tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『さらば冬のかもめ』

2014-08-31 20:26:15 | 映画-さ行
 ジャック・ニコルソン。DVDにて。

 ハル・アシュビーという監督の、三作目の作品。
 この監督は映画編集者を経て(『夜の大捜査線』1967年でアカデミー編集賞)、その後監督となったらしい。「アメリカン・ニューシネマのしみじみ派」と評される。とは、アマゾンのレヴュワーの一人がそう書いていた。


 あるつまらない罪により8年の懲役と除隊に処された若い水兵を、軍刑務所まで二人の中堅下士官が護送していく話。期限と目的地が決められているだけに、とても切ないロード・ムービーになっている。それでも言いたいことは分かる(多分)。若い水兵は、とうとう自分の牢獄から抜け出した。息を吹き返したその後に、現実の牢獄へ閉じ込められる。でもいいじゃないか。どこでも同じさ。それぞれ皆が牢獄に閉じ込められているのは、二人の偉大な先輩水兵達の去って行く歩調と背中を見れば分かる仕組みになっている。ハル・アシュビーは、このロード・ムービーで奔放な自由を描いたんではなかった。牢獄の仕組みを作品の中に仕込ませた。まあ、たいていのロード・ムービーはそうだと言えるかもしれないけれど。

 
 シネマ・トゥデイに、ハル・アシュビーのドキュメンタリー映画が企画中、という記事があった。こちら
 へえ!グッドタイミング。
 しみじみと、とても面白かった。あ、原題は『The Last Detail』で、「最後の分隊」という意味らしい(こちらもアマゾンのレヴューからね)。原題の方が内容が分かりやすい。1973年、アメリカ。


  さらば冬のかもめ [DVD]



『選挙2』

2014-01-23 23:25:19 | 映画-さ行
 想田和弘監督の『選挙2』を観に行った。

 会話、会話。今回は「山さん」こと山内和彦さんのトークに聞きほれる。聞きほれると言うより、なんだか面白いったらありゃしない。周囲からも、くすくす笑い声がもれてくる。元々明晰な頭脳の人なんだろうけれど、人柄の良さがそれを上回ってるな。人柄の良さというか、距離感というか。

 流れるように、スクリーンの中で人々が喋り続ける。東国原英夫も喋る。落語家みたいだ。経営破たんした豆腐の野口屋の、引き屋のお兄ちゃんも喋る。舞台俳優さんだと言う。山さんも喋る。奥さんのさゆりさんも喋る。息子さんも喋る。監督も喋る。大家の奥さんも喋る。

 震災からまだ、ひと月も経っていなくて、山さんの怒りほど、沈着冷静な怒りがあるだろうか。とも思った。


 今回も「猫マスター」(町で猫が寄ってくる人を勝手にそう呼んでいるんだけど)が映っていて、猫がすりすりしていた。尻尾を上げてすりすりしながら歩く猫は、一直線に走って行く犬に比べて、ダンサブル。

 
 2013年、日本。


 

『ゼロ・グラビティ』

2013-12-21 21:55:19 | 映画-さ行
 『ゼロ・グラビティ』を観に行った。IMAX、3Dにて。

 前評判通り、腰が抜けそうになった。

 いえ、腰が抜けそうになるという評判は、私の耳はキャッチしなかった。
 しかし、すごい!という評判は、じゃ何がすごいのかと言うと私の場合、腰が抜けそうになるという体幹にかかわる反応で現れたのであった。
 

 海を漂流する、野原を放浪する、山をさまよう、埋められる、投げられる、猛スピードで落ちる。

 どれも遠慮したい。
 今、宇宙も遠慮したい。

 アルフォンソ・キュアロン監督、2013年、米。
 登場するのがサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーの二人だけというのも面白かった。(厳密には後何人か)


『世界一美しい本を作る男 シュタイデルとの旅』

2013-09-30 20:11:18 | 映画-さ行
 世界一美しい本って、どんな本だろう。と思い、観に行く。
 残念なのは、美しい本は映像では伝わりづらいということだ。手触りや、匂い。シュタイデル社のゲルハルト・シュタイデルさんは何度も何度も紙を手に取りそう言うけれど、客席ではよく分からない。

 でもシュタイデルさんの情熱は伝わる。
 昨日『スティーブ・ジョブス 1995』というインタヴュー・ドキュメンタリー(?)を観たけれど、シュタイデルさんと同様、情熱がすごい。情熱、魂、ビジョン、欲望。などなど。

