BSテレビ東京で毎週木曜日に「日経スペシャル 私の履歴書」というのを上映している。
もともとは、日経新聞の「私の履歴書」を映像化したものである。
この番組がなかなか面白い。
今は、建築家の安藤忠雄さん(4回シリーズ)だ。
安藤さんの人間性がよく出ていて興味深い。
今日の特集の中に表参道の同潤会青山アパートの再開発について紹介されていた。
同アパートは、関東大震災(1923年)の復興事業として昭和2年に建てられたものである。
当時としては先進的な建物や設備が施され鉄筋コンクリートで建てられた。
しかし、昭和40年頃から老朽化が指摘され始めていた。
そして、1995年の阪神・淡路大震災を契機に同アパートの建て替え再開発の議論が起こった。
そして、入居者との話し合いを安藤さんは始めるわけだが、危険だとはわかっていても入居者は愛着を持っているため大反対されるのである。
私自身も友人がこのアパートに住んでいたことがあり、連れて行かれたことがある。
その友人は懐かしそうに蔦の絡まるそのアパートを誇らしげに紹介したものである。
正直、私にはその価値が見出せなかったが、手摺りを障りながら愛おしそうに説明するその友人の姿が思い出される。
話を戻すと、安藤さんは建築だけでなく再開発の問題にも巻き込まれたのである。
当初、地権者150人中賛成者はわずか10人。
聞く耳すら持たない人も多くいたという。
安藤さんは愕然としたという。
安藤さんの顔すら見たくないという人も出た。
多くの反対者を相手に意見を交わすのは、地獄のような時間だったという。
そして、地権者とともに悩み、苦しんだという。
出てきた答えは、「記憶の継承」
地権者一人ひとりの思い出を引き継ぐことだった。
計画から10年。
同アパートは表参道ヒルズにその姿を変えた。
建物の高さは同アパートとほぼ同じ。
それはアパート前にある欅(けやき)並木を心のシンボルとする人たちが多く、アパートの高さが見事に調和していたからである。
そして、ヒルズの横に一棟ですが同アパートを見事に復元した。
安藤さんは、何よりも「心の風景」を残すことにこだわったというのである。
その根本には、「決して妥協したくない」という精神が脈々と流れているからでありましょう。
そのためには、「時間をかける」というのだ。
時間をかけて相手を説得する。
このことは、私たちまちづくりを行うものが最も忘れてはならない精神なのである。
そして、同氏が設計した建物「坂之上の雲ミュージアム」がこの松山市にあるのはとても誇らしいことである。