シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD」(2019年 日本)

2019年08月28日 | 映画の感想、批評
 2016年にテレビ朝日の単発ドラマとして放送され、2018年4月から「土曜ナイトドラマ」枠で連続ドラマ化。SNSで話題となりTwitter の世界トレンド1位を獲得し、第97回「ザテレビジョンドラマアカデミー賞」では6冠を受賞した。テレビタイトルの「おっさんずラブ」は2018年「新語・流行語大賞」トップ10に選出された。そんな社会現象を起こした話題作の劇場版である。
 新聞のラテ欄の紹介は見ていたもののテレビ放送は一度も見ていなかったので、映画の案内チラシで登場人物の人間関係や連ドラの簡単なあらすじを読んで、ざっと予習してから劇場版「おっさんずラブ」を初鑑賞した。特に複雑というわけではないが、すでにテレビ放送でキャラクターや人物相関図ができ上がっているので参考になる。主人公の春田は、尊敬する上司の黒澤とエリート後輩の牧から愛を告白され、黒澤との結婚式から逃げ出して牧にプロポーズしたところで、テレビドラマは終わっている。
 少しずつだがLGBTという言葉が定着しつつある一方で、同性婚は非生産的という人たちもまだまだ多い日本という国で、「おっさんずラブ」が受け入れられたのは喜ばしいことだ。深刻な社会派ドラマではなく、コメディタッチに仕上がっていることも良かったのだろう。
 劇中で春田と牧が結婚に対するそれぞれの思いを語り合うシーンがある。
「よ〜く考えたら、男同士って結婚できないよね。それに僕、子どもが好きだし…」という春田。確かに日本では同性婚は認められていない。結婚は両性の合意に基づくと憲法にある。でも両性を1個人の性と相手のもう1個人の性と考えてはいけないのだろうか。それが男と女の場合もあれば、男と男、女と女の場合があってもいいのでは…。
 子どもが欲しくても出来ないご夫婦もいらっしゃる。地球の人口は現在76億人を超え、5年後には80億人を超えると予測されている。世界には紛争や災害などで親を亡くした子どもたちが大勢いる。その子どもたちをサポートする機構だってある。血が繋がっていなくてもいいのでは…。
 LGBTに対する意識変革が一番遅れているであろう世の中の「おっさん」たち、恐れずに劇場に足を運んではいかがだろうか。もしかしたらほんの少し価値観が変わるかも。現実には春田たちが働く天空不動産のように、彼らの存在を否定しない企業がそんなに多くあるとは思えない。春田たちのような存在が、仕事も恋愛も全力投球できる社会をつくる一助になってほしい映画だ。(久)

監督:瑠東東一郎
脚本:徳尾浩司
撮影:高野学
出演:田中圭、林遣都、吉田鋼太郎、沢村一樹、志尊淳、眞島秀和、大塚寧々、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉

「トイ・ストーリー4」 (2019年 アメリカ映画)

2019年08月21日 | 映画の感想、批評


 世界初のフルCG長編アニメーション映画「トイ・ストーリー」がアメリカで公開されたのは1995年。おもちゃの世界を描いたこのユニークな作品を初めて目にした子どもたちも、もう24年たって立派な大人に成長。中には自分の子どもたちと一緒にこの4作目を見ておられる方もたくさんいらっしゃることだろう。
 カウボーイ人形のウッディや、当時は最新のアクション・フィギュアだったバズ・ライトイヤーなど、1作目から登場しているキャラクターたちはおもちゃとしてもう一世代前の代物。大人たちにとっては、何とも古めかしく懐かしい。最初の持ち主だったアンディが大学生になったときに、近所のボニーという女の子にウッディたちをプレゼントしたのが前作3のラストだったのだが、その後の仲間たちの新たな旅立ちと冒険が描かれるこの新作、大人になったファンたちの“リクエストにお応えして”感が満載で、子どもたちよりも大人が見て楽しめる内容となっている。
 新しいキャラクターたちもなかなか魅力的で、中でも2度目の持ち主となったボニーが幼稚園で作った手作り人形フォーキーがユニーク。使い捨ての先割れスプーンと工作の材料で作られた「世界に一つだけのおもちゃ」なのだが、元々捨てられる運命にあったためか、すぐにゴミ箱に入りたくなるのが何とも可笑しい。いつでも自信たっぷりなデューク・カブーンは、カナダの偉大なスタントマンをモデルにした1970年代のおもちゃ。カブーンの声は何と同じカナダ出身のキアヌ・リーヴスが演じているというから、字幕版でもその活躍ぶりを是非確かめてみたくなった。他にもいつか一人の子どもに愛されたいと願う1950年代の人形ギャビー・ギャビーの言動には切なく泣かされるし、アンディの妹が手放した磁器の人形ボー・ピープとの再会がその後のウッディの生き方を変えてしまうところも新鮮だ。ジョシュ・クーリー監督が目指したトランジッション(変わり目)という主題が生きた構成になっているが、さあその後は??近い将来、きっとまたこの愛すべきおもちゃたちと再会できるのは明らかだろう。(今回も大ヒットしたしね!)
 長いエンドロールを眺めていると、アニメーション作品は本当にたくさんの人々の手によって作られていることがよくわかる。先日の京都アニメーションの火災で犠牲になった方々も、きっと最後に自分の名前を確認して、次作への英気を養われていたのだろうなと感慨深く思っていると、最後のお楽しみが・・・。どうぞお見逃しなく!!
 (HIRO)

