中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

第5回紬きもの塾 桜で染める

2014年07月29日 | 紬塾 '13~'16

梅雨明け後の連日の猛暑の中、桜の小枝を使っての染色をしました。
媒染にはアルミと鉄を使いました。
染めるものは自分たちでつむいだ糸と帯揚げなどです。

朝のうちに採った桜を手分けしてチップにしました。
今回は葉と枝をきっちり分けて染めてみました。

チップはなるべく細かくします。枝は金槌で叩いてからチップにしました。
葉は細かくちぎります。
丸ごとのままで煮ても十分に色は引き出せません。
カツオ節のだしを取るのに削らないでそのまま鍋に投入する人はいませんよね。

煮出しは5分ごとぐらいにガラス瓶に煎汁を少し入れ色を見ていきます。

色素の抽出が湯の中で飽和状態になる瞬間がありますので見極めます。
それ以上していくと染材の中に戻っていきます。逆染色になります。
生木を使い糸や布の浸染をするなら煮詰める必要はないと思います。

参加者のお一人がこの話をしている時に、カニを茹でる仕事をしている人が「茹で上がってすぐに取り出さずに、ひと呼吸置いて取り出すとカニの身が美味しくなる」と言っているのを聞いたことがあるとの話を披露してくれました。
ゆで汁に出たうま味をもう一度身に戻すということでしょうね。

染める場合も火から下ろしても「留め釜」といって温度が下がるまで置きます。
その時色素は繊維としっかり結合します。
大事な時間です。
染色も料理も一緒ですね。

なるべく染材も時間も水もガスも労力も無駄にエネルギーは使わないように効率よく染液を作ることが大切です。
これは染色に限りませんが・・・


また布を染めるときには染液はヒタヒタぐらいで大丈夫です。
絶えず布を動かします。
ムラにならないようにと多めの染液で染めると浮力がかかって水面に出やすくムラになりやすくなります。
その場を離れる時は落し蓋をします。

湯通し後の糸の絞りbefore

イマイチafter? 
ステンのポールを使っての絞り、これが案外難しいみたいです。
完璧ではありませんがポールの近くのところの糸束が曲がってないので上の写真よりは絞れています。
左手の使い方はちょっと違いますが。。

糸の絞り方や洗い方、紬糸を毛羽立たせないで効率よくやる方法も話しました。
また糸を絞ったあと、腕にかけてパシパシはたいている光景を見かけますが、糸をほぐして風を入れるために必要な行為のはずですからしっかりと絞れてなければ風は入りません。絞れてない糸をはたくのは、糸を伸ばし、毛羽立たせ、風合いを損ねるだけの行為になります。

毎回書いてますが、いつでもものをよく観察し、発見し、気付くことが、大切だと思います。
それには全体を見渡すことと、細部を観ることが同時に行われなければならないと思います。


休憩タイムは染の合間を見て・・・キャラメルアイスクリームでした。うえやまともこさんのスプーンで。

紬塾は前半5回を終えました。10月までお休みです。
紬塾の皆さんは前半のおさらいをしておいてください





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藤井達吉の全貌―野に咲く工芸 宙を見る絵画

2014年07月18日 | 工芸・アート


渋谷区立松濤美術館「藤井達吉の全貌」展へ行ってきました。

17年ほど前にも東京近美での特別展を観て、暮らしの中にある工芸というか手芸的とも思いましたが、今回は初めて見る絵画も多く、本当に素晴らしい展観でした。

自由でおおらかで、楽しくて、モダンで創る喜びに溢れ、全く古びない作品です。
1時間以上をかけてじっくり観て来ました。

工芸、美術、書、装丁、室内装飾、様々なものが人々の暮らしの中で生きてある美の世界を追求した方です。

工芸や美術、染織、境目のない統合の美の世界があります。

アート鑑賞塾でも再三話題に登った「工芸、美術を分けるものではない」という考えと同じようなスタンスで制作されています。
かたちの会のコンセプト「創る悦び、使う愉しみ」とも合致します。

