シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」(2013年、イギリス)

2015年01月21日 | 映画の感想・批評
 不気味な映画がお好きな向きにはお薦めである。熱狂的な一部のファンに支えられるような趣がある。アメリカの映画評価サイトをいくつか覗いて見てわかったことは、一般ユーザーの支持がきわめて低いのに対して批評家は概して高得点を入れている。一応イギリス映画となっているが、アメリカ、スイス資本も加わっているようだ。
 いきなりスカーレット・ヨハンソン扮する美女が若い女性の死体から衣服をはぎ取って自分が身につける。えっ何だ!と鬼面人を驚かせておいて、あとは謎また謎の連続だ。この美女がスコットランドの町や郊外をひたすらワンボックスカーに乗って徘徊する。その途中で男に声をかけては道を聞くのだが、かれが身寄りという者がなく、孤独であまり目立たない存在だとわかると、俄然興味を示して、「ついでに途中まで送ってあげるから」と誘惑するように助手席に乗せるのである。ロアルド・ダールの短編か、はたまたヒッチコック劇場に出てきそうな設定だ。
 原題は邦題どおりだが、邦題にはご丁寧なことにサブタイトルが付いていて飲み込めない観客にもわかりやすいようにヒントを与えている。この同乗者がどうなるか、サブタイトルが雄弁に語っているのだ。それと、男がヨハンソンの罠にかかって餌食になるところを背景も何もない真っ暗な空間とフロアだけで表現するというアート風の前衛手法など、こういうところが玄人(くろうと)受けするのだろう。しかも、ふつうのホラーと歴然と異なるのは観客を煽ることを一切しないで、物語は淡々と静かにそれこそ闇夜に霜の降るごとく進行していくのである。そこがこの手のジャンルに特別な思い入れのない一般観客にはちょっとしんどいかもしれない。
 ラストで、タイトルどおりヨハンソンの化けの皮が剥がされるのだが、ここはかなり気味が悪いとご忠告しておく。まことに不思議な映画である。 (ken)

原題:Under the Skin
監督:ジョナサン・グレイザー
原作:ミッシェル・フェイバー
脚色:ウォルター・キャンベル、ジョナサン・グレイザー
撮影:ダニエル・ランディン
出演:スカーレット・ヨハンソン、ポール・ブラニガン、クリストフ・ハーデク

「ベイマックス」 (2014年 アメリカ映画)

2015年01月11日 | 映画の感想・批評

 
 「アナと雪の女王」に続いておくるディズニーアニメの最新作。今回のキャラは真っ白な癒し系ロボット。その名はベイマックス!主人公のヒロは天才的な理数系頭脳を持ちながら、まだその使い方を知らない14歳の少年。工科大学に通う兄のタダシを事故で失って以来、深い悲しみのあまり、心を閉ざしてしまう。そんな情況の中、兄の部屋からベイマックスが見つかる。タダシの思いを受け継いでヒロを守るために生まれてきたケア・ロボットで、人の身体や心の状態をセンサーで感知して治療してくれる。外部はマシュマロのように柔らかで、話し方も穏やか。思わずタッチしてみたくなるロボットだ。
 ロボット技術には、自由に動くための技術、コミュニケーションや状況を判断して行動するためのセンサーや人工頭脳の技術、人が思わず好きになるような、素敵な外観にする技術などがあるが、ベイマックスはこの3つの要素をすべて兼ね備えた理想のロボットだ。ベイマックスの優しさと大学仲間たちの励ましにより少しずつ立ち直っていくヒロだが、兄の死の裏には恐ろしい陰謀が隠されていて…。
 ここからは原題「BIG HERO 6」の名が示す通り“戦隊ヒーロー活劇”として物語は進んでいく。誰かを助けるために自分の持つ力や才能をどのように使うべきか、スピーディな展開ながらテーマは見る者にしっかりと伝わってくる。子どもたちや若者にもってこいのテーマだ。
 最新のロボット工学を紹介しているのに加え、日本文化を色濃く現している世界観も見もの。舞台のサンフランソウキョウには、金門橋や路面電車というシスコの代名詞ともいえる物がたくさん登場するが、街の中はどこか東京風。ドン・ホール&クリス・ウィリアムズ監督をはじめ、スタッフが日本びいきなのはきっと間違いなさそうだ。
 (HIRO)

原題:「BIG HERO 6」
監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ
製作総指揮:ジョン・ラセター
脚本:ロバート・L・ベアード、ダニエル・ガーソン、ジョーダン・ロバーツ
VOICE CAST:スコット・アツィット、ライアン・ポッター、ダニエル・ヘニー、
日本語吹替版キャスト:菅野美穂、小泉孝太郎、川島得愛、本城雄太郎

「暮れ逢い」 (2014年 フランス・ベルギー)

2015年01月01日 | 映画の感想・批評
 パトリス・ルコント監督の最新作は、第1次世界大戦前後のドイツを舞台にした純愛物語だ。
 1912年、ホフマイスター製鋼所に職を得たフリドリックは、有能で仕事熱心な青年。そんな彼の仕事ぶりに好感を抱いた初老の実業家カールは、自宅屋敷に彼を招く。そこでカールの若く美しい妻シャーロットに出逢う。息子オットーの家庭教師も引き受けたフリドリックは、やがてホフマイスター家の屋敷で暮らすことになる。若くて美しい魅力的な男女が一つ屋根の下で暮らせば惹かれあうのは当然の成り行きだ。
 製鋼所の原料であるマンガンの大鉱脈がメキシコで発見されたという情報を掴んだフリドリックは、カールにメキシコでの鉱山開発を進言し実現するが、彼は2年間のメキシコ行きを命じられる。
 若い二人をカールはどうのように見つめていたのだろうか。ロットの両親の友人であったカールは若い妻を優しく包み込み愛している。最近は持病の心臓発作も起こりやすくなり、自分がもう老い先長くないことを悟っていたのではないだろうか。もちろん若いフリドリックにロットを奪われることは我慢できないことだが、若い妻や幼い息子の行く末を若いが有能な彼に託したい気持ちがあったのではないだろうか。フリドリックが妻や息子と楽しそうに庭で遊ぶ様子を2階の窓からじっと眺めていたカールの眼差しは、決して嫉妬と憎しみだけではない複雑な眼差しに見えた。メキシコでの2年間がフリドリックをどう変化させるのか試そうとしたのかもしれない。ちょっとカールに肩入れし過ぎかな…。
 映画はフリドリックとロットが、大西洋と第1次世界大戦に阻まれて遠く離れていても、愛を成就させた純愛物語として描いているが、カール役のアラン・リックマンのいぶし銀の演技が物語に厚みを加えている。(久)

原題:A Promise
監督:パトリス・ルコント
脚本:ジェローム・トネール、パトリス・ルコント
原作:シュテファン・ツヴァイク 「Journey into the Past」
撮影:エドゥアルド・セラ
出演:レベッカ・ホール、アラン・リックマン、リチャード・マッデン、シャノン・ターベット