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『世界の涯ての鼓動』…水で繋がる男女の話

2022-10-12 03:07:25 | 映画-さ行

 『世界の涯ての鼓動』、ヴィム・ヴェンダース監督、2017年、112分。独・仏・西・米合作。

 原題は、『Submergence』(水没、潜水の意)。ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル。原作は、J・M・レッドガード、『Submergence』。

 

 この映画が、たびたび失敗だと言われるのは、どうしてだろう。

 二人の男女の出会いは、短すぎたのだろうか。

 束の間の休暇での二人の出会いは、5日間だった。知的で哲学的な二人の会話からは「運命の出会い」は感じられず、少し説得力に欠けていたのかもしれない。

 ダニーは、生物数学者として、超深海潜水艇に乗る。ジェームスは、MI6の諜報員として、南ソマリアで連絡員と接触する。

 設定も少し、突飛と言えばそうかもしれない。

 

 けれど私は、この作品が「息をしていた」ように思った。

 絶望を吸って、希望を吐く。

 冒頭から変わることなく、乱れることのない呼吸を、常に感じた。

 

 

 二人のそれぞれの任務は、「誰も知りたくもないもの」、「解決出来るとも思わないもの」に向き合うという所で一致している。

 深海の暗い海底で生命の誕生を探ることが、人類を環境問題などの生存の危機から救うことに繋がると、ダニーは信じる。「けれどそんな真っ暗な海底の事なんて、誰も興味を持たないわ。」

 諜報員であることを隠しているジェームズは、頻発するテロのニュースをダニーに読ませる。「興味を持ち知識を持つことで、解決に寄与すべきだ」と言うが、今度はダニーは、「古代の紛争に根ざす問題に、解決法があるとは思えない」と言う。

 二人はそれぞれ、思考の「世界の涯て」にいるが、物理的にも、それぞれの場所へと移動する事になる。

 

 

 さて、「世界の涯て」で呼吸しているのは、誰?

 ノルウェーの未知の深海に、ヨーロッパに一隻しかない潜水艇で沈むダニー。

 諜報員として誰にも知られず、ISに囚われ、生死をさまようジェームズ。

 自身もじきに殺される運命と言うISの医者は「死を受け入れる」と言い、ISの兵士は、「ジハード(聖戦)は、死後の命だ」と言った。

 誰もが世界の果てで鼓動を打つ。見ている観客もまた、世界の果てで鼓動を打ち、呼吸をしている。

 絶望を吸い、希望を吐く。

 

 私はジェームズは生き抜いたんじゃないかと思っている。

 なぜならラストシーンの直前で、彼は希望を吐いたところだったから。

 その規則正しさにならうなら、ジェームズは波の下で爆撃をやり過ごし、保護されたのだと私は思う。ダニーが海底で輝く生命を目の当たりにし、そして危機から脱し、水面へ浮上したように。

 

 ヴェンダース監督は、暗闇と光、絶望と希望をただ繰り返すこと、そして詩的で哲学的な言葉のイメージで、泡沫のように離れては繋がる世界を描いた。

 孤独と熱望が、絶望と希望が、全編を通して静かに聞こえたように思う。

 今も誰もが、当たり前に息をしている。

 

 

__何びとも自立した孤島ではない。

  皆が大陸の一片であり、全体の一部をなす。

  何びとの死であれ、私の一部も死ぬ。

  私は人類の一員なのだから。

  ゆえに問うなかれ、誰がために鐘は鳴るのかと。

  あなたのために鳴る。

 

  (John Donne 1572-1631 「不意に発生することについての瞑想」より抜粋。劇中でジェームズが朗読する。)

 

 

二人が出会うのは、ノルマンディの海辺の小さなホテル↓

ヴィム・ヴェンダース最新作『世界の涯ての鼓動』予告編

 

 



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