「子供ネット依存 そのサインは」
子供だからという問題ではない。大人だって。
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会社からの帰り道、スマフォで再生する音楽をチョイスして胸ポケットにしまおうとしたところ、女性から声をかけられた。この道は江東区の免許センターが近くにあるので、迷い人に声をかけられることが度々ある。ただそれは朝であり、夜の20時過ぎのことではない。
「電話をかけたいんですけど…」
「え~」と思った。俺が手にしていたスマフォを見て、これで電話をしたいのかと。よっぽど緊急な用事があるのかと訝しく思った。ただその女性の格好を見るとそうも言えない感じ。夜にもかかわらず濃い丸いレンズのサングラスをかけて、黒のジャージ上下。片手には白い杖を持っている。持っているのであってついてはいない。髪の毛はボサボサで顔の輪郭はハッキリしない。年齢は40歳くらいだろうか。
外見で判断して目が不自由な人なのだろうと思い、スマフォを貸してあげようと胸ポケットに手を入れると言葉を次がれた。
「お金をください。公衆電話で電話をかけたいんです」
少しほっとした。緊急ならともかく、俺の電話で長電話をされたらかなわない。けど俺は不審に思った。いまどき公衆電話なんてあるのだろうか。
「お金を上げるのは良いけど、ここら辺に公衆電話なんてないんじゃないですか?」
「あるんです、そこの角を左に曲がったところに。さっき話をしてたんで」
しかし彼女が指差す曲がり角の先はオフィスビルが立ち並ぶ通りで、公衆電話はなかったように思う。ただオレも正確には覚えていないので、渋々承諾。少し話すだけなら10円で良いだろう。ここはちょっと優しさを出して、100円くらい渡そうか。しかし彼女はこう言った。
「10円じゃなくて、100円ください。100円が良いんです」
ここら辺で、「アレ?この人、おかしいぞ」と思い始めた。夜の通りで財布の中を見ても、小銭がいくらなのかよく分からない。それでもどうにか1枚ある100円を見つけ出した。
「はい、どうぞ」
「もっとです。100円を何枚もください」
財布の中に100円は一枚しかない。実は100円玉が1枚しかないのには理由があった。会社にグリコのデリバリボックスがあり、100円でお菓子をひとつ買えるようになっている。俺はたまに利用するのだが、わざわざ財布から100円玉を取り出すのが面倒なので、財布に溜まった100円玉は机の引き出しに入れるようにしていたのだ。たまたまこの日、俺は100円玉を机の引き出しに移していた。そして最近のコンビニ等の支払いは基本的にパスモ。その結果、100円玉以外の効果が俺の財布にはジャラジャラある。
「いえ、もうないです」
「500円でも良いんです。もっとください。相手の人は携帯電話なんです」
ああ、それなら仕方ないか。とは思えなかった。公衆電話って500円玉使えたか?しかも財布には数枚の500円玉。
「いや、もうありません」
「10円でも良いんです」
10円なら財布にあった。俺は仕方なく財布から10円を取り出そうとしたが、夜の通りの出来事。10円のつもりが500円玉をポロリ。俺はあわてて引っ込めて、10円玉を手渡した。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
と言って彼女は俺の後ろでお辞儀をした。俺は駅へと歩き出した。彼女も俺の三歩後で公衆電話があると言った交差点のほうに歩きはじめた。しかし、やがて訪れた交差点を彼女は素通りした。俺は駅へと進む。駅近くの信号機がある交差点を俺は左へと曲がり駅へと向かった。後ろを振り向くと、女性は信号待ちをしていた。公衆電話がある交差点はとっくに過ぎている。
彼女はどこにいくのだろう。俺は少し離れた場所で信号が青になるのを待った。歩行者用のシグナルが青に変わると、彼女は白い杖を片手に持ちながら小走りで交差点を突きぬけ、人ごみの中に紛れていった。
俺の110円は彼女のクソ交遊費へと消えていった。
ちなみにスタードッキリ丸秘報告の仕業かと思ったが、最後までテレビクルーはあらわれなかった。
