『ザ・メニュー』、マーク・マイロッド監督、107分、米、2022年。原題は、『The Menu』。
レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト。
伝説の料理人と言われる男がオーナー・シェフを務める、孤島のレストラン。ある晩、そこへ招待された十数名の男女が、とある「至高のフルコースメニュー」を提供されるのだが・・・というサスペンスもの。
※現在公開中の作品のため、これから観る予定の方は以下ネタバレにお気をつけください。
さて、この作品。メニューが提供されるごとに、含まれる狂気が増して行く。それらは全て、精神的に未成熟なまま孤高のカリスマとなった、スローヴィクの人となりを表すものだった。
もう一人の主人公、アニャ・テイラー=ジョイ演じるマーゴは、予定外の言動を通し、彼の別の一面を観客へ見せることになる。ただしその事が、レストランのコースメニューに変化を与えることはなく、つつがなく終焉を迎えるのが、伝説の料理人と、超高級レストランの気概のようなものを感じさせ、スクリーンにある意味恐ろしい崇高さを醸し出した。
面白いのは、終始皇帝のように振る舞うスローヴィクが、全てを創造しコントロールしているわけでもないこと。
「男の過ち」と名付けられたメニューの考案者である女性スタッフが、「今夜のコースのラストも私が考えた」と言っていて、具体的な死刑判決を下したのは、彼女であることが分かる。彼女の案(罰と言い換えても良いかも)を「至高のフルコース」に採用したのは、もちろん料理長であるスローヴィクだが。
副シェフのシーンでは、スローヴィクが「お前は偉大にはなれなかった」と彼に語りかけていたが、私にはスローヴィク自身に向けた言葉のように聞こえた。当然この言葉は、数秒後に死ぬことになる副シェフにも当てはまる。だが、「偉大になれなかった」と自分を評価し、そんな自分を憎んでいるスローヴィクの独白であってもおかしくないだろう。
なにせ今夜のサービスは、孤島に閉じこもった男の、脳内メニューなのだから。
ベトナム出身のホン・チャウ演じるエルサも、興味深い存在だった。
彼女はコンシェルジュの役割をしていて、まるで老練の執事のように職務をこなすのだが、後半マーゴとのやり取りの中で別の狂気を見せる。その際の彼女は、家父長制度の中の妻、夫に忠実に従い、自負と共にひたすら仕える妻を彷彿とさせる。もちろんそれは彼女だけのストーリーなのだが。
この作品の、突拍子もないシチュエーションと展開に説得力を与えるのが、上記のように挟まれて行く描写だと思うのだが、それでも私自身はちょっと腑に落ちかねる。
事あるごとに被害者を気取るスローヴィクだが、スタッフは何を共有していたのだろう。客はともかく(?)、自分達もコースメニューの為に仕入れられた材料となることに、何の喜びを感じたのか、今一分からない。
とにかくシェフ役のレイフ・ファインズの顔が怖い。これぞ狂気の天才顔か。
フェリーに乗ってやってきた今夜のお客様達。↓料理が出される前に、一つ一つ説明を受ける。
イラつくけど少し可哀想な役回りはニコラス・ホルト(右下)↓
世界一緊張を強いるシェフ、スローヴィク。↓
アニャはライダースジャケットで登場。↓そして足元はブーツ。いいぞアニャ!
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