先日、映画『少年H』を鑑賞して原作が読みたくなって書店を探したが、文庫本は下巻があるだけで見つからず、上製本もなかった。古書店もあたったが発見できなかったので、大野図書館に問い合わせたところ「書庫にある」という返事なので借り出して読んだ。
『少年H』の作者は妹尾河童である。妹尾河童は1930年神戸生まれ。グラフィックデザイナーを経て、1954年、独学で舞台美術家としてデビュー。以来、演劇、オペラ、ミュージカルなどで幅広く活躍している日本を代表する舞台美術家なのだそうだ。舞台芸術に詳しくない私の知らない世界である。『少年H』は著者の自伝的小説で著者の最初の小説なそうである。
神戸の洋服仕立て職人の家に生まれた少年Hは、敬虔にキリスト教徒の母と妹、そして洋服仕立て職人の父の4人家族。この家族が、満州事変に始まる15年戦争に巻き込まれ、軍事優先の政治や社会になじめないまま終戦を迎え、終戦後の混乱の中から後にグラフィックデザイナー、舞台美術家となる道を画家のやっている看板屋で働くことによって見つける。映画もなかなか良かったのだが、原作には映画では描ききれない部分もかなりあって面白かった。講談社刊行の上製版は1997年に刊行されていて、当時かなりヒットしたらしいが、その当時は時代小説一辺倒でこの本に手を出す機会はなかった。憲法改悪、国防軍創設などが狙われている昨今。戦争を神戸の一角にいた少年の目で批判している『少年H』は今読んでもらいたい作品である。