原題:TOY STORY 4
監督:ジョシュ・クーリー
脚本:ステファニー・フォルソム&アンドリュー・スタントン
撮影:パトリック・リン、ジャン=クロード・カラーチェ
声の出演:トム・ハンクス、ティム・アレン、キアヌ・リーヴス、トニー・ヘイル、アニー・ポッツ、クリスティナ・ヘンドリックス
〈日本語版〉唐沢寿明、所・ジョージ、竜星涼、戸田恵子、新木優子、森川智之、松尾駿・長田庄平(チョコレートプラネット)




「アルキメデスの大戦」(2019年、日本)

2019年08月14日 | 映画の感想、批評


戦闘シーンをメインにしない、まったく新しい切り口の戦争映画。現在も連載中のコミックが原作というが、まったくの予備知識なしで鑑賞。
海軍内部の権力抗争に巻き込まれた若き天才数学者、櫂直(菅田将暉)。
「巨大戦艦を作って、戦力を誇示すれば必ずアメリカと無謀な戦争をしようとする、それを回避するために戦艦建造を阻止したい」
一見正当な理屈に聞こえるけれど、空母建設派の山本五十六にしても結局は軍人なので、戦争そのものの回避を思ってなどいない。どこまでも戦艦推進派との権力争いに櫂の頭脳を利用したに過ぎない。
誰しもアメリカと戦争して勝てるとは思っていないのに突き進んだのは誰の責任なのか!後半の見せどころ、田中泯の語る「日本の依り代たる戦艦大和」も酔わせる言葉だが、どこかむなしい。軍のトップたちはやっぱり戦争を引き起こした当事者たちなのだ。

誰のための戦争。造船業社などなど、軍需産業を儲けさせるため。だから、見積もりの低さも、いくつもの船の建造を抱き合わせての偽造。それを主人公の数学者櫂(菅田将暉)がスーパーコンピューター並みの頭脳と粘り強さでもって、解き明かしていく。そのカタルシスに思わず酔ってしまう

冒頭の戦艦大和の沈没シーンはタイタニックばりの迫力と脅威があった。虫けらのように捨てられていく兵士の命。対して墜落した飛行兵をすばやく「回収」していくアメリカの飛行機。一瞬のことながら、彼我の違いをまざまざと描いていた。

私事ながら、来週、海軍の特攻隊『回天』の生き残りである恩師に出会う予定。生々しい体験を著書で読んだし、何度かじかに聞かせてもらった。「今のうちに!」聞き取りができるのがおそらく最後の世代かと。そしてきちんと伝える責務があることを自覚はしているのだが。恩師がこの作品をどう見るか、とても怖くて聞けないだろうな。浅い見方しかできていない不肖の教え子なもので。

「永遠のゼロ」も観たが、絶賛する気になれず、不消化な気分が残った。
本作もどこか、「感動するだけではあかんやろ」な気持ちが渦巻いている。
戦争の体験者がどんどん減っていく時代、しっかり検証しないと。後世に事実を伝えないと。

もう一つ、私事ながら。私の実兄も数学者である。天才ではないだろうけれど、彼も紙に向かってひたすら鉛筆を動かしている。下手すると車の運転中にも数式が浮かんで、危ないことになったらしい。どういう頭の構造をしているのか、摩訶不思議な存在ではある。幼いころから、彼は別世界の住民として見てきた。その反動で、「妹は極めて常識的世界に生きている」と自画自賛している。
主人公櫂の破天荒ぶりは、料亭での乱痴気騒ぎ、家庭教師の教え子の美しさを計測することで讃えようとするなどなどで描かれている。
柄本佑の変化、協力ぶりが微笑ましく、櫂の本来の人間性も表していたかと思う。

菅田将暉の天才数学者ぶりが堂に入っている。あれだけの数式を黒板に書きながら長台詞をとうとうと。癖のあるベテラン男優たちを相手に一歩も譲らない!ますます先が楽しみな俳優さん。田中泯の重厚感も素晴らしい。橋爪功の俗っぽさもうまい。


戦争映画をどう見るのか、問われているのは私たち自身。先の「新聞記者」も、フィクションなのだけれど、そこに描かれていることは決して滑稽なありえない話でなく、何を読み取るのか。
生物兵器を作るための獣医大学!ほんまやろうか・・・・・なるほど、だからあれほど熱心に忖度もし、お友達予算をばらまいた!
すべては秘密保護法の中で隠されたまま。
あの海軍の密室の会議と、令和になった現代も何も変わらない気がする。