いわゆる職人芸的なものではないのですがレベルの高い美術家のセンスを感じることができます。
作り手としても使い手としても力をもらえる展示でした。

中央からは離れて仕事したようですが、今こそ藤井達吉が再評価され多くの人々にその作品と考えを知ってもらえるといいのではないかと思います。

今現実のものとしていくことはたやすいことではないけれど、私にできる紬織りを通してできることをやるしかないと私は思っています。

3.11以降の日本に大切な大きな意味を投げかけてくれていると思います。
私たちに大切なものは何か――
自然な美の世界、自然の理から生じる美の世界を大事にしたいです。

7月27日(日)までです。
画像ではほとんど良さが伝わりませんが、こちらのサイトもご参考まで。



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梅雨時の着物と和装下着

2014年07月12日 | 着姿・作品
先日、私の作品集『樹の滴』を読み、着ることの大切さを感じて下さり、単衣の着物を着ることを始めようとしてくださった方から問合せをいただきました。織物をされている方です。

手紡ぎ手織り木綿の着物を単衣で着るのに、クーラーのない部屋では着ているうちに汗だくになってくる。どんな下着を着れば良いのかというような質問を受けました。
紬きもの塾受講の方には11月の講義の時にお話する内容なのですが、季節物という事で少し書きます・・・

まず、梅雨明け前の蒸し暑い時期には木綿の着物は最適とは言えないのですが、
手紡ぎのオーガニックコットンであれば布にかさ高性が有り、発散性も普通のものに比べてあります。
下着は麻の肌襦袢に麻の長襦袢,または半襦袢。下はステテコ。
透けない生地なら裾除けなしで大丈夫です。

麻は肌あたりが強くて向かない方はセルロース系再生繊維のキュプラ、レーヨンなどが良いです。
麻ほど涼しくはありませんが、吸湿性と放湿性にも優れています。裾さばきも良いです。
また他にも着物スリップで放湿性のある良いものがあるかもしれません。

私は麻とキュプラ、木棉の生地のステテコを気候に応じて使い分けています。
またフラットな生地よりも楊柳などの立体的なものは、通風性が有り良いです。
ローライズのタイプがあればいいのですが、ほとんどなくて本当に和装下着は研究されてないのですね。
和装用以外でも探しているのですが、こちらは幅がぴったりしすぎていて、これもイマイチなのです。

普段着の透けない木綿や紬でしたら麻、または綿麻の半襦袢、下を麻、キュプラ、レーヨンなどのステテコで良いのではないでしょうか。
裾さばきを気にするならレーヨンの裾よけをすれば良いと思います。

また帯回りの暑さは本当にかないませんが、汗取りのついたリネンの肌襦袢は汗疹も抑えられて良いです。

浴衣や麻などの自分で洗える着物の場合は、汗取りのついていない麻の楊柳の普通の肌襦袢のほうがかえって涼しいと思います。
身八つ口から風を通して乾かすのが一番です(身八つが大きく開いているので)。
空気穴のようなものです。
私は時々身八つ付近の背中側をつまんでパタパタ風を送ることをします。
これは効果的です。煙突効果ですね。

絹の薄物などの着物に汗染みをつけないようにということなら汗取りがある方が良いです。
あと、汗取りようにリネンのワッフル生地などのタオルで別に汗取りパッドとして作るのも良いのではないかと思います。端に紐をつけたりして。

ヘンプ肌着、汗取りタオルにつきましてこちらもご覧ください。'16.6.23追記

私もクーラーのない部屋で着物を着付けますがなるべく時間をかけずに一気にいきます。
気合ですっ!!
私は梅雨明けまでは紬の単衣で通します。
真綿系の立体感のある紬は梅雨時には最適の着物と思います。適度な張りや肉厚感もあり、通風、シワになりにくいなどの点でとてもよいです。
汗染みも付きにくく、雨に会ったとしても平絹に比べればたいしたことにはならないですみます。
単衣の紬は暑いという方もいますが、地の目の詰んだ固いものや機械織りはいずれにしても着にくいので防水加工をして雨コートなどにするのも良いと思います。
紬は使われる糸の質も太さも織りの密度も様々で一様ではないのです。

