tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『父親たちの星条旗』

2013-05-30 12:53:05 | 映画-た行
 DVDで観た。クリント・イーストウッド監督、2006年、アメリカ。

 同じく2006年に公開された、『硫黄島からの手紙』と合わせて2部作。こちらをちょっと前に、先に観た。第二次世界大戦の硫黄島での戦いが、日米双方の視点で描かれている。

 硫黄島戦は総力戦で行われ、1945年2月18日、米軍の上陸作戦から始まった。36日間。米軍約33000人(うち死者約6800人、負傷者約26000人)、日本軍約22000人(うち死者約21000人、ほぼ全滅)。

 両方とも原作があるけど、クリント・イーストウッドのストーリーは、日本側が硫黄島の名のない兵士を主人公にして、戦争を一人一人の人間に収れんさせたのに対して、こちらの『父親たちの星条旗』は、でっち上げられた3人の「英雄」をメインに、一人一人の人間から、いかにして固有のものが奪われ、手にしているものが拡散して行くか、それを描いているように思えた。

 戦闘の最中と、アメリカ本土でのキャンペーン、そして現在の三地点が、交互に映される。

 劇的なというよりも、静かな連続性がドラマに深い抑揚を与えて、やっぱり、エンドロールには見入ってしまう。

 クリント・イーストウッド監督の映画の後味は、複雑すぎて透明になった色を見ているみたいだ。「そうではない。」とたった今まで散々見せられていたはずなのに、この瞬間が、永遠に続けば良いのに、と思ってしまうような、続くことをあやうく信じてしまうような、そんな終わり方だと思う。


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『魔女と呼ばれた少女』

2013-05-24 20:47:10 | 映画-ま行
 主演の、コモナ役の女優さんがすばらしく、とても印象的で、彼女の表情から目が離せなかった。ストリート・チルドレンだった少女を監督が見つけ出したということだ。何て言うんだろう。そうだ、シンプルだ。単純なんではなくて、大人と子供が同居しているような感じだった。少し口を開いて、空を見上げる間にも、あらゆる感情が呑みこまれてそこに立っているとでも言うようだった。

 役柄のコモナは、苛酷な状況のすべてにおいて、理解しベストを尽くす。自意識の物語ではなくて、魂の物語だ。
 脈々と繋がっている一本の綱のようなものを、彼女は決して手放さない。あれほどの苛酷な状況の中で。

 決然とした意志と言うよりも、柔軟さの方が私には魅力的にうつった。柔軟な魂が翻弄されながらも、前に進むことをやめない。やめられない。悪夢も、亡霊も、なぜか彼女はどうしたらよいのか知っているのだ。

 アフリカの(コンゴ民主共和国らしい)、拉致され少年兵になった少女の物語。
 キム・グエン監督、2012年、カナダ。第62回ベルリン国際映画祭、銀熊賞(女優賞)。

 彼女をもう一度観たいな。

 
 

『東ベルリンから来た女』

2013-05-20 20:30:26 | 映画-は行
 う~ん、何か難しかったな。単純に楽しめる映画じゃなかった。でもラストが好きだったので、良かったと思うけど。

 東ベルリンとか、東ドイツとか、東ドイツの田舎とか、そういうところを想像するのが難しかった。分からないことだらけだ。そもそも主人公バルバラの動機がよく分からない。分かるようで、分からない。

 私には、東ドイツのことは分からないのだな、という徒労感が残った。
 これからどうするの?、10年後には東ドイツはなくなるんだった。と思うと、また煙に巻かれたような気持ち。サスペンスとはそういうものなのかもしれない。個人的なことなのか、社会的なことなのか。バルバラが余所者なので、事態が複雑な気がする。
 そんなことは気にするな、とも思うけど。

 クリステイアン・ペッツォルト監督、2012年ドイツ、第62回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)受賞。

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『孤島の王』

2013-05-15 21:19:03 | 映画-か行
 面白かった。
 最初にたしか、島の遠景があったと思うんだけど、どうだったかしら。その後は島の全貌も分からないし、少年矯正施設の全体像もよく分からない。
 ただただ、白い雪と、白い息と、少年たちと、あとは少しの大人がうごめいていて、主人公が語るクジラの物語(未完)と、クジラの映像がところどころに差し挟まれる。
 DVDで観たけれど、映画館で観たかったな。

 1915年、ノルウェーのバストイ島というところの少年矯正施設で起こった、脱走事件を元にした映画だ。主人公が、某お笑い芸人に見えてきて、そういうのは本当にどうしようもないなと自分で自分にほとほと困ってしまう。

