tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『キーパー ある兵士の奇跡』…選択肢という希望

2022-07-09 23:25:44 | 映画-か行

dTVにて。昨日のブログで書いた『レボリューショナリー・ロード』のすぐ後に観た。

全く異なるジャンルの作品だけど、人間心理という面で、両作がとても興味深かった。

 

こちらはバート・トラウトマンという、サッカー選手としてイギリスの国民的英雄となった、あるドイツ人の半生を描く。実話を元にした物語。

1945年、捕虜となり、イギリスの収容所にいたナチス兵、トラウトマン。ある日地元のサッカーチームの監督にゴールキーパーとしてスカウトされる。1948年に釈放されるがそのままイギリスに残り、翌年、名門サッカーチーム「マンチェスター・シティFC」に入団する。並行する物語として、監督の娘、マーガレットとの恋愛、結婚が描かれている。

人々の憎しみと和解がテーマとなるが、トラウトマン、マーガレットという若い二人にフォーカスする事によって、時にユーモアを交えながら、しなやかで力強い生の軌跡が描かれる。

 

実は『レボリューショナリー・ロード』と『キーパー』は、同じ時代を舞台にしている。

 

『レボリューショナリー・ロード』の夫フランクは大戦の戦地から帰国した元兵士で、戦後の「パックス・アメリカーナ」を謳歌するアメリカが舞台だった。

片や『キーパー』は、戦中戦後の、我が身に戦争を経験した人々と爪痕の残る土地の話だ。

 

印象深かったのは、トラウトマンの台詞。

出会った頃のマーガレットに、あなたはあの恐ろしいナチスの兵士だと罵られる。マン・シティの入団会見でも、記者から「戦犯かどうか」と手厳しい質問が飛ぶ。

彼は「選択肢がなかった」「兵士として義務を果たしただけ」と弁明のように答える。

会見ではかぶせるように、他の記者から「調べたが、君は志願して入隊している」と問い質される。「戦争がどのようなものか、あの時はまだ知らなかった。前線に送られた時はもう遅かった。選ぶことは出来なかったんだ」と答えるが、「鉄十字勲章ももらっている」とさらに糾弾される。

 

入団会見の帰り道、「志願したって本当?真実が知りたい。妻として知る必要がある」と責めるマーガレットを、「真実って何だ。知る必要はない」と突き放すが、さらに畳みかける妻に、立ち止まり、ぶつける。

「君が犯した最悪の罪はなんだ?」 マーガレットは黙ってしまう。

「恥の記憶を人に話せるか?」

 

「最悪の罪」の影はその後の二人を左右してしまうのだが、ここでは置いておこう。

トラウトマンの言う「選択肢はなかった」という台詞は、その場しのぎの言い訳ではなく、本当なんだろうなと思った。そしてリアルだと思った。

 

志願したのだから自分で選択したとは言える。だがその時の彼には、目の前の社会、目の前の生活しかなかったのだ。(マン・シティのスカウトマン曰く、少年の年齢でもあった。)その中で最良の(と自身が判断した)選択肢が、志願兵になることだったんだろう。

ただ彼は前線を経験し、収容所を経験し、イギリスの人々と関わり合い、経験を重ねて行く中で、他の沢山の選択肢があることを知った。他の沢山の人生があることを知った。

その彼にとってみれば、当時の自分には「選択肢がなかった」という表現は、単なる言い逃れではなく、正直で「正確」な言葉なんだろうと感じた。

それが自分にとって「恥の記憶」であろうと。

 

 

選択肢というのは、希望なんだろうなと思う。

完璧な正義というのが難しいのと同じように、完璧な選択というのも難しい。私達は「より良い、とその時思った」選択をしているだけだ。

私達は日々色々なことを後悔しがちだが、今後悔するということは、実はその時より選択肢が増えている、と言っていいだろう。

選択した向こうに何が待っているかは分からないが、私達はいつもそこに希望を見い出そうとするし、幸い本能的に光の方角を選ぶ傾向にある。だから後悔することがあったとしても、自分のした選択を受け入れ、選択肢を知らなかった自分を許し、前に進んで行くしかない。次々に選択肢はやってくるのだから。

過去の自分に対して誠実であるというのは、そういうことなのかもしれないなと思う。

 

『レボリューショナリー・ロード』のエイプリルにも、あなたは無限の選択肢を持っている、と言ってあげたかった。エイプリルは自分で選択肢を狭め、失い、自分を追い詰めてしまったように、私には見えた。

一見満たされたような豊かさが原因だとか、片や切迫した自他との対峙が原因だとか言うつもりはない。ただ単純に、エイプリルに教えてあげたいと思った。そしてそのような、希望に満ちた物語にして欲しかったなと思った。

…それでは心理ホラーではなく、全然違う、別の物語になってしまうけど(汗)

 

 

『キーパー ある兵士の奇跡』、マルクス・H・ローゼンミュラー監督、2018年。英/独合作、119分。原題は『The Keeper』。

 

何だか長くなってしまったけど、繰り返し観たくなるような、印象深い映画だった。衣装や美術も含め、控えめな演出が心に残る。

トラウトマン役のデビッド・クロスの「外国人」も良かった。無口で、一つ引いたような位置を保っている。そして意志が強く、細やかな気遣いをする人柄が上手く伝わってきた。

まだ観ていないという方は、良かったらどうぞ!

 

 

 

 

 


『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』…ラストシーンでホラー的解決策を提示する映画

2022-07-09 00:32:52 | 映画-ら行

『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』、サム・メンデス監督、アメリカ。2008年、119分。原題は『Revolutionary Road』。

 

ゴールデングローブ賞、最優秀主演女優賞受賞(ケイト・ウィンスレット)。

原作小説は、リチャード・イェーツ『家族の終わりに』(1961)。

 

dTVにて。

1997年の『タイタニック』以来、主演の二人が再び共演ということで話題になった作品だけど、初めて観た。

 

幻想を扱うドラマは難しいな。

「今ここ」から逃れようと最後までもがいた、ケイト演ずる奥さんのエイプリル。ディカプリオ演ずる夫のフランクは、あっさり「1950年代アメリカ」の幻想の流れに乗ることが出来たように見えた。

 

でもそれ自体は何とも思わない。幻想にからめとられるのが怖いとも思わない。

それはそれで冒険だから。

 

マイケル・シャノンが「ジョン・ギヴィングス」役で、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。

この「ジョン・ギヴィングス」が全て説明してくれるんだよね。精神を病んだ数学者という設定で。ズバズバと分析し、二人の面前で二人の心理を描写していく。これはちょっとズルイなと思った。

作品を観ている者には説得力をもって聞こえる、彼の分析(?)は、物語を説明してはくれるけど、同時に物語から少し優しさを奪ったようにも思える。

 

まあ、ホラーだからいいのか。

 

一般的とされる幻想に違和感を感じざるを得ない「ジョン・ギヴィングス」は、再び薬を飲んで、病室に戻されるんだろう。

ジョン、あなたのお父さんは、もう、あなたのお母さんの話を聞いていない。

補聴器のボリュームをゼロまで絞り、聞いている振りをしているのを知っているのかな。

 

そのテクニックを、エイプリルにも教えてあげたら良かったのかもしれないね。

 

当時のポスター↑

‘燃え尽きるまで’という副題しかり、日本では「‘あの‘二人の恋愛映画」みたいに売り込みたかったのかもしれないけれど、何か違う…。