子供だからという問題ではない。大人だって。
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会社からの帰り道、スマフォで再生する音楽をチョイスして胸ポケットにしまおうとしたところ、女性から声をかけられた。この道は江東区の免許センターが近くにあるので、迷い人に声をかけられることが度々ある。ただそれは朝であり、夜の20時過ぎのことではない。
「電話をかけたいんですけど…」
「え~」と思った。俺が手にしていたスマフォを見て、これで電話をしたいのかと。よっぽど緊急な用事があるのかと訝しく思った。ただその女性の格好を見るとそうも言えない感じ。夜にもかかわらず濃い丸いレンズのサングラスをかけて、黒のジャージ上下。片手には白い杖を持っている。持っているのであってついてはいない。髪の毛はボサボサで顔の輪郭はハッキリしない。年齢は40歳くらいだろうか。
外見で判断して目が不自由な人なのだろうと思い、スマフォを貸してあげようと胸ポケットに手を入れると言葉を次がれた。
「お金をください。公衆電話で電話をかけたいんです」
少しほっとした。緊急ならともかく、俺の電話で長電話をされたらかなわない。けど俺は不審に思った。いまどき公衆電話なんてあるのだろうか。
「お金を上げるのは良いけど、ここら辺に公衆電話なんてないんじゃないですか?」
「あるんです、そこの角を左に曲がったところに。さっき話をしてたんで」
しかし彼女が指差す曲がり角の先はオフィスビルが立ち並ぶ通りで、公衆電話はなかったように思う。ただオレも正確には覚えていないので、渋々承諾。少し話すだけなら10円で良いだろう。ここはちょっと優しさを出して、100円くらい渡そうか。しかし彼女はこう言った。
「10円じゃなくて、100円ください。100円が良いんです」
ここら辺で、「アレ?この人、おかしいぞ」と思い始めた。夜の通りで財布の中を見ても、小銭がいくらなのかよく分からない。それでもどうにか1枚ある100円を見つけ出した。
「はい、どうぞ」
「もっとです。100円を何枚もください」
財布の中に100円は一枚しかない。実は100円玉が1枚しかないのには理由があった。会社にグリコのデリバリボックスがあり、100円でお菓子をひとつ買えるようになっている。俺はたまに利用するのだが、わざわざ財布から100円玉を取り出すのが面倒なので、財布に溜まった100円玉は机の引き出しに入れるようにしていたのだ。たまたまこの日、俺は100円玉を机の引き出しに移していた。そして最近のコンビニ等の支払いは基本的にパスモ。その結果、100円玉以外の効果が俺の財布にはジャラジャラある。
「いえ、もうないです」
「500円でも良いんです。もっとください。相手の人は携帯電話なんです」
ああ、それなら仕方ないか。とは思えなかった。公衆電話って500円玉使えたか?しかも財布には数枚の500円玉。
「いや、もうありません」
「10円でも良いんです」
10円なら財布にあった。俺は仕方なく財布から10円を取り出そうとしたが、夜の通りの出来事。10円のつもりが500円玉をポロリ。俺はあわてて引っ込めて、10円玉を手渡した。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
と言って彼女は俺の後ろでお辞儀をした。俺は駅へと歩き出した。彼女も俺の三歩後で公衆電話があると言った交差点のほうに歩きはじめた。しかし、やがて訪れた交差点を彼女は素通りした。俺は駅へと進む。駅近くの信号機がある交差点を俺は左へと曲がり駅へと向かった。後ろを振り向くと、女性は信号待ちをしていた。公衆電話がある交差点はとっくに過ぎている。
彼女はどこにいくのだろう。俺は少し離れた場所で信号が青になるのを待った。歩行者用のシグナルが青に変わると、彼女は白い杖を片手に持ちながら小走りで交差点を突きぬけ、人ごみの中に紛れていった。
俺の110円は彼女のクソ交遊費へと消えていった。
ちなみにスタードッキリ丸秘報告の仕業かと思ったが、最後までテレビクルーはあらわれなかった。