元ライターの小説家への道

僕もまだ本気を出していません。

深夜特急-中編-

2008年05月17日 15時14分49秒 | 日々雑感
 同じ「うん、良いよ」でも

「うん、良いよ」(原幹恵)
「うん、良いよ」(鳥居みゆき)

とするとイメージがまったく違いますね。

---

 前回の続きです。

 日曜夜の終電間際の大阪駅は寂しい。土日の喧騒が砂にしみこむ水のように消えている。

「あ、夕食を採っていなかった」

 僕は大阪駅構内のコンビニで弁当を買った。そして駅のホームでそれを開き、ベンチに座ってモソモソとそれを食した。

★

 向かいのホームにはまだ人が残っていた。この人たちはこれから家へと向かうのだろう。僕はこれから客先に行くというのに…。弁当を食べるとホームに一匹の猫が通り過ぎた。

★

 地方ならまだしも大阪駅のホームに猫?ふと周りを見渡すと深夜特急を待つ乗客が集まり始めていた。そして目の前には、白いヒラヒラのワンピースを着た女の子と、ヨボヨボのスーツを着た男性がいた。男性は女の子の肩をしっかりと抱いている。女の子は足が悪いのか片足に金属でできたギブスのような物をはめ込んでいた。それがスカートから覗いている。なんか幻想的。大槻ケンジの世界観に迷い込んだ感じだ。やがて列車が15分送れて到着した。サンライズ瀬戸号は全室指定の個室になっている。僕の指定券には10号車の16と刻まれている。

 

 しかし列車に乗り込み10号車の16と書かれた部屋の前に行くと扉が閉まっていた。初めての深夜特急なので勝手が分からない。扉にはレバーがついたスライド式なのだが、どうやっても開かない。他の乗客は自分の部屋を見つけて入っていく。力任せにレバーをスライドしようとしても、まったく動かない。もしかして扉の横についているボタンに何か入力するのだろうか。



 扉の説明書きを見るとパスワードを入力するように書かれている。パスワード?そんなの聞いていないけどな…。乗車券をチェックしてみてもそれらしきものは書いていない。もしかして誰かが間違えて入っているのではなかろうか?力を込めて再度レバーに両手をかけてオリャーとしたら、中からガチャリという音がして扉が開いた。

「入ってますよ~」

 中には人がいた。30歳前後の兄ちゃんだ。グラマラスボディの女性が乗っていれば良かったのに!!

「あれ、すみません。乗車券あってますか?僕はこの客室で予約してあるんですけど」
「いいや私もこの客室ですよ。10号車の16番ですよね。出雲から乗ってるんですけど」

 あっている。しかし僕の乗車券にも10号車の16番と書かれている。

「ちょっと乗車券見せてもらって良いですか?」

 兄ちゃんが言うままに乗車券を渡した。僕の乗車券はさっきみどりの窓口で買ったばかりのものだ。絶対的な自信がある。

「あれやっちゃいましたね~」

兄ちゃんが言った。それに対して僕。

「そうでしょう。やっぱり間違ってたでしょう。違う客室でしたか?」
「いいや、違いますよ。お兄さんのチケットは明日の分ですよ」

 んなわけない。

「え、日にち違いますか?」
「だって今日は5月11日ですよ。これは明日のチケットじゃないですか」

 5月11日は日曜日の話。今の日時を正確に言うと5月12日の1時前、月曜日だ。

「いえいえ、違いますよ。この列車が大阪を出発するのは、日付を超えた5月12日です」
「え、今日って11日じゃないですか?11日は日曜日ですよね」

 僕は携帯のカレンダーを見せながら説明した。

「日曜日は11日ですが、たった今は12日で月曜日です。そして僕の乗車券は12日に大阪を出発することになっています」
「あれー、僕はJRの人に日曜日の夜に出発するチケットで予約したんだけどな~」

 その時、隣の車両から車掌が訪れた。

「すみません、チケット見てもらって良いですか」

 僕は兄ちゃんからチケットを返してもらい車掌に渡した。

「ああ、この客室はお客様の部屋ですね」

 ガッツポーズ!しょげる兄ちゃん。兄ちゃんはすでにすっかりくつろぎモードのラフな格好で本を片手にワインを飲んでいた。どんだけウキウキな小旅行なんだよ。

「ええ、僕は日曜日の夜に出雲を経つってチケットを買ったんですよ。これは駅員のミスですよ」

 と彼は言うと車掌さんはフムフムと頷き、僕にこう言った。

「じゃあお客様は20号室でよろしいですか?そちらが空いておりますので」
「ああ、良いですよ」

 すでに人が使った部屋を使いたくはない。

「どうもすみませんね」
「いえいえ良いんですよ」

 と言って20号室に行ったが一瞬で後悔した。駄々をこねて高い部屋に変えてもらえば良かった~。

つづく。 

---

 父の日のプレゼントに買っちゃいなよ。

ノーブランド シルバーアクセサリーショップ 銀ピカ.com
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

深夜特急-前編-

2008年05月17日 00時40分03秒 | 日々雑感
同じ「ありがとう!」でも

「ありがとう!」(優香)
「ありがとう!」(谷村新司)

とするとイメージがまったく違いますね。

---

 システムが本番を迎えるに辺り、僕は焦っていた。12時間後の月曜日の朝8時にシ
ステムが開始するというのに環境設定ができていない。予定では1.5人/日で終わる予定だったのだが、フル3日を使ってこの体たらく。しかも12時間後には東京にいなくてはいけない。そして新幹線の終電は5分後に控えている。

「もうダメだ…」

 環境の設定は絶対にやらなくてはいけない。しかも12時間後に東京にもいなくてはいけない。任せられる人はいない。自分だけが頼りなのだ。しかしそんな時でも大丈夫。大阪から東京に向かう手段は何も新幹線ばかりではない。深夜特急サンライズ瀬戸号があるんだもんね。

 30秒で1周してるんじゃないかという錯覚を覚える秒針を気にしながら、コツコツと環境整備。最後の手段である深夜特急があるからと言って、のんびり仕事を進められるわけではない。最悪は徹夜をして、約束の時間から数時間遅れて東京に戻るケースもありうる。しかも戻って床につけるわけではなく、普通に会社だ。

 さらに追い討ちをかけるように、既に僕の顎には不精とは呼べない髭が生え始めていた。1.5人/日で終わると思っていたので、着替えや身だしなみグッズが十分ではないのだ。体は臭くないかしら?そんなことを考えながら仕事をしていた。

 結局、仕事が終わったのは23時頃。そこから大慌てで帰京する準備をして大阪駅へとダッシュ。だがしかし、僕には深夜特急に乗るだけのお金がなかった。往復新幹線の回数券を購入していたので、多少お金がなくても大丈夫!と思っていたのだが、まさかの結果。

 駅への道すがら、ATMのあるコンビニで金を下ろそうとするが、みずほ銀行って大阪で人気ないのかね?取り扱っていないとか、時間外ですとかゼンゼ金を下ろせない。このまま駅に行ってもな…と思ったのだがアレですわ。困った時のアレですよ。クレジットカードでキャッシングですよ。私、生まれて初めてキャッシングをしました。

 とりあえずの現金を手に入れて、大阪駅に着いたのが0時前。

つづく

---

 父の日のプレゼントに買っちゃいなよ。

ノーブランド シルバーアクセサリーショップ 銀ピカ.com
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする