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伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

続 ザザムシ漁の今

2018-12-26 23:19:59 | 民俗学

ザザムシ漁の今より

ザザムシ漁の道具(右側のタライは、選別器)

 

 ザザムシに関しては天竜川上流河川事務所で発行している『語りつぐ天竜川』の49集「伊那の冬の風物詩ざざ虫」が詳しい。著者の牧田豊か氏は、平成一桁後半時代の伊那市商工観光課におられた間に、問い合わせに応えるようにザザムシについて調べられた。今から20年以上前のことだから、当時はまだまだザザムシ漁をされている人は多かっただろう。収録されたデータも多いはずだ。同書には平成元年から7年までの鑑札発行者数が掲載されている。それによると、平成元年29名に対して、平成6年78人と、むしろ後年の方が多く発行されている。中村さんも、かつては70人ほどいたと述べられていたから、それを証明する数値である。

 以前にも触れたことがあるが、ザザムシという正式な虫はいない。佃煮として売られているものも、多様な虫が混在しており、牧田氏は昭和63年の中井一郎缶詰内の個体組成を示されている。それによると、トビケラの類が96パーセントを占め、ヘビトンボが3パーセント、ほかにミズムシの一種とニホンヨコエビが混在している。ほとんどがトビケラの類でいわゆる「アオムシ」と呼ばれているものだ。ザザムシと呼ばれているものにカワゲラの類があるが、組成割合はとても少ない。当然のことだろうが、カワゲラは体が小さい。あえて好んで混ぜる必要もないといえる。中村さんの場合、採取した網の中から通称アオムシと言われるトビケラ類と、マゴタと言われるヘビトンボのみ採取するという。ようは身のあるもの、油の乗っているものを選んでいるということだ。

 中村さんの漁を見ていて感じたことは、天竜川の岸辺りを下流から上流に移動しながら採取しており、あくまでも川の端部に沿っての漁である。「中側に移ってしないのですか」と問うと、流れの早いところは虫が少ないという。流速が遅すぎると足踏みして虫が浮いても流れないため、四つ手網に入らない。浅瀬で虫が巣食う程度の石があって、それでいてある程度流れがある場所、そういった場所を狙って漁場を求めているようだ。アオムシは、川の中の片手で持ち上がる程度の大きさの石を裏返してみれば、必ずといってよいほど巣食っている。ようは四つ手網で獲らなくとも、石を裏返しながらひとつひとつ採っいっても採取できるわけだ。もちろんそれでは効率が悪いから、四つ手網へ足踏みした虫を採取していく今の方法が考えられたのだろう。

 

過去の日記から 

ザザ虫漁解禁 2005-12-04

ザザ虫 2011-12-30

ザザムシのこと 2013-04-28

 


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