めずらしくすこしゆっくりとピアノの練習をして、一階におりてきて、庭を見たら縁台に黒猫がいた。
あらやだ、猫だ!小さいな、子猫かな?黒猫だ、かわいい!え?飼う?飼っちゃう?いやいや、今猫飼ってる場合じゃないでしょ、この家族構成で猫飼ったら、どこにも出掛けられなくなるし、今ぽんぽんにいくらかかってるとおもってるのさ、まあ、どうせさ、戸を開けたら逃げちゃうんだし、猫だからねえ、ええ、ええ……
と、頭の中で一人で回しながら、
「おーい、なにしてんの?」
と、戸を開けたら、なんと、ふらっと家の中に入ってきたではないか!
「!?!?」
見ればがりがりのよろよろで、そのままバスタオルに包んで動物病院に直行。子猫どころか、推定14歳の腎臓と甲状腺に病気のあるおばあちゃん猫。目が白内障で耳も聞こえていない。
これは飛んだ厄介ごとを抱え込んだと、頭を抱えているところに、ぽんぽんから電話が来て、
「いやあ、今日危なかったんだよね、自転車でバス停のポールにつっこんじゃって、車道に転がりおちちゃってさ。うまいこと転んだから怪我はしなかったけど」
「……!!!!!!」
その時車が通っていたらと思うと、血の気がひいた。
そしてそれがちょうど、私が猫とバタバタしていた時間で……
猫はなんとも神秘的だけど、なおのこと黒猫は、そういう目で見ると謎めいて見える。
「猫の恩返し、的な?」
因果はそんなそんな単純なもんじゃないけど、でも、助けてあげられる環境だったことに感謝。
それにしても、猫をうっかり助けると、本当に大変なことになると、あらためて思い知った。病院も警察も自治体も、どこにも逃げ道はない。
見て見ぬ振りをするか、自分で面倒を見ると腹を決めるかだ。
ちなみに警察に行くと遺失物扱いになって、強制的に保健所で保護されることもあるらしい。特に、ブランド猫は。しかし期限は7日。そのあとは……。
もう少しなんとかならないものかなあ……、と、廊下の猫のおしっこを拭きながら、ため息をつく。
でもまあ、母が、
「あらあ、やっぱり生き物がいるといいわねえ」
と、嬉しそうなので、いいことにしよう、と思ったら矢先、
「お前は手がかからないねえ」
と、母が言うので、
「誰が面倒見てると思ってるのさ?」
と、ぷち切れてしまった。
ぷち、ね、ぶちじゃないから。