tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『好きにならずにいられない』…フーシという男

2023-04-10 01:55:56 | 映画-さ行

 『好きにならずにいられない』、ダーグル・カウリ監督、脚本。2015年、94分。アイスランド・デンマーク合作。原題は、『Fusi』。

 

 主人公フーシを演じるのは、グンナル・ヨンソン。

 脚本は、俳優ヨンソンを念頭に書かれたそう。あんなにシャイではない、とヨンソン氏はインタヴューで言っているけど。

 

 「フーシ」には、不思議な魅力がある。

 いざとなれば行動力もあるし、真面目で、暮らしていく術もこころえ、手先も器用、自分の感情も把握していて、俯瞰で見る客観性も備えており、腕力もあるし、友達もいる。
 そんな何の問題もなさそうな男が、優しさ故に周囲のちょっかいを受けている。

 周りの世界のちょっかいに取り合わずに生きてきたフーシが、「恋」によって揺れ動き、新たな世界に一歩を踏み出す…。

 そんな話だ。

 

 あちこちに手を出しては引っ込める、周りの人物達のせわしなさも描かれる。妙にリアルな(身に覚えのある)落ち着きのなさが、フーシの魅力を引き立てる。

 容姿コンプレックスから自分の世界に閉じこもる男。いや、違う。出来る男「フーシ」は、上昇志向を持たない。

 高く高く空を飛びたいとは思わない。

 空港で働いていても、飛行機に乗りたいとは思わない。

 可視化された「ただ存在することの安心感」、とでも言えばいいのだろうか。せわしない判断を放棄して、「ただ在る」事を、その大きな体と重みで正に「体現」しているようにも見える。

 

 この新しい「ヒーロー像」が、北緯63度から66度に位置する北の国アイスランドから届けられた。

 「北欧インテリア風」なポップでかわいいラブコメかと思うと、全く違う。

 あまりに暗い音楽と、薄曇りの空と吹雪の夜が印象的な、世間から一つ突き抜けた、「ニューヒーロー」を描いた話である。

 「ニューヒーロー」の誕生。監督の意図をもし探るのなら、私ならそう結論しよう。

 

 

 フーシ、君のような人が増えたなら、世界はもっと幸せになれるのにー
 (by フランシス・フォード・コッポラ)

 

 

趣味はジオラマ(第二次世界大戦の戦闘を再現すること)↓親友も夢中。

さて、恋の行方は?↓続編も観たい!

ジャケ写詐欺と言われても仕方ないくらいのポップ加工(笑)↓でも作品自体は面白かった。

 


『マッシブ・タレント』…類いまれなる才能よ。

2023-04-02 18:56:02 | 映画-ま行

 『マッシブ・タレント』、トム・ゴーミガン監督、2022年、107分、アメリカ。ニコラス・ケイジ、ペドロ・パスカル、シャロン・ホーガン。

 原題は、『The Unbearable Weight of Massive Talent 』(類いまれなる才能の耐え難き重さ、の意)。

 

 重層的、分裂的に、ニコラス・ケイジがほぼ本人ニック・ケイジを演じる、アクション・コメディ。

 まあとにかく、面白かった。劇場で声を出して笑ったのは久しぶり。

 

 いわゆるバディもの(男同士の友情)と家族の物語、そしてスパイ・ストーリーが重層的に展開する。そして「ニコラス・ケイジ・トリビュート」が全編に。その散りばめられ方が可笑しいのなんの。

 でも、ニコケイ映画を全く観たことなくても、問題なく楽しめる。昔観たものを結構忘れている私も、全然関係なく楽しめたので。

 それもこれも、本人以上の本人ファンが全部説明してくれるから。っていうのもまた可笑しい。大ファンであり大富豪のペドロ・パスカルの表情がまたふつふつと笑いを誘う。

 

