翔んだカップル

「翔んだカップル」　1980年　日本

監督　相米慎二

出演　薬師丸ひろ子　尾美としのり　鶴見辰吾

　　　石原真理子　原田美枝子　真田広之

ストーリー

田代勇介は弁護士になることを夢見て、九州から東京の名門校、北条学園高校に入った。

勇介は海外に行っている叔父の留守宅に住むことになったが、一人で住むには家が広すぎるため、男に限るという条件で不動産屋に間借人を頼んだ。

ところがなんと、不動産屋の手違いでやってきたのは学校一の美少女と評判のクラスメート、山葉圭だった。

次の仕送りが来るまでということで、彼女は勇介と住むことになった。

勇介の入部したボクシング部のキャプテン織田やクラスの秀才中山も圭を狙っており、勇介は二人の同居生活がいつバレるかとヒヤヒヤの毎日。

一年生の遠足の日、学校一の才女、杉村秋美が他のガリ勉生徒と一味違う勇介に興味持ち、近づいてきた。

日頃、圭に挑戦的な勇介も、理知的で大人の雰囲気を漂わす杉村には素直な気持で接してしまう。

約束の一ヵ月が過ぎたが、織田キャプテンの居候騒動などで、二人の共同生活は、訳が分らなくなってくる。

二人とも充分、意識しているのにお互いに好きという言葉が出ない。

そして、勇介は杉村と、圭は中山とデートを重ねる。

意地の張りあいのまま夏休みを迎え、「季節がかわれば……」と勇介は九州へ帰った。

新学期、圭は帰省中に知り合った大学生の星田に夢中になり、杉村はアメリカ留学を決意していた。

一方、圭との素直な生活を夢見て東京に戻った勇介は、新人戦を控え、織田にシゴかれる毎日を送っていた。

やけくそになった勇介は二人の同居生活を中山に話してしまう。

圭を慕う中山は、逆上、そのことを教頭に密告してしまった。

新人戦を翌日に控えたある日、勇介、圭、杉村、中山の四人が集まった。

杉村は明日アメリカに発つ予定だ。

過ぎ去った事を四人は、暗黙のうちに許し合うように見つめあった。

勇介のまわりは何かが急激に変ろうとしていた。

寸評

相米慎二の記念すべき第１作だが、ゆっくりと助走に入ったという感じの作品だと思う。

スクランブル交差点の真ん中で少年を座らせて独白させるシュールなシーンがあったり、長回しのオンパレードなど、作家意識だけは所々に発揮されているが、全体的には荒削りだ。

高校生の話だから彼らが中心にいるのは分かるが、まともな大人が全くといっていいぐらい出てこないのは不自然だし、作品としてのしまりをなくしている。

唯一出てくるのが円広志の先生なのだが、彼の存在意義はほとんどなかった。

夜逃げする柳生博のマスターなどは添え物的だ。

もっと添え物なのが、薬師丸ひろ子と適当に遊んだ挙句に持て余すチョッと大人の真田広之とその恋人らしい原田美枝子。

役的に面白い存在なのだが、一瞬の顔見世で終わってしまっている。

大人が登場しないのは徹底していて、家の持ち主である叔母さんは登場しないし、大家さんに挨拶に来ると電話で言っていた圭の母親も出てこない。

勇介は夏休みに帰省するが、彼の両親もこれまた登場しない。

これだけ徹底されると、これは意図されたものだと感じるようになるが、映画全体の雰囲気を出すにはやはり必要だったのではないかなと思う。

しまりのないのは魅力的なキャラクターが存在していないことにもよる。

尾美としのりはまだ開花前だし、石原真理子も女子高生を演じていたな程度で、二人共主役を食ってしまうような強烈なものがない。

ボクシング部のキャプテンなども同様だ。

流石に薬師丸ひろ子だけは別格で、なかなかの存在感を示して、アイドル映画とはいえ女優を感じさせた。

あの鼻に抜けるような独特の声音で詰め寄るシーンなどは、彼女のファンならずとも可愛いものがある。

薬師丸の登場シーンだけが光っていて、彼女がいなくなるとつまらなくなる完全な薬師丸ひろ子映画だった。

勇介と圭の同居を同棲していると密告する尾美としのりの中山の苦悩などはもっと描き込めても良かったのではないかと思う。

校内学力２番の彼はその罪に悩んでしばらく学校を休んでいるのだからなあ・・・。

でもこの映画自体がポップ的で、若者の心象に切り込んで鋭く描く青春映画を目指していなかったように思うから、それはそれで一本筋が通っているのかも。

だからボクシングシーンなどは迫力がないし、青春の有り余る力をボクシングに凝縮させて爆発させているという雰囲気には描いていない。

稚拙なボクシングの試合シーンというよりも、僕はこの描き方は意図されたものではないかと思っている。

長回しが好きな監督なんだということを感じ取れただけでも存在意義がある作品かもしれない。