おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ジョゼと虎と魚たち

2019-08-08 07:16:10 | 映画
「ジョゼと虎と魚たち」 2003年 日本


監督 犬童一心
出演 妻夫木聡 池脇千鶴
   新井浩文 上野樹里
   江口徳子 新屋英子
   藤沢大悟 陰山泰
   荒川良々 中村靖日

ストーリー
大学生の恒夫(妻夫木聡)は、深夜に麻雀屋でアルバイトをしている。
明け方、恒夫は、坂の上から乳母車が走ってくるのに遭遇する。
恒夫が近寄り、中を覗くと、包丁を握り締めた少女(池脇千鶴)がいた。
恒夫は危うく刺されそうになるが、間一髪で難を逃れる。
乳母車の中は老婆(新屋英子)の孫で、彼女は原因不明の病で生まれてから一度も歩いたことがないという。
老婆は近所に孫の存在を隠して暮らしており、夜明け間もない時間に乳母車に乗せて散歩させていた。
そのまま恒夫はふたりの家に連れて行かれ、朝食をごちそうになる。
恒夫が少女に名前を尋ねると、彼女はジョゼと名乗った。
恒夫は、不思議な存在感を持つジョゼに興味を持つ。
一方で恒夫は、大学の同級生の香苗(上野樹里))に好意を持っている。
しかし、福祉関係の就職を希望している香苗との関係は思うように進まない。
ジョゼのことも気になる恒夫は、事あるごとに家を訪ねる。
ジョゼの部屋には祖母が拾ってきた様々なジャンルの本がある。
その中から、恒夫が抜き出した一冊が、フランソワーズ・サガンの『一年ののち』。
いつもそっけないジョゼが、その本の続編を読みたいと強く言う。


寸評
映画タイトルが意味ありげで、タイトルを見ただけで映画の中身を想像するのは不可能である。
ジョゼとはヒロインくみ子が愛読しているフランソワーズ・サガンの「一年ののち」に出てくる人物の名前で、恒夫はくみ子をジョゼと呼ぶようになる。
虎はジョゼの幸せの象徴である。
虎は、ジョゼがイメージできるこの世の中で最も恐いものということだ。
ジョゼは怖いもの見たさで、その恐い虎を見てみたいのだが現実に見るのは恐い。
自分に好きな男の人ができたら、その男の人と一緒に恐い虎を見るのがジョゼの夢だった。
そして、好きになった恒夫と一緒に虎を見ることができて、こんな幸せなことはないというけわけだ。
魚は別れの象徴であり、ジョゼが孤独に生きる決意の象徴でもある。
ジョゼは「昔、自分は深い深い海の底にいた、いつか恒夫が居なくなったら、また迷子の貝殻みたいに、ひとりで海の底を転がり続けるようになる」と話す。
「寂しいじゃん」と言う恒夫に、「でも、まあ、それもまた良しや」と返してジョゼは微笑むのである。

ジョゼを演じた池脇千鶴が素晴らしい。
足が不自由で自分一人では外に出ることが出来ない女性だが、まるで哲学者の様でもある。
祖母が「この子は壊れもんや」と酷い表現をしているが、ジョゼは悪びれたところがなく卑屈になっていない。
祖母が拾ってきた本を精読していて知識は豊富である。
言動に反して非常にピュアな気持ちを持っていている女性、世間を冷静な目で見ているのだが強がりを言っているようでもある身障者女性を見事なまでに演じている。
初めて見る真昼の街を見た時の喜び、初めて海を見た時の感動を僕は共有できた。

恒夫は田舎から都会の大学に出てきた普通の大学生で、サークルでの飲み会も楽しそうだし、学食での友人との食事や語らいも楽しんでいる。
セックスフレンドがいて、本命的な同級生とも仲良くやっているのが普通かどうかわからないが、特別の悩みもなく今の状況をありのままに受け入れて楽しんでいる大学生の典型として登場している。
冒頭で思い出話が語られるから、ジョゼとは別れていることが最初から知らされていて、観客はどのような展開で別れることになるのかの興味を持ちながら作品を見続けることになる。
その別れはピュアな恋愛を経験したものなら分かるものだ。
大好きだったのに、なぜ別れなければならなかったのかと泣きたくなる恒夫の気持ちがよくわかる。
見守る香苗はごく普通の女性で、独占欲や嫉妬心も備わっているから、、嫉妬心にかられてジョゼを待ち伏せしてビンタをくらわし、「正直言って、あんたの武器がうらやましい」というすごい言葉を浴びせている。
(ジョゼも「そんならあんたも足を切ってみい!」と反撃したのだけれど)
結局最後は普通の美人の女が「勝つ」というのではないが、同時にそれが普通のおさまりかたなのだろう。
僕だって上野樹里を選ぶだろうなと思ってしまうのだが、それでも恒夫はその後も多分ジョゼの素晴らしさを思い続けたような気がする。
単なる純愛物ではなく奥が深いが、一体ジョゼは生計をどのようにして立てていたのだろうとの疑問が残った。


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