなく、経験者の生の声を聞いていれば違っていたのかも…。
 しかし、そういう手段があることを思いつきもしないほど、私の思考力は奪われてしまっていた。私の不安と混沌は行き場を失い、ひたすらスパイラル化していった。

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