「天国の駅」 1984年 日本
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監督 出目昌伸
出演 吉永小百合 津川雅彦 西田敏行 丹波哲郎
三浦友和 中村嘉葎雄 真行寺君枝 白石加代子
ストーリー
昭和45年6月11日、東京小管拘置所内の処刑場で、一人の女がこの世に別れを告げ、天国への階段をのぼっていった。林葉かよ、47歳。
昭和30年春。結城つむぎの織女として、また美人としても評判のかよ(吉永小百合)は、まだ32歳の女盛りであった。
夫の栄三(中村嘉葎雄)は傷痍軍人で、下半身マヒの障害者だったのでかよに辛くあたった。
そんな彼女に目をつけて接近したのが巡査の橋本(三浦友和)だった。
満たされぬ日々に悶々とするかよと深い仲になるのに時間はかからなかった。
妻の浮気を知った栄三は狂ったように折檻し、思いあまったかよは夫を毒殺したが脳内出血による死亡として処理された。
栄三の死後、警察を辞めた橋本はかよの世話で東京の大学へ通わせてもらうようになった。
そんなある日、橋本は東京から幸子(真行寺君枝)という女を連れて帰って来た。
かよと幸子二人の女は、橋本に騙されていたことを知り手切れ金を渡して縁を切った。
同じ男に騙された妙な連帯意識で姉妹のように仲良くなった二人は、綿谷温泉郷にたどりつき、かよは土産物店を開き、幸子は芸者として、人生の再スタートを切った。
結城の事件以来、かよを追っていた五十沢刑事(丹波哲郎)がやって来て、かよのことを探り始めた。
そして、結城の頃から、かよに想いを寄せていた通称ターボという知的障害の一雄(西田敏行)も、いつのまにかこの地に住みついていた。
大和閣の主人・福見(津川雅彦)は、かよに惹かれ、何かと援助を申し出ていた。
ダニのような橋本が現われ、かよに金をせびりに来た時も、福見は手切れ金として200万円を渡して追い返した。
しかし、福見には精神病院に入院している妻・辰江(白石加代子)がいる。
そこで、ターボのかよに対する気持ちを利用して辰江を殺害させた。
邪魔者はいなくなった福見とかよは晴れて結婚し、幸子も芸者を辞めて大和閣に落ち着いた。
ところが、200万円を費い果たした橋本が再び舞い戻って来た。
寸評
夫が下半身マヒの傷痍軍人なため、かよは女ざかりの体に悶々としている。
そこに付け込んだのが、かねてより思いを寄せていた巡査の橋本で、二人は愛欲に溺れることになる。
橋本はゲスな男で、かよと肉体関係を持ち学費を出してもらっていながら、自分を気に入っている幸子といい仲になり金を貢がせている。
二股を続けていこうとしている自分勝手な男である。
肉体的欲望から若い男に溺れてしまう女を吉永小百合が演じ、女に救うダニのような男を三浦友和が演じている。
ドロドロとした内容からして、この二人はミスキャストである。
二人とも清廉、清純のイメージが強い俳優で、男と女のドロドロとした愛欲関係を表現するには適役とは思えない。
実際に二人が肉体的に溺れていく様はきれいすぎるし、もちろん吉永小百合のヌードシーンはなく、これが精一杯だろうと思われる描写にとどまっている。
橋本が幸子と深い仲になった経緯は描かれていないので想像するしかない。
仲良くなって結婚をちらつかせ金をせびっていたのだろうが、かよという女がいながら幸子を手玉に取る結婚詐欺師としての橋本のいやらしさは強調されずにいる。
かよは夫を毒殺する農薬を橋本から入手したようだが、二人が栄三殺害の相談をする場面がないので、愛欲に溺れすぎたために殺人を犯さねばならなくなってしまう女の性(さが)が感じ取れないものになってしまっている。
吉永小百合と三浦友和からは、男から好かれることで奈落の底へ堕ちていく女、女に救うダニのような男のイメージがどうも湧いてこない。
橋本はすでに逮捕されていて、取調室での会話が挿入されるけれども、それがサスペンス性を盛り上げているわけでもない。
彼の証言を嘘だと五十沢刑事が指摘するのも会話劇に終始している。
橋本がポスターを発見するくだりぐらいは有っても良かったように思う。
目だったのはターボの西田敏行で、少し頭の弱い彼は盲目的にかよを慕っている。
かよは自分のことを本当に愛してくれていたのはターボだと知って見せる雪の中での戯れは美しい。
かよが初めて見せる笑顔が雪景色とマッチしている。
吉永小百合の汚れ役が話題になったけれど、汚れ役には程遠い演出であった。
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