おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

家族はつらいよ

2020-12-15 08:38:58 | 映画
「家族はつらいよ」 2016年 日本


監督 山田洋次
出演 橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣
   中嶋朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優
   小林稔侍 風吹ジュン 中村鷹之資
   丸山歩夢 笹野高史 笑福亭鶴瓶

ストーリー
東京の郊外に暮らす三世代同居の平田一家。
当主の周造(橋爪功)は、モーレツサラリーマンだった時期を終えて今は隠居生活を謳歌する日々。
妻の富子(吉行和子)の気持ちなど考えもしない。
長男・幸之助(西村雅彦)は仕事一筋で、家庭のもめ事は妻の史枝(夏川結衣)にまかせっきり。
家を出て税理士としてバリバリ働く気の強い長女・成子(中嶋朋子)は、夫・泰蔵(林家正蔵)との喧嘩が絶えない。
一方、独身でいまだ実家暮らしの次男・庄太(妻夫木聡)は、看護師の恋人・憲子(蒼井優)との結婚をついに決断しようとしていた。
今日も周造は仲間とゴルフを楽しんだ後、美人女将・かよ(風吹ジュン)がいる小料理屋で散々女房の悪口を言って盛り上がり上機嫌で帰宅。
史枝は酔っぱらっている周造に気を遣いながらも義父の苦言に笑顔で付き合う。
富子もまたそんな夫を優しく迎え、寝室で脱ぎ捨てる服を拾い歩きながら着替えを手伝うのだった。
周造はいつものように靴下を脱ぎ捨てながら、飾られたバラの花瓶を見て「その花どうした」と尋ねる。
誕生日に花をプレゼントする事は仲間の決まりで、今日は私の誕生日なのだと富子は言う。
すっかり忘れていた周造だったが、たまには妻に誕生日プレゼントでもしてやろうかと欲しいものを聞いてみると、富子が机から持ち出してきたのはまさかの離婚届で、突然の宣告を受け唖然と凍りつく周造。
こうして、平田家の“離婚騒動”は幕を開けた……。
秋晴れの日曜日、周造と富子、幸之助と史枝、長女・成子と夫・泰蔵が集まっている。
離婚問題について議論しようとしたとき、今日が家族会議だと聞かされていなかった次男の庄太が恋人を紹介するため憲子を連れてくる・・・。


寸評
話はありがちなもので目新しくはないが、それを芸達者たちが絶妙のアンサンブルで笑いを生み出している。
それもわかりやすい笑いばかりなので、老若男女誰でも笑える映画になっているのはさすがに職人・山田洋次ならではと思わせる。
特にびっくりするような演出はないけれど、かといってケチをつけたくなる演出もない。
実に手堅い演出で、80代半ばにしてこれだけの作品を撮れるのは助監督を経験した年期によるものだろう。
当事者たちは自分勝手でわがままなのだが、それを他人が見れば滑稽に見えて笑うしかないという家庭での出来事を見事に活写している。

一方で、サービス精神は非情に旺盛である。
大して意味のない小林稔侍扮する探偵のコスプレ写真集を見せるシーンがあったりする。
林家正蔵が父親の先代・三平のギャグとして有名な「どうもすいません」を見せる。
「落語家みたいな医者」だったと言わせた後で笑福亭鶴瓶の医者を登場させている。
山田監督といえば、「男はつらいよ」が先ず思い浮かぶが、その主題歌も登場している。
「東京家族」のポスターなどもあって山田ワールド全開である。
小林稔侍を知る人、先代の林家三平を知る人、「ディア・ドクター」を見た人、「男はつらいよ」を見ていた人、「東京家族」を見た人達にはオマケとなっているシーンだったと思う。

平田一家が住む家はごく普通の一般住宅のようだが、そこに祖父夫婦、自分たち夫婦に二人の子供たち、さらに弟まで同居しているのだから随分と手狭な家だと思うのだが、その雰囲気はない。
息が詰まるような環境で生活している割には随分とあけっぴろげだ。
その手狭さを感じさせるのがラスト近くの寝室での周造と富子の会話シーンである。
登場人物の首から上をフレームの外にだす構図で手狭さを表現し、その人物の心情を観客に想像させている。
本当にうまいショットだ。

山田監督らしいと感じさせたのは、病人が運ばれた直後、呆然とする家族の一人に一本の電話がかかってくる場面である。
家族の中にあっては悪いことも起きるけれど、いいことだってあるんだと言っているようだし、老人と若い世代をつないでいるのも家族なのだとも言っているようだった。
この様なシーンが挿入されることで、観客はすごく救われた気持ちになるものだ。
山田監督はどのような場面でも、人を信じ、明日を信じる描き方をする監督だ。

ラストはやや拍子抜けの気がしないでもないが、「東京家族」でオマージュを捧げた小津安二郎監督の「東京物語」をそのまま使って終わりとする粋さもあって、小津の「東京物語」を知る者にとってはくすぐったい終わり方だ。
山田監督は本当に小津さんを尊敬していて、「東京物語」が好きなんだなあと思わせた。
タイトルもそうなのだが、「男はつらいよ」シリーズ同様の、ドタバタ喜劇ではない人情喜劇で、久しぶりに山田洋次の喜劇を見た気分にさせてくれた。


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