安部龍太郎著の『バサラ将軍』を文春文庫で読んだ。安部龍太郎は、2013年『等伯』で直木賞を受賞。以前、図書館に着いたばかりの『等伯』は読んでいる。
『バサラ将軍』は太平記を題材にした短編集で次の作品が掲載されている。
『兄の横顔』、『師直の恋』、『狼藉なり』、『知謀の淵」、『バサラ将軍』、『アーリアが来た』
著者は19歳で作家を志したが、時代小説に取り組んだのはかなり後のことで、図書館勤務時代にその近くに新田貞興を祭った新田神社があり、足利方のスパイとなった竹沢右京亮に欺かれて、多摩川の矢口の渡で打ちとられた話に興味を持ち、太平記にあたってその文章に触発され、『知謀の淵』の前半部分を『矢口の渡』という短編に書いたものだという。後に、現代ものに行き詰まって友人の助言もあって時代物に転じ、『等伯』で直木賞を受賞するまでになった。
『バサラ将軍』という短編集は、足利幕府初代将軍・尊氏から、「花の御所」をつくった義満、南蛮貿易を開こうとした義持まで、足利幕府の時代を描いている。様々な太平記をもとにした小説も読んだが、この短編集はそれぞれの時代を切り取っていて面白いと思った。