 シンプルな欲望は、そこへ至るまでの複雑な道のりを、深く深く水の底に沈めるようだ。数えきれないメッセージを喚起して、そこに浮いている。

 映画を観るのも、ご飯を食べるのも、何かのための手段なんだけれど、何のための手段なんだか時々分からなくなる。
 私は目配せが多すぎる気がする。
 偉人は偉人だ。
 少なくとも私ではない。

 ゲレオン・ベツェル、ヨルグ・アドルフ監督、2010年、ドイツ。


               

   

『三姉妹 雲南の子』

2013-08-09 21:29:49 | 映画-さ行
 もしかしたらこれは、寓話だろうか。
 あんまりにも映像が美しいから、そんなことを思った。

 標高3,200メートルの空気は少し硬質なようで、なんだかざらざらしている。青い空。どこまでも続く山。薄い雪。薄暗い屋内。光と影。どのシーンも絵画を観ているようだった。

 そして貧困がある。
 監督はたまたま雲南へ出掛けていて、偶然この三姉妹に出会ったそう。そして姉妹の関係、内面に興味を持った。同国人の監督自身が、こう仰っている。「まさに“赤貧洗うが如し”という、生きていくということがただひたすら困難であるという状況を初めて目にしました」。

 これは寓話ではないので、この三姉妹のその後もまた映画に撮ってほしい。
 ただ、この三姉妹はどれだけのことを知っているのだろうか。この次は、この次があるとすれば、カメラに背を向けるかもしれないし、それは誰にも分からないけど。
 うずうずする映画だった。驚きやら憐れみ(!)やら不安やら喜びやら、色々な感情がわいてきた。そぐわないかもしれないけど、羨ましいとも思った。

 中国西南の雲南地方。最貧困と言われるこの地方の、標高3,200メートルの山間の村に暮らす、三姉妹を追ったドキュメンタリー。第69回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門最優秀賞、などなど。

 ワン・ビン監督、2012年、フランス・香港。


    

『人生の特等席』

2013-07-11 20:59:10 | 映画-さ行
 クリント・イーストウッドの4年振りの主演作で、自分の監督作品以外では、俳優をするのは19年振り。次はいつになるのかな、とも思うけど、正直言って出演作よりも監督作の方が待ち遠しい気がします。

 原題は『Trouble with the Curve』で、これは出てくる高校生スラッガーの問題のことなのかしら。もしくは映画全体において、何かの意味があるのかもしれないけど。そういう深読みの楽しみを考えると、人生の特等席、というタイトルは、ちょっとやり過ぎ出き過ぎじゃないかと思う。好みの問題だろうけど。

 ストーリーは、あまりにも正統的というか、観ている人の大部分が自然に予測するだろうところに進む。
 ただ、これはある意味気持ちが良かった。クリント・イーストウッドだけが、なんだか浮いてる感じもしたけどね。やっぱりそこばっかり観ているからかな。映画の中ではジャンク・フードばかり食べていたクリント・イーストウッドは、82歳。普段はどういうものを好んで食べてるんだろう?と、急に気になった。

 ロバート・ローレンツ監督、2012年、アメリカ。

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『ザ・シークレットサービス』

2013-06-01 21:06:32 | 映画-さ行
 クリント・イーストウッドを見ていたら、ジョン・マルコヴィッチが気になってしかたがなくなる。

 クリント・イーストウッドは公開当時、63歳、ジョン・マルコヴィッチは、40歳。撮影してた時は、お二人とももうちょっと若いんだろうけど。

 親子ほども年齢の違う人にからまれるって、どんな気分なんだろう。

 役柄の歳の設定は分からないけど、まあ、それくらい? 見た目から言って多分、俳優さんの実年齢とそう変わらないはずだ。目的は大統領暗殺だけど、完全に!ジョンがクリントにからんで行く映画だった。しかも素晴らしく、からみ切っている。からみにからむ。全然見劣りしない。互角のからみ。ブラボー、ジョン・マルコヴィッチ。

 ジョン・マルコヴィッチの出ている映画では、スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(1987年)が結構好きだった。こちらも怪しい役柄だったけど。ジョン・マルコヴィッチはがりがりに痩せていた。

 『ザ・シークレットサービス』は、ウォルフガング・ペーターゼン監督、1993年、アメリカ。ちなみに原題は『In the Line of Fire』だそうで、全然違うのだった。