また帯も大事です。紬の半幅帯をこの時期特によく締めます。
帯芯も夏用を入れてもらいます。
 自作の藍染の縞半幅帯。
締めるのが簡単。帯揚げ、帯枕が不要なのでずっと楽です。
上質の半幅帯はカジュアルになりすぎずに着用範囲も大きいです。
帯芯なしの八寸名古屋帯もこの時期は良いですね。

梅雨から秋口まで、我慢大会にならずに少しでも楽に着物を楽しみたいです。
他にもいろいろ工夫されている方もあると思いますので教えて頂ければ広めたいと思います。

 製作中の帯。
単衣向きの紬や半幅を含めた紬の会を11月に予定しています。
来シーズンに向けてご検討下さい。またお知らせします。


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「『現代工芸論』出版記念の集い」無事終了しました!

2014年07月02日 | 工芸・アート


「『現代工芸論』出版記念の集い」と「井上まさじ展」が無事終了しました。
2日目の講演会とコンサートにはたくさんの方にご来場いただきました。
みなさまありがとうございました。


もっと聞きたかったし話したかった講演会。
「観念の設定ではなく、自己の外にある対象と向き合う」
「具象性を超える」
「表現系と機能(実用)系を価値付の上で区別しない」
この3点について例をあげて解説がありました。
参加者から「今日の話は当たり前のことを言っているのですよね」というコメントもありました。
陶芸の桶谷寧さんも聴講して下さり、真を付いた語録を残してくださいました。
またこれからも工芸の問題を考えていきたいと思います。


もっと聴きたかった歌、もっと歌いたかったワークショップ。
ワークショップの『うさぎ』谷川俊太郎作詞、松下耕作曲は私には結構ハードル高かったです。。。><;

短い時間に少しタイトになりすぎてしまいましたが皆様はお楽しみいただけましたでしょうか?
たくさんの心に残る言葉や人の出会いがありました。
紬塾の方もたくさん参加してくれて嬉しかったです。


ソプラノの名倉亜矢子さんのコンサートの後半、日本の曲に入ったあたりで、激しい雨と雷鳴の中で真っ暗になってきました。声がかき消されないか少し不安な気持ちになりました。
しかし名倉さんは全く動じず、雨音と共に声を響かせ、雨音は名倉さんの声を浮かび上がらせるBGMのようでもありました。
不安は消え、むしろこれでいいんだ――というような安心した気持ちになりました。

最後の方は涙ぐんでいる方もありました。
「雨の音が雑音にならないでむしろ効果的だった」という方もおられました。

とにかく忘れられないコンサートになりました。
名倉亜矢子さんの力量を改めて知る機会となりました。







仏蘭西舎すいぎょくさんの会場も庭も本当に素晴らしく、丁寧に手入れをして使われているテーブルや椅子は展示の邪魔にもならず、添え物でもなく、井上まさじさんの絵とのコラボレーションも楽しませてくれました。

29年使われている建物の内装、テーブル、椅子、調度品もすべて国産のムクの天然木を使用、
飛騨高山の工芸集団「オークヴィレッジ」が手掛けたものです。
使わせていただき心より感謝申し上げます。

8月いっぱいレンタル可能です。
9月からはレストランもリニューアルオープンします。
詳細はこちら

井上作品も素晴らしかったです!!!
小さな丸を連ねた作品。この絵は毎朝少しずつ描かれます。どれだけ描かれたのでしょうか・・


サブコーナーの器たちもテーブルと調和していました。




都合で長くはできず、短い期間で本当にもったいない展示だと片付けながら心底思いました。

工芸だ美術だ着物だ音楽だ建築だ、というくくり方ではなく、すべてがトータルに自然体で自然から導かれ、自然と調和し、これからの新しい手仕事、手わざ、身体を通した仕事に注目したいと思います。

かたちの会は小さな会ですが、そういうもの、そういう人たちを紹介していきたいと改めて思います。
これからもご支援ご協力のほどよろしくお願い致します。
詳細はかたち21のHPをご覧ください。

 
名倉亜矢子さん、笹山央さんと、井上まさじさんの絵の前で記念撮影です。
細身のお二人と並ぶと幅が強調されてしまいますが・・・^-^;


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