真っ赤なチャイナ服を着た小太りとは言い切れない肥満のメガネ男(以下デブ男:だって、これ長すぎてもうそろそろ読者の皆さんも読むの疲れたでしょう。)の横に、真っ黒なチャイナドレスに身を包んだ女性が立った。
網瞳である。
腰骨近くまで入ったスリットからのぞくすらりと伸びた脚が眩しい。
にむの目がピンクのハート型になった。
「あぁ。網瞳ちゃ~~ん。会いたかったよ~~」
思わず走りだすにむ。顕眠は素留を突き飛ばしてその場に立ち上がる。
にむが、両手を広げて網瞳を抱きしめる瞬前に彼女の右手が空を切りにむの左頬に向けてふりおろされる。
「ベシッ!」 崩れ落ちるにむ。
網瞳は小さく 「ウザ」
にむは殴られた左頬についた真っ赤な手形をさすり、口元から喜びの涎をたらしながら、デブ男を見上げて叫んだ。
「あ、あ、あなたはいったいだれなんだぁあ」
デブ男は、宋顕眠を見据えながら、表情を変えずに答える。
「あるときは、
ネットコミュニティのオフ会の待ち合わせ場所で、目印になる黄色の熊のプーさんぬいぐるみを抱え、チェックのワークシャツを着て、背中にナップサックを背負って立っている男。
またあるときは、上海のジャズバーでぬるいビールを出す黒服を着たボーイ。
またまた、あ~るときは、皮のジャンパーを羽織ったセスナ機のパイロット。
そして、また、あ~~るときは、赤いバイクの郵便配達人。
さらに、また、あ~~~るときは、ひかりレールスターの車掌。
あ、もう一つで今の私を含めて、七つになるんだけどなあ、ま、いいか。
しかして、その実体は・・・」
「チャイナ服を着た、ただのデブでしょ」とにむ
「お前に言われる筋合いはな~~~い」デブ男はにむの腹にけりを入れる。
デブ男は気を取り直して、つづける。
「『タラオバンナイ』を叔父に持ち、『きょうのおばんざい』を伯母にもつ。わたしの名前は 『腹尾万代』こと天架鳥仁(あまけかけるとりひと)だ。」
にむは思わず叫ぶ
「晒しきた~~~~っ。」
腹尾万代は顕眠に銃口を向けたまま話をつづける。
「宋顕眠。お前には、これまでも、もう一歩というところで逃げられてきた。今回の事件にもやはりお前が絡んでいたんだな。」
「私たちの組織は、知ってのとおり国際的で。上海支部から、最近なぜか定期的に黄昏煎餅を載せたバンがある邸宅の門をくぐることが多くなったとの報告を得て、捜査していたんだ。その邸宅は極東を中心とした犯罪組織のアジトだということは前から分かっていた。しかし、いくら黄昏煎餅が好評だといっても、その中で、胡麻煎餅だけが納品されているというじゃないか。ひょっとしたら、その保存性を生かして、半島の北部への食料物資補給として流れているのかと思っていたが、そうでもない。なぜ、胡麻煎餅だけが、と捜査を続けていたところに、Akyukiの死だ。これは、もう少し大きな組織的な動きがあると思って、素留とにむを泳がして、後を追いかけていた。そして、ゴマチップが混ぜられていたことがわかった。
中国もWTOに加盟して、物の輸出入に関しては厳しくなった。お前は、物の密輸から情報の密輸へとフィールドを替えたというわけだな。
確かに情報はネットを通じていくらでも流通は出来るし、それの方が手軽だろう。だが、エシュロンシステムがこれほど進化してしまった今なら、ネット経由の情報流通はすべて盗聴されていると思うのは当然だ。そこで、ゴマチップの登場だ。情報をあえて、モノにして動かすとは。
うちの組織でもゴマチップに埋め込まれた情報を幾つか解読した。そこに記録されていたのは日本国民の名前と住所と生年月日だ。そう、住民基本台帳の情報だ。日本国民全員の基本情報を他国に握られてしまったら、大変なことになる。全世界から送られたダイレクトメールで日本の家庭のポストが一杯になるなんて、大きく国益を損なうことになるだろう。」
「顕眠よ、お前はもう包囲されている。私の手配の者達がこのビルを包囲している。逃げ場所は無い。」
春田が空を見上げてだれに言うとも無く。
「すごいですねえ、さすが国際捜査組織だ。ヘリコプターまで用意してますよ」
上空にはヘリコプターのパタパタと言う音が近づいてくる。
顕眠は居直ったようにいう、
「そこまでいわれちゃあこっちのセリフがなくなるってもんだ」
えっ?さっきまで言いたくないって言ってたじゃないか。