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『白いリボン』

2013-05-04 21:22:09 | 映画-さ行
 ミヒャエル・ハネケ監督、2009年、ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア。カンヌ国際映画祭パルムドール、などなど。

 第一次世界大戦直前、北ドイツの農村を舞台にしたミステリー。

 と言っても、犯人捜しをする気にはなれない。あんまりにも陰湿で、不透明で、無意識的な悪意に画面全体が覆われているので、そこに見える「事件」はあっても、半目のまま身動きすらできない感じ。う~ん、怖い。

 青空が遠のく。

 ハネケ監督、今度は『愛、アムール』という作品でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞したそうなので、そちらを観よう。絶対に観よう。

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『ジャッキー・コーガン』

2013-04-30 22:50:37 | 映画-さ行
 大画面と大音響でスカッとしたい、とアウトレットモールにあるシネコンへ。平日とは言え、GW中のアウトレットモールの駐車場は混んでいた。並んでいたので、もしや入れない?と思いきや、別の入り口の駐車場は案外と空いていた。ああ、良かった。


 『ジャッキー・コーガン』、アンドリュー・ドミニク監督、2012年、アメリカ。

 ジャッキー・コーガンが、けっこう変な人だったな。「何をやったかではなくて、何をやったと思われているかが重要なんだ。」なんて言う。殺し屋のくせに、ケア・マネージャーと言うか、社会福祉士の資格を持っているんじゃないかと思うような振る舞いをする。心の機微というか、人の世の成り立ちのようなものに心を砕くのだ。それが彼のビジネス・スタイル、とは言え。

 原作(ジョージ・V・ヒギンズ『Cogan's Trade』)は1974年のものなので、映画の中でマケインとオバマの選挙戦や、その後のオバマ大統領の演説が流れるのは、映画用の時代設定があるということだろう。
 こう言ってしまうと面白くもなくなっちゃうけど、国と個人の幻想を対比させているんだろうか。「アメリカっていうのは国じゃない、ビジネスだ。」というセリフで、ようやく繋がりかける。ジャッキー・コーガンっていう人は、きっとロマンチストなんだな。「ビジネスなんだ」という価値観に、体重を掛けていこうとするんだから。それが美学なのかしら。

 ジャッキー・コーガンは、何をやったと思われてるか。

 正直言って、今回(?)そう大したことはしてないように思われる。もうちょっと、うわーすごーい!に違いない、と思われるようなイメージ戦略をコーガン氏が考えていてくれれば、このタイトルで良かったと思うけれど、観た後では、原題の『Killing Them Softly』で良かったんじゃないかとか思うのだった。
 
 製作・主演のブラッド・ピットは、わりと思索的な作品が好きなよう。今回のこの映画のシブさを生かして、ジャッキー・コーガンが脇役的に出てくるシリーズを作ってくれたら、もっと好き。他を派手にしてね。ジャッキー・コーガン、やっぱり大して何もしないみたいな。

ジャッキー・コーガン

『最初の人間』

2013-04-18 20:45:30 | 映画-さ行
 アルベール・カミュの未完小説の映画化ということ。

 アルジェリア出身のフランス人作家が、母を訪ねて、故郷のアルジェリアを訪れる。幼少期の回想と、紛争の激化しつつある現代(1958年)のアルジェリアが、境目も透明に、交互に映し出される。
 なにか粛々とした気分になる。ほぼ自伝と言われている小説が原作なので、映画全体が、カミュの心のうちを探っているようにも思える。

 曖昧で、引き裂かれて、宙吊りになっていて、未完。
 カミュの心境は分かりようがないし、ついでに監督の心境も分からないけど、画面のアルジェリアの太陽と、海と熱気の中では、それが普通のあり方にも思えてくる。そういう立ち方は、バランス感覚と、周囲の環境が(たとえば太陽)しっかりと支えてくれることが必要なのかも。見えない布団(?)みたいに。故郷とは、見えない布団である。なんだそりゃ。あと母もかな。

 新潮社から去年文庫本が出ているようなので、アルジェリアの(映画の中の)景色を思い浮かべながら、原作を読みたいと思った。たぶん、「最初の人間」が何を意味しているのか気になるから。曖昧でもいいけど。(ただ単に、ああいう景色が好きなのかもしれない。)
 ジャンニ・アメリオ監督、2011年、フランス・イタリア・アルジェリア。