子どもの頃のある朝の体験が、その後の人生と結びついたといいます。日が昇る瞬間に襲われた自然な感情。日記には「今朝生まれてはじめて朝を美しいと思った」とつづりました。
その時の詩的な原体験を、後に谷川俊太郎さんはこう振り返っていました。「言葉によらずに風景によって、自然のある状態によって喚起された感動というものが、自分が詩を考える上でのいちばんの核になっているように思う」(『詩の誕生』)。
鉄腕アトムの歌、数多くの絵本や校歌、スヌーピー漫画「ピーナッツ」の翻訳まで。やわらかく奥深い言葉を弾むように生み出してきた谷川さんの詩は、たくさんの心をゆさぶってきました。
宇宙から身の回りのことまで幅広く材をもとめながら、その詩は人間の本質をついてきました。社会の矛盾や現実を冷徹に見通す目も。戦争で空襲を体験し、戦後の始まりが多感な時期と重なりました。「自分のなかに戦争と平和ということがあり続けている」と。
生きる意味を問いかけた詩は東日本大震災後に再読や朗読が広まりました。「生きているということ/いま生きているということ/鳥ははばたくということ/海はとどろくということ/かたつむりははうということ/人は愛するということ/あなたの手のぬくみ/いのちということ」。
92歳で人生の幕を閉じた谷川さん。2016年元日に本紙に寄せてくれた詩を改めて。「希望が/ひっそりと顔を出す/雲間から/陽がさすように/今朝生まれる/赤ん坊のように」
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