「うるさい、著者!お前はひっこんでろ。」
「そうさぁ、万代。おまえが言ったとおりだ。ただ、今回は誤算があった。いつも行く上海のバーに網瞳がいたんだ。そう、そこに立ってるお嬢さんだよ。網瞳がお前達の組織に属しているということは、途中から気がついた。だが、Akyukiは網瞳に近づきすぎた。これ以上近づくと組織の秘密をばらされそうになったんで殺したということだ。」
顕眠は覚悟をきめたように、
「しかたがないな、残念だが、今回はあきらめるよ。」
と、うなだれつつ、両手を前に出して腹尾万代に歩み寄る。
「お前もこれまでだな、長らく悪事を働いているといつか失敗はするもんだ。」と腹尾万代。
顕眠は観念したように上目遣いに万代を見つめて、
「へい、今回のヤマは物が煎餅だけに、焼きが回りました。」
というやいなや、懐から手榴弾大の黒い玉を床に叩きつける。たちまち立ち上る煙。全員煙の中に取り込まれてる。
「ピストルを打ってはだめだ、危なすぎる」とはだれた言ったのか。
バタバタバタとヘリコプターが近づく音。
煙が吹き飛ばされたときに、見上げるとヘリコプターからつるされた縄梯子に宋顕眠は飛び移っていた。見る見る高度を上げるヘリコプター。ピストルで狙いを定めるには十分に遠くまで上がったあたり、顕眠はヘリコプターの機体の中に乗り込んでしまう。
その時、腹尾万代の携帯電話がプルプルと鳴る。万代は耳に携帯を押し付ける。男の声が。
「おれじゃよ、顕眠だ。今回はよく、わしを追い詰めたものだ。ほめてやるよ。でも、やすやすとつかまる俺じゃ、読者も納得はせんだろう。好評なら二作目、三作目も作らんといかんからな、なあ著者よ」
いや、そのような予定はないが、まあ、好評なら考えなくは無いが。
万代は私をにらみつける
「著者は引っ込んでろ!
顕眠、携帯電話からきっと尻尾をつかんでやる」
顕眠は余裕の顔で応える。
「無駄だな。こんなケータイ、欲しければくれてやる」
プチッと電話が切れたときに、飛行機雲が三本引かれた真っ青な空から、顕眠が投げ出した携帯電話がきらきらと落下してくるのが見えた。
人生はコーヒールンバだな 第一話へ
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網瞳である。
腰骨近くまで入ったスリットからのぞくすらりと伸びた脚が眩しい。
にむの目がピンクのハート型になった。
「あぁ。網瞳ちゃ~~ん。会いたかったよ~~」
思わず走りだすにむ。顕眠は素留を突き飛ばしてその場に立ち上がる。
にむが、両手を広げて網瞳を抱きしめる瞬前に彼女の右手が空を切りにむの左頬に向けてふりおろされる。
「ベシッ!」 崩れ落ちるにむ。
網瞳は小さく 「ウザ」
にむは殴られた左頬についた真っ赤な手形をさすり、口元から喜びの涎をたらしながら、デブ男を見上げて叫んだ。
「あ、あ、あなたはいったいだれなんだぁあ」
デブ男は、宋顕眠を見据えながら、表情を変えずに答える。
「あるときは、
ネットコミュニティのオフ会の待ち合わせ場所で、目印になる黄色の熊のプーさんぬいぐるみを抱え、チェックのワークシャツを着て、背中にナップサックを背負って立っている男。
またあるときは、上海のジャズバーでぬるいビールを出す黒服を着たボーイ。
またまた、あ~るときは、皮のジャンパーを羽織ったセスナ機のパイロット。
そして、また、あ~~るときは、赤いバイクの郵便配達人。
さらに、また、あ~~~るときは、ひかりレールスターの車掌。
あ、もう一つで今の私を含めて、七つになるんだけどなあ、ま、いいか。
しかして、その実体は・・・」
「チャイナ服を着た、ただのデブでしょ」とにむ
「お前に言われる筋合いはな~~~い」デブ男はにむの腹にけりを入れる。
デブ男は気を取り直して、つづける。
「『タラオバンナイ』を叔父に持ち、『きょうのおばんざい』を伯母にもつ。わたしの名前は 『腹尾万代』こと天架鳥仁(あまけかけるとりひと)だ。」
にむは思わず叫ぶ
「晒しきた~~~~っ。」
腹尾万代は顕眠に銃口を向けたまま話をつづける。
「宋顕眠。お前には、これまでも、もう一歩というところで逃げられてきた。今回の事件にもやはりお前が絡んでいたんだな。」
