『コーダ あいのうた』、シアン・ヘダー監督、2021年、112分、米・仏・カナダ合作。原題は、『CODA』。
エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント。
2021年サンダンス映画祭、グランプリ(ドラマ部門)、観客賞(ドラマ部門)受賞。第94回アカデミー賞、作品賞、脚色賞(シアン・ヘダー)、助演男優賞(トロイ・コッツァー)受賞。
フランス映画、『エール!』(2014)をリメイクした本作。ファンタジックなコメディ感を纏い、視覚的効果も美しい同作品に比べ、今回の『コーダ』は、テーマ性を少し強く押し出した感じだ。
ヘダー監督が脚本も担当し、アカデミー賞脚色賞を受賞した。(実際は始めに脚本を担当し、その後監督のオファーを受けたとのこと。)
軽妙洒脱なフランス映画と、テーマ性重視のアメリカ映画。ということなのか、誰かの好みなのか分からないけど、どちらにせよ両作品とも、涙を滲ませずには観られないのだった。
(以下、ネタバレお気をつけください。)
さて「CODA(コーダ)」とは、聴覚障害者の親をもつ聴者のこと。「Children of Deaf Adults」の略。(Wikipediaより)
主人公である高校生のルビーは、マサチューセッツ州のとある漁村で、両親と兄と共に暮らしている。ルビーだけが耳が聞こえる。早朝は漁師である父と兄と共に漁へ。海では作業と共に、ろう者である二人の代わりに無線の対応をし、帰港すると、取引の交渉を担当する。また日々、聴者と家族達の間の通訳を任されている。
始めに物語が動くのは、ルビーの高校でのパートだ。作品中では、家族との生活と、学校生活のパートが交互に描かれる。
しかしそのうち、ルビーのみならず、家族それぞれにも変化が訪れることになる。
新しい世界へ力強く足を踏み出そうとする、兄。踏み出しかけるが、躊躇するルビー。知らない世界に不安を感じ、今ある家族の秩序と平和を維持しつづけようとする両親。
しかしそんな両親にも、やむない形で変化が訪れる。国の視察をきっかけに、漁村全体が揉め始める。そして彼ら自身は出漁禁止を食らってしまうのだ。
面白いのは、それぞれの世界が絡み合いながら、広がって行くことだ。
円と円が少し重なっている図がある。あんな感じで、少しずつ重なり合いながら各円が広がって行く。家族だけではなく、漁村の漁師仲間達の世界も、この家族の勇気と行動をフックにして、広がって行く。
ルビーも「歌」という自分の新しい世界を見つけるが、しかしそれは家族と重なり合わない。自分のこれまで生きてきた世界とも重なり合わない。そのことに対する怒りと諦めと焦燥と、不安が描かれる。
水平方向へ広がっていた世界が、深化するのが終盤だ。
夜の庭先で、「俺のためにもう一度、合唱会での歌を歌ってくれるか?」と父はルビーに頼む。ルビーが歌い出すと、耳の聞こえない父は、彼女の喉の震えを指で感じ取ろうとする。最初は右手の指をそっと添え、それから両手を使い、彼女の喉を包み込むようにする。その父の手を歌いながら握りしめるルビー。
ここで私達は、重なり合わない部分を見るのをやめる。
「ここで見る星は、海で眺める星ほどキラめいてないな。」父の台詞で初めて、私達観客は、海上の星空を見上げ、同時に深く深く暗い海の底を意識する。
水平に広がろうとしていた意識が、空と海の深度を得て、初めて垂直に解放される。
その解放感に涙しないなんてことがあるだろうか。
円と円の、重なり合った部分の底なしの深度を見せられて、涙しないなんてことがあるだろうか。
少なくとも私は、耐えきれなかった。(耐えていたわけではないけれど)
その後ラストはどうなるの?勿論、ハッピーエンドである。ハッピーエンド派の私としては、それもこの映画が好きな理由の一つである。
ロッシ家の皆さん。↓座右の銘「家族は仲良く」。この言葉の裏表も深い。
ルビーが合唱部に入るきっかけとなるマイルズと、特訓をしてくれるV先生。↓
「くそ兄貴」のレオ。↓全然くそではなくて(笑)家族を牽引する役割を担う。
アカデミー賞獲りました。↓
元作品の『エール!』↓エリック・ラルティゴ監督、2014年、105分、仏。原題は『La famille Belier』(ベリエ家)。