嘘か真か、映画をきっかけに考える時間を持つのも大事かと思う、明日は終戦記念日。戦争はいかなる理由があっても、絶対にしてはいけないし、させてはいけない!国民の力を侮らせてはいけない。
「新聞記者」を見た人が大勢いたはずなのに、選挙は何も変わらなかった!
「いえ、そうではないと私は国民の良識に期待を持っています」
・・・そう思わないと、やってられんわ! なのもありかな。

ご興味のおありの方は是非、一度お読みくださいませ
『特攻 自殺兵器となった学徒兵兄弟の証言』岩井忠正、岩井忠熊 共著  新日本出版社 2002年
『永遠のゼロを検証する』秦重雄、家長知史 共著、岩井忠熊(インタビュー) 日本機関紙出版センター刊行 2015年

(アロママ)

監督、脚本、VFX:山崎貴
原作:三田紀房 「アルキメデスの大戦」ヤングマガジン連載中
主演:菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろしほか

「新聞記者」(2019年 日本映画)

2019年08月07日 | 映画の感想、批評


 まず印象的だったのが内容では無く映画館にポスターの一切が無かった事に驚きました。
併せて情報番組等でも一切取り上げられなかった事。
そこまでの作品をよく上映出来たというか、上映にまでこぎつけたプロデューサー陣には脱帽です。
東京新聞記者、望月衣塑子さんによる「第23回平和・協同ジャーナリスト基金賞」の奨励賞を受賞した同名ベストセラーが原案の作品です。河村光庸プロデューサーが藤井直人監督を説得し、この映画のオファーが来るまで新聞を読んだことがなかったという。「なぜ新聞を読まなかったのか。なぜ政治が嫌いだったのか」と自分自身を掘り下げるようにこの映画に挑んだ。という。
そんな監督が決して難しい内容にせず、政治に全く無知な人が見ても分かり易いエンタメ作品に仕上げたのは凄いです。(良い脚本と良い役者と少しの演出があればそれで充分)そんな言葉がありますが、正にそんな作品だと思います。
内容的には不倫スキャンダルから始まって、レイプ事件に移って、最終的には政府が医療系大学という建前の上に、細菌兵器を作る為の軍事系大学設立に関する話です。
実際リアルな政治を知らない人間として1番印象に残ったのは田中哲司さん演じる多田の「この国の民主主義はあくまで形だけでいいんだよ」この台詞ですかね。個人的にはよくこの台詞を使ったな。そう思いましたね。この台詞だけでもお蔵入りしてもおかしくは無い台詞に匹敵するのでは…個人的にはそう感じる程インパクトのある台詞です。
役者さんに関しては、そうそうたる役者陣の中で主演、吉岡を演じるシム・ウンギョンさん。最初は「誰?この女優さん」そう思いました。「日本の女優さんかな?」と思ったのですが韓国の女優さんなんですね。「日本の女優さんをなぜ使わないんだろう?」そう思いました。作風柄事務所がOKを出さなかった。そんな話も聞きました。ではなぜ他の役者さんは出たの?単純に監督、プロデューサーが日本の役者ではイメージが湧かなかったんでは無いのかな?そうも思いました。松坂桃李さん頑張っていたと思います。1番「凄い芝居するな」そう思ったシーンが都築役演じる高橋努さんとの食堂のシーンの目での芝居。松坂さんの役者としての力量を見た瞬間でした。何気にこの作品のキーマンは多田演じる田中哲司さんですかね。杉原演じる松坂さんに圧をかける為の一言の台詞の重み。多田の眼光の鋭さ。それほど出番は多くは無かったですが、脇役としては流石の演技です。あとは編集長陣野役の北村有起哉さん、渋いですね。あとは倉持役の岡山天音さん、何気ない役なんですがこれからが楽しみな役者だと思いました。
気になるシーンとしては内閣情報調査室、SNSを通して政府に有利に働く内容を拡散させる部署。本当にこんな部署があるのか?そう思ってしまった。その反面田中哲司さん演じる多田が「(投稿する内容か)嘘か本当かは国民が決める」何気ない台詞ですが、要はその内容がたとえガセだろうが何だろうが俺達には関係無い。決めるのは国民。本当にそんな部署があるのかどうかはわかりませんが、それに似た部門があるとしたら…。
少なからず日本政府からは煙たい作品ではあったように思います。
情報操作の面もそうでしょうし、某学校設立問題に関してもそうなんでしょうし。
何をおいても1番ショックだったのは今回の選挙で「この作品がどこまで何かを変えられるんだろうか?」そう思っていたのですが、ほぼ何も変わらない事が個人的には1番ショックでした。(CHIDU)

原案:望月衣塑子
監督:藤井直人
撮影:今村圭佑
脚本:詩森ろば、高石明彦、藤井道人
出演:松坂桃李、シム・ウンギョン、本田翼、田中哲司、北村有起哉、西田尚美、高橋和也他