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「桃(タオ)さんのしあわせ」

2013年01月12日 | 映画の感想・批評
 京都シネマで「桃(タオ)さんのしあわせ」を観る。平日の昼間の上映ということもあり、観客の大半は女性客、劇場内の平均年齢は高め。この映画が私の今年のファースト・ムーヴィーである。
 桃(タオ)さんは13歳のときから60年間、梁(リャン)家のメイドとして働いてきた。でもいま梁一家の人々は、長男で映画プロデューサーのロジャーの他は、香港では暮らしていない。多分香港の中国返還を機に、アメリカに移住したのだろう。50歳を過ぎたロジャーにとって、アメリカに留学していた10年間を除き、いつも自分の身の回りの世話をしてくれた桃(タオ)さんは、彼女が脳卒中で倒れるまでは気に掛ける人ではなかっただろう。そして、ある日その人がいなくなって初めて、その人の存在、有り難さ、大切さに気が付いたのだ。
 入院中の桃(タオ)さんを見舞ったり、彼女のために老人ホームを探し、ちょくちょく面会に出かけたり…。他の入所者から二人の間柄を尋ねられた時、ロジャーは義理の息子と答えるが、桃(タオ)さんはメイドとはいえ育ての親のようなもの、すんなりと出た彼の言葉に、ほのぼのとしたものを感じた。ロジャーは新作映画のプレミアム試写会にちょっぴりお洒落をした桃(タオ)さんをエスコートして行くのだが、以前の彼だったら思いつきもしなかっただろう。生まれてすぐに養女に出され、戦争中に日本軍の侵略で養父母を亡くし、13歳からメイドになって、結婚もせず、子どもも持たなかった桃(タオ)さんの人生は苦労が多かったことだろう。でも、人生の最後でロジャーと心を通わせた幸せな時間を過ごせたのだと思う。
 桃(タオ)さんを演じたディニー・イップは、2011年ヴェネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞した。ロジャー役のアンディ・ラウは、共同プロデューサー、ノー・ギャラで出演した。それにしても、アンディ・ラウは普通のおじさんが似合っていたなぁ…。 2013年の映画観賞がこの「桃(タオ)さんのしあわせ」で始められてよかった。(久)

原題:桃姐
監督:アン・ホイ
脚本:スーザン・チャン
撮影:ユー・リクウァイ
出演:アンディ・ラウ、ディニー・イップ