 ニコラス・ケイジが多額の負債の返済と、実母の高額な介護施設代金を支払い続ける為に、自己破産をせず、B級映画に出演する道を選んだことは、知られている。

「1年に4本の映画を立て続けにこなしていたときも、全力を尽くせるだけの何かを見つけていた。すべての作品がうまくいったというわけじゃない。『マンディ 地獄のロード・ウォーリアー』のようにうまくいったものもあるが、うまくいかなかったものもある。だが、いい加減な仕事をやったことは一度もない。もし、私に関する誤解があるとすれば、この点だ。ただ仕事をこなしていて、こだわりをもっていないという……。私はこだわりをもって仕事をしていた」

(映画.com 記事より抜粋 https://eiga.com/news/20220325/8/ )

 

 

 …私の望みはただ二つ。(二つ?)

 一つは、ニコラス・ケイジが長生きすること。もう一つは、クリント・イーストウッド監督、主演ニコラス・ケイジの映画を観ること。

 微々たるものとは言え、その「類いまれなる才能の耐え難き重さ」(原題訳)に、この「全人類分の一」の期待がまた上乗せされるわけだけど、ニコラス・ケイジが今後とも、その才能に果敢に立ち向かうだろうことは、容易に予想できる。

 

 ※「全人類」は本編からの借用です。

 

 

一筋縄ではいかないバディもの。↓崖ジャンプは怖そうだけど気持ち良い!?

元妻と一人娘。↓そして斜陽のスター、ニック。

右下の「うさぎのぬいぐるみ」は『コン・エアー』(1997年)↓

 

 

 

 


『グランド・ジョー』…未来を託す

2023-03-28 15:36:52 | 映画-か行

 『グランド・ジョー』、デビッド・ゴードン・グリーン監督、2013年、117分、アメリカ。ニコラス・ケイジ、タイ・シェリダン。原題は、『Joe』。

 第70回ベネチア国際映画祭、マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞)受賞(タイ・シェリダン)。

 

 久しぶりのニコラス・ケイジ。

 とっても好きだけど、2003年の『アダプテーション』辺りから、私のニコラス離れが始まった。これはある意味仕方ない。ニコラスが多額の借金返済の為、B級映画にばんばん出始めたからだ。そうなると、まず日本では公開されない(=気軽に観に行けない)。レンタルビデオで追いかけることは出来たようだけど、私のTSUTAYA離れも始まっていた・・。(こちらの事情で、TSUTAYAさんが悪いのではありません。)

 しかし、全地球上のニコラスファンの願いは、とうとう天に通じた。

 何とニコラスは、借金返済完了!その後に撮影した『マッシブ・タレント』が絶好調とのこと。中々観に行けず体に震えがきそうだったところ、とある方にご紹介いただいたのが、こちらの作品。

 

 これも良かったなぁ。

 極めてシリアスな作品で、張り詰めた緊張感と諦観を演じる、ニコラス・ケイジが最高。

 仕事をもらいに来た少年との出会いから、自分の諦めた「未来」を少年に託そうとする。

 「未来」というのは何か具体的な事ではないけれど、自分を信じ、他者を信じ、そこに「未来」がある事を信じられることかなと思った。人生の中に手ぶらで放り出されつつある少年と、心の沼から出ようとして失敗し、沼の中で息をひそめて生き延びようとする、ニコラス演じるジョーとの交流が心に染みる。

 

 一つの出来事が、いつまでも人を救うことってあると思う。その記憶がある限り、その感覚がある限り、根を張る場所として機能する。

 そんな感覚を与え合う関係は最高だ。

 

 この映画自体は、アメリカの陰の部分を描いており、あまり心楽しくなるような映画ではない。それでも、こんなヒーローがいても良いと思うし、こんな男を、魅力たっぷりに演じられるのは、やっぱりニコラス・ケイジしかいないと、改めて思うのだ!