「私たちの組織は、知ってのとおり国際的で。上海支部から、最近なぜか定期的に黄昏煎餅を載せたバンがある邸宅の門をくぐることが多くなったとの報告を得て、捜査していたんだ。その邸宅は極東を中心とした犯罪組織のアジトだということは前から分かっていた。しかし、いくら黄昏煎餅が好評だといっても、その中で、胡麻煎餅だけが納品されているというじゃないか。ひょっとしたら、その保存性を生かして、半島の北部への食料物資補給として流れているのかと思っていたが、そうでもない。なぜ、胡麻煎餅だけが、と捜査を続けていたところに、Akyukiの死だ。これは、もう少し大きな組織的な動きがあると思って、素留とにむを泳がして、後を追いかけていた。そして、ゴマチップが混ぜられていたことがわかった。
中国もWTOに加盟して、物の輸出入に関しては厳しくなった。お前は、物の密輸から情報の密輸へとフィールドを替えたというわけだな。
確かに情報はネットを通じていくらでも流通は出来るし、それの方が手軽だろう。だが、エシュロンシステムがこれほど進化してしまった今なら、ネット経由の情報流通はすべて盗聴されていると思うのは当然だ。そこで、ゴマチップの登場だ。情報をあえて、モノにして動かすとは。
うちの組織でもゴマチップに埋め込まれた情報を幾つか解読した。そこに記録されていたのは日本国民の名前と住所と生年月日だ。そう、住民基本台帳の情報だ。日本国民全員の基本情報を他国に握られてしまったら、大変なことになる。全世界から送られたダイレクトメールで日本の家庭のポストが一杯になるなんて、大きく国益を損なうことになるだろう。」
「顕眠よ、お前はもう包囲されている。私の手配の者達がこのビルを包囲している。逃げ場所は無い。」
春田が空を見上げてだれに言うとも無く。
「すごいですねえ、さすが国際捜査組織だ。ヘリコプターまで用意してますよ」
上空にはヘリコプターのパタパタと言う音が近づいてくる。
顕眠は居直ったようにいう、
「そこまでいわれちゃあこっちのセリフがなくなるってもんだ」
えっ?さっきまで言いたくないって言ってたじゃないか。
「うるさい、著者!お前はひっこんでろ。」
「そうさぁ、万代。おまえが言ったとおりだ。ただ、今回は誤算があった。いつも行く上海のバーに網瞳がいたんだ。そう、そこに立ってるお嬢さんだよ。網瞳がお前達の組織に属しているということは、途中から気がついた。だが、Akyukiは網瞳に近づきすぎた。これ以上近づくと組織の秘密をばらされそうになったんで殺したということだ。」
顕眠は覚悟をきめたように、
「しかたがないな、残念だが、今回はあきらめるよ。」
と、うなだれつつ、両手を前に出して腹尾万代に歩み寄る。
「お前もこれまでだな、長らく悪事を働いているといつか失敗はするもんだ。」と腹尾万代。
顕眠は観念したように上目遣いに万代を見つめて、
「へい、今回のヤマは物が煎餅だけに、焼きが回りました。」
というやいなや、懐から手榴弾大の黒い玉を床に叩きつける。たちまち立ち上る煙。全員煙の中に取り込まれてる。
「ピストルを打ってはだめだ、危なすぎる」とはだれた言ったのか。
バタバタバタとヘリコプターが近づく音。
煙が吹き飛ばされたときに、見上げるとヘリコプターからつるされた縄梯子に宋顕眠は飛び移っていた。見る見る高度を上げるヘリコプター。ピストルで狙いを定めるには十分に遠くまで上がったあたり、顕眠はヘリコプターの機体の中に乗り込んでしまう。
その時、腹尾万代の携帯電話がプルプルと鳴る。万代は耳に携帯を押し付ける。男の声が。
「おれじゃよ、顕眠だ。今回はよく、わしを追い詰めたものだ。ほめてやるよ。でも、やすやすとつかまる俺じゃ、読者も納得はせんだろう。好評なら二作目、三作目も作らんといかんからな、なあ著者よ」
いや、そのような予定はないが、まあ、好評なら考えなくは無いが。
万代は私をにらみつける
「著者は引っ込んでろ!
顕眠、携帯電話からきっと尻尾をつかんでやる」
顕眠は余裕の顔で応える。
「無駄だな。こんなケータイ、欲しければくれてやる」
プチッと電話が切れたときに、飛行機雲が三本引かれた真っ青な空から、顕眠が投げ出した携帯電話がきらきらと落下してくるのが見えた。
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