 いつ死人が出てもおかしくないような状況で、実際に死人が出てからの、憎しみと希望と、少年たちの恐れが静かに描かれる。孤島の王、というタイトルは淋しすぎないか。敗れ去ることを前提とした美学のようで、あまり好きじゃない(要するにハッピーエンドが好きなんだけど)。歴史はもう動かないかもしれないけど、物語なら動かせる。文盲の主人公の語るクジラの物語は、話すたびに現実を映し出すようになり、動いていった。

 マリウス・ホルスト監督、2010年、ノルウェー・フランス・スウェーデン・ポーランド。

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『愛、アムール』

2013-05-13 20:17:10 | 映画-あ行
 ミヒャエル・ハネケ監督が、『白いリボン』に続き、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した作品。2作品連続。その他アカデミー賞外国語賞などなど。


 やっぱり、悲しい気持ちになってしまうけど。

 一言で言えば、老・老・在宅介護のお話。ということだけれど、三面記事や、テレビでは絶対に描かれないことだけを、描いている。とりこぼされた(重要でないとみなされた)ことだけで、この映画は作られているように見える。前作の『白いリボン』でも言えるけれど、ハネケ監督は、三面記事的な出来事を、三面記事的でなく描き上げる才能があるみたいだ。
 とりこぼされること。それはもしかしたら個人のわがままに関することなのかな。それぞれのエゴが明確にその形を成している時には、人生かくも長くて豊かだと感じられるし、形を整え合うことに美しさも感じる。

 イザベル・ユペール演ずる娘や介護人の言葉に、とっさに反発を覚えた。その他の誰の言葉にも、「知らないのに」となぜか私が反発する。それも不思議だった。自分だって語られないのだから知らないし、自分が娘だったら、ほぼ同じ反応をするだろうと思う。

 家に迷い込んだ鳩を、つかまえて外へ追い払う。そしてその事を手紙に書いている。「信じないかもしれないけれど、」という前置きで。

 二度もそんなことがあっただなんて、信じられないでしょう、でもつかまえるのは、そんなに難しくはなかったよ。
 誰に宛てた手紙か分からないけど、音楽家の夫がそう書いている時、彼は満足感とか達成感の中にいるように見えた。

 2012年、フランス・ドイツ・オーストリア。

 

アルベール・カミュ 『最初の人間』

2013-05-12 19:28:03 | 
 アルベール・カミュが1960年に事故死した際に、車の残骸と共に鞄が見つかった。中に入っていた未完の原稿とノートが、『最初の人間』である。34年後の1994年に出版された。

 先月くらいに映画化作品を観たので、映画の中の印象的なシーンや、アルジェリアの景色を思い浮かべながら読めるかと思った。けれど、そんな伴奏は必要がなかった。というよりそんな余裕は(自分に)なかったというのが感想。

 カミュの遺したノートによると、この後に「青年」という見出しの文章が続く予定だったらしい。
 また覚書などによれば、自伝的な要素を削り落とし、アルジェリア移民(フランス人入植者)の移民生活や歴史を掘り下げた、相当にスケールの大きい構想もあったらしい。

 確かに「未完」なのかもしれない。

 未完、ばんざい。

 カミュにとっては不本意なのかもしれないけれど、良かったように思う、少なくとも私にとっては。自伝的要素を削られてしまってはたまらない。こんなにも、幼年、少年時代のことが、くっきりと、鮮やかに描き出されていて、愛着と嫌悪と、体温が感じられた。私は好きだし、そんな小説はとても貴重なのではないかと思った。未完なんて言えない。そもそも、オチだとか意図とは関係ないところで、人間は生きてるじゃないか(多分)。それでも一瞬一瞬が、すばらしく完成されているようだ、と、そう思えた。

 抜粋しておこう。


 「~ そのどろどろした、それと感じられないうねりから、彼のうちに、日を経るに従って、欲望の中でも最も激しく、最も恐ろしいものが生まれてきた。それはまるで砂漠にいるような不安、このうえなく豊かな郷愁、裸一貫と節制へのにわかな欲求、また何者でもありたくないという渇望のようなものであった。」 (第2部 息子あるいは最初の人間、2 自己にたいする不可解さ より)