 


『さらばウィリービンガム』…二度は見られない。

2023-03-25 20:20:06 | 映画-さ行

 死刑廃止による新たな量刑制度が始まった。それは遺族がその量刑を決めるというもの。最初に適用された囚人は、少女をレイプして殺害したウィリー・ビンガム。

 

 

 このホラー的短編映画の主役は、被害者の遺族である父かもしれない。

 彼に共感するのか、責めるのか。それでいいと肩を抱くのか、もうやめてくれと願うのか。

 ここでは、重犯罪者の気持ちは正直言ってどうでも良い。

 結論は出ず、私はただ見守るだけ。憎しみをいつかは手放したいと思うなら、私なら死刑の方が良いとも思った。それでも当事者になってみないと分からない。私はもっと冷酷で残酷で、憎しみに燃えているかもしれない。

 考えさせられ、結論の出ないこと。ただやっぱり、これはない。どこか酷薄な安易さを感じるから。

 

 

 マシュー・リチャーズ監督、2015年、12分、オーストラリア。

 原題は、『The Disappearance of Willie Bingham』(ウィリー・ビンガムの消滅)。

 

 12分49秒の問題作(YouTube)↓

An inmate is selected to undergo a gruesome new punishment. | The Disappearance of Willie Bingham

(日本語字幕は端末での画面操作でどうぞ。)

 


『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』…はばたけ、戦う乙女

2023-03-25 18:36:01 | 映画-は行

 阪元裕吾監督・脚本、2023年、101分、日本。アクション監督、園村健介。

 伊澤彩織、高石あかり、水石亜飛夢(あとむ)、中井友望、丞威(岩永ジョーイ)、濱田龍臣。

 前作で高校を卒業した主人公二人による、「最強殺し屋稼業」と「ゆるゆる同居生活」。相変わらずな二人を引き続き描く、シリーズ2作目。

 

 「シリーズ」と言ってしまったけど、実際まだまだ続きそうな感じ。

 メイン・キャラクターも揃った(揃えた)感じがあるし、今作は、今後のシリーズ化に向けての橋渡し的作品か?

 

 監督は、フェイクドキュメンタリー『最強殺し屋伝説国岡』(2019年)の阪元裕吾さん。今作から登場の『少女は卒業しない』の中井友望さんは最初気づかなかった。今後メインキャラの一人として定着するのかな。

 前作『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)の設定を引き継いでいるが、ストーリーは特に繋がっていないので、前作未見でも大丈夫。見ておいた方が、しょっぱなから共鳴、同調しやすいかもしれないけれど。

 

 

 さて主人公、「まひろ」と「ちさと」。この映画のヒットの核は、やっぱりこの二人なんだろう。

 この二人、実に良いコンビで、ストーリー上も、戦闘パフォーマンスから日常生活まで「阿吽の呼吸」の親友同士。小ネタで挟まれる二人の喧嘩は、殺し屋だけあってレベルが違う。

 一歩引いた観客目線で見ても、口下手でマイペースな努力家まひると、口が立ち向こう見ずな開拓者ちさとのやり取りは、コミカルで楽しく、二人でなくてはならない気持ちにさせてくれる。

 か弱そうな女の子が実は凄腕の殺し屋という、ありがちな設定ではあるが、スタントパフォーマー・伊澤彩織のリアルアクションはお腹にずしんと来るし、高石あかりのガン・アクション、七変化演技もパワーアップして心臓にずきゅん。(言い方が古い…)見所はやっぱり真剣シーンだ。

 

 実際はまひろ役の伊澤さんが6歳年上だそう。そうは感じさせず、うまくキャラクターの雰囲気にマッチして、個性となってるのも良いところ。

 

 

 今後作品のファンがもっともっと増えて、B級枠を一息に飛び越え、隅田川の橋を次々に爆破するサイコパス殺し屋集団(何ソレ)に立ち向かう二人。なんて大掛かりなアクション・シーンも是非見たい。

 よっしゃ、どかんと花火を上げてくれ!楽しみにしてる!

 

 

いかにもな二人の同居部屋↓ところどころに女子っぽくないトレーニンググッズも。

伊澤さんの肉弾戦はかっこよくてキレッキレ!↓前作よりさらにアクションが楽しい。

「殺し屋協会」に所属している二人↓武器は協会を通して買うのかな?どうでも良いか!