寒さの残る3月初旬に工房へお越しのお客様の着姿をご紹介させていただきます。
ピンクベージュ地の縞着物は『きもの美巡礼』[森田空美著]の巻頭でご紹介頂いた着物で呉服屋さんでお求めいただいたものです。
縞は桜、ドクダミ等で染めた紫味のピンク系です。地糸は柿やヤマモモ、桜などで染めた真綿紬糸を混ぜながら景色、奥行きが出るように織りました。
単衣でもいいように太目の糸も混ぜながら立体的に織っています。
かたち21主催の展示会ではこの梨染めグレーの帯「枯山水」、帯揚げ、帯締め、帯留(小川郁子作)などセットでお求めいただきました。
帯揚げは白に近いピンクベージュです。帯留の色はワンポイントになっていますが、強すぎず調和していると思います。
実は三分紐も真っ白ではなく、帯になじむようほんの少し草木で染めてあります。
季節により天候により、その日の気分により小物を替えるだけで秋にも真冬にも様々な場面で着こなせます。
日本庭園の見立ての「枯山水」のように自然や自分と向き合って、自由に使いこなしていただければ幸いです。
八掛は薄紫ぼかしです。女らしい雰囲気で素敵ですが、また次の洗い張りで色を替えたり、袷から単衣に替えることもできます。
ガラッと雰囲気を変えることができます。一生工夫して擦り切れるまでお召しいただきたいと思います。
着姿ページでも紹介しています。
私の紬の仕事は手つむぎ糸の存在感と草木の生きた色を生かすように制作しています。ただそれだけです。
一反一反、糸選び、色選びに全神経は注ぎますが、難しいことは何もしていません。図案も描きません。
個人の表現以前のものの美しさと向き合いながら現代の感覚を色糸を見ながらデザインしていきます。
特別なものは織ってないつもりですが、原点を踏まえさえしていれば個人を超えた普遍的なものの美につながり、人の世で受け入れられる。
取り合わせるもので立ち表れる世界が変わり、着る人に寄り添い、支える事のできる着物を生み出したいと願っています。
私の元で織を学んでいるアシスタントにもそれらのことの大切さと、布を織る技術の基本技術さえ伝えておけばおそらくいずれいい仕事をするようになると思っています。
目を汚さずに、シンプルに根源的なものを見つめて道を切り拓いてほしいと思います。