 「~ 海は穏やかで、生暖かく、濡れた頭の上の太陽も今や軽く感じられた。そして輝かしい光がこの若い肉体を歓喜で満たし、彼らに絶えず大声をあげさせていた。彼らは生活と海を支配しており、世界が与えることのできるもっとも豪華なものを受け取っていた。そしてそれを、まるでびくともしない自分の財産を確信している領主のように、惜しげもなく使っていた。」 (第1部 父親の探索、4 子供の遊び より)


 前後したっていいのである。そうだとしても、面白いし。

 

 新潮社、大久保敏彦訳、1996年。文庫版は2012年発行。

 最初の人間 (新潮文庫)

『ムーンライズ・キングダム』

2013-05-11 20:25:07 | 映画-ま行
 この監督の映画は私にはポップでオシャレ過ぎて、けっこう食傷してしまうんだけど、面白かった。

 ブルース・ウィルスの出ている映画は、面白い。何でしょう、これは。

 だからと言って「ブルース・ウィルスの出ている映画」を立て続けに観ようとは思わないし、プロフィールは覚えられないし、どきどきもしないし、夢に出て来たこともない。でも、ブルース・ウィルスの出ている映画は面白い。この事実はまだくつがえされていない。(個人調べ)

 まるで胡椒のような人である。(個人好み)

 
 ウェス・アンダーソン監督は、大人と子供を分け隔てしない人のようだ。そういう世界を描くのには、ユーモアが必要なのかもしれないな。作り上げられた世界が必要なのかもしれない。
 2012年、アメリカ。

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『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』

2013-05-08 22:27:36 | 映画-ら行
 愛と欲望の王宮。

 どうも副題が直球すぎるので、旦那を誘う時、言い訳がましく「愛にも欲望にも王宮にも、興味ないとは思うけど」、と前置きをしてしまった。
 衣装も豪華な、18世紀のデンマークを舞台にした史実映画。

 例えばデンマークの人にとってはよく知られた歴史的出来事だと思えば、「史実」の部分は、そこはさらっと行くのかしら。淡々としているけど、そうか、そうなのか、と胸が切なくなった。残酷だなあ。運命は残酷。美化され過ぎても、美化されな過ぎても、歴史の人は泣いてしまう。と思う。

 ニコライ・アーセル監督、2012年、デンマーク。第62回ベルリン国際映画祭で銀熊賞2つ(脚本賞、男優賞)を受賞。

 
ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮 監督 ニコライ・アーセル キャスト マッツ・ミケルセン アリシア・ビカンダー ミケル・ボー・フォルスガードトリーネ・ディアホルム

『白いリボン』

2013-05-04 21:22:09 | 映画-さ行
 ミヒャエル・ハネケ監督、2009年、ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア。カンヌ国際映画祭パルムドール、などなど。

 第一次世界大戦直前、北ドイツの農村を舞台にしたミステリー。

 と言っても、犯人捜しをする気にはなれない。あんまりにも陰湿で、不透明で、無意識的な悪意に画面全体が覆われているので、そこに見える「事件」はあっても、半目のまま身動きすらできない感じ。う~ん、怖い。

 青空が遠のく。

 ハネケ監督、今度は『愛、アムール』という作品でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞したそうなので、そちらを観よう。絶対に観よう。

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『パリ20区、僕たちのクラス』

2013-05-03 21:16:29 | 映画-は行
 舞台は、すべて学校の中。ほぼすべて教室である。

 観ている間、途切れることなく身につまされた。先生に共感したり、生徒に共感したり、自分の中学校時代を思い出したりして忙しい。思春期は、逐一どうふるまってよいのか分からず、分からないままいつの間にか卒業した。そして今だって分からないんだけど。

 
 学校っていう空間は不思議なところだなと思った。特に義務教育は。集まり方がこうやって見ると、面白い。しぶしぶなのか、楽しんでるのか、その両方か。もしくはそういうとこから20億光年くらいぶっ飛んだところで、日々がつつましやかに送られているのかもしれない。

 ただし授業は、つつましやかどころではない。

 フランソワ・ベドゴーさんは、元教師で、原作者で(『教室へ』)、脚本・主演をつとめている。24人の生徒達は、全員演技経験のない、20区に住んでいる本当の中学生ということだ。人種もばらばら、国籍もばらばら、学力もばらばら。

 授業での「自己紹介文」や、面談の様子など、それぞれの生徒に愛着を感じ始めた辺りで、2時間ちょっとの映画が終わった。解決できる問題はないんだし、正解もないんだし。でも時間は過ぎて行く。中庭で、先生も生徒も、サッカーをしていて、ただ流れる放課後に身がふるえる。

 ローラン・カンテ監督、2008年、フランス。第61回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。

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