中野みどりの紬きもの塾

染織家中野みどりの「紬きもの塾」。その記録を中心に紬織り、着物、工芸、自然を綴ります。

到達点としての紬

2024年12月26日 | 着姿・作品
今年も残り少なくなってまいりました。
今月は染の仕事に集中しています。あと少し続きます。

さて、春に紬のセミオーダーの会をいたしましたが、その折に網代格子のご注文を頂き、お打ち合わせ後に下記のようなメールをいただきました。
足掛け48年紬の着物を織り続けてきましたが、作り手として大変うれしいメールでしたので、ご本人の了解も得て、一部ご紹介させてもらいます。

「きものを着るようになって10数年が経ちました。これから先、どんなきものを着ていきたいかと考えた時、私の中での到達点が先生の網代格子でした。頭のどこかで、いつかは着てみたいとも思っていました。
これから先も、出来ることならきものと共にありたいと思います。その時々に、先生のそれぞれのきものが寄り添ってくれることでしょう。気負わず自然体で、年齢を重ねるにつれてさらりと纏えるようになれればと思います。(中略)
近頃は、思うようにきものにそでを通す時間が持てませんが‥。
長い人生の中ではいろいろな時期があるのだと、その時その時出来ることを精一杯やっていけば、自ずと道は開かれていくのだと思うようになりました。」

10数年にわたりますが、個展の折に一反ずつ「清水の舞台から…」と、お求めいただき、今回のご注文で四反目となりました。
リピートしてくださるお客様は何人もいらっしゃるのですが、二人目の"四反目"の方となります。

落ち着いた何気ない着こなしを好まれる方で、古布の帯やナチュラルな素材の帯などと取り合わせてお召しになられています。

人生の伴走者となれるような紬を織れたらいいと思ってスタートしたこの道ですので、このように着ることを大事に思っていただけるのは本当にうれしいです。
特に網代のような太、細のある真綿紬糸の良さを生かせる織物を到達点とされたのもさすがだと思います。
いろいろご家族のことなどでお忙しいようですが、来年はもっと着る機会を持ちたいとおっしゃられていました。

私も自然でありながら、今まで出会ったことのない現代的な網代を織ってみたいと気合が入りました。変則的な網代です。
仕立ての方も柄合わせにぎりぎりまで、最善を尽くしてくださいました。
私にとっても網代や崩し縞系は真綿紬の原点だと思います。

着心地の良い、それでいて堅牢な紬のことだけを考えて精進してきました。
紬の味わいや堅牢性は節のある経糸が大事なのです。それは糸巻きにも、整経にも織るにも生糸系より何倍も手間がかかるのです。
このことは評価されにくく、ほぼ無償の行為のように続けてきました。

一見報われない仕事です。
でもそれは着た人には良くわかるものなのです(私は着なくても一目見ただけでその紬の良しあしはわかりますが・・)。

残念ながら作家ものの紬の未来は方向を間違えているように思います。
原点に返って、人が織物を織るようになった時のことに思いを馳せなければならないでしょう。
まずは織物の基本技術を身につけてほしい。着尺を織ることは簡単ではありません。
不完全なものが販売されたり、公募展で入選しています。

作り手も、売り手も、着る人も善いものは何か、自覚を持たなければならないと思います。

洗うほどに風合いを増し、美しくなる紬をあと少し織っていきたいと思います。

今年もお陰様で無事に仕事をさせてもらいました。
工房は12/28~1/5まで冬季休業になります。

戦争のない、核なき世界を心から願いつつ、
良いお年をお迎えください。





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第7回 紬きもの塾「自然で楽な着方」― 半衿の付け方・着物の仕立寸法

2024年12月13日 | 紬塾’21~’25
楽で時間のかからない着物の着方や、着物の寸法、また、下着類の素材についてもお話ししました。
私は、着付け教室は行ったことはありませんが、1回だけ公的機関での、無料の講習を受けたことがあります。
その方のやり方は、長襦袢に伊達締め1本、着物のおはしょりに腰紐1本、着物の合わせを抑えるための胸紐か伊達締め1本。補正タオルも使いません。帯も仮紐もクリップも使わないで締めます。

そのシンプルな着方は、紬塾で今まで見ている限りでも、着付けのできる方でも目からウロコのようでした。ポイントさえつかめばあとは自分で徐々に上手く着られるようになると思います。

あと早く着るために大事なのは、自分の着物サイズかどうかという事、また、滑りにくい紬や木綿と平絹のような滑りやすい生地、普段着とフォーマルなどでも違ってくると思います。
自分で着易さを探求することだと思います。


紬塾でも当日着ていらした着姿を拝見して、裄や身幅、身丈の確認を一人一人いたしました。


いつもそうですが、裄が長く、身幅も広い方が多いように思います。
裄丈を、洋服の袖丈を測るようにしていることがそもそも間違いだと思います。

この日着ていた藍の着物は太っていた時のサイズで、今度洗い張りの時には身巾を少し直したいと思っています。

衿芯に半衿を先に付けてから襦袢に取り付ける、自然な衿の形を作る方法もお話しました。差し込み式が多い昨近ですが、衿のカーブが不自然で、なぜこんな変なことになってしまったのでしょう・・?
私は三河芯の角っとしたのがいいと思います。

着物は絶対的な寸法もない代わりに、着方や年齢や体形や人となりなど、洋服以上に着姿に現れますね。奥が深いです。

次回1月の最終回は、半巾帯のことや、名古屋帯の寸法のことをやって、締めくくりになります。


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