シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ジャッジ!」(2013年 日本映画)

2014年01月21日 | 映画の感想・批評
 監督の永井聡はテレビCM出身の人だという。CM出身の監督といえば、大林宣彦や市川準がそうだし、海外ではリドリー・スコットやスパイク・ジョーンズ、デヴィッド・フィンチャーがいる。ドラマには振り向かない幼児がCMタイムにテレビに釘付けになるという話はよく知られている。つまり、概してCM出身の監督はそういう映像的な鋭いセンスを身につけている人が多い。しかし、結論からいうと、この映画はどうも上滑りしているようにしか見えない。
 ひとつひとつのエピソードを見ると、それなりに笑えたりおもしろかったりして観客にも受けていたが、ドラマとしてのキレが悪い。あるいは、映像的な冒険にも乏しい。往々にしてテレビドラマの名ディレクターが映画を撮ると電気紙芝居みたいな薄っぺらな作品ができあがることが多い。まあ、それに比べるとはるかに上出来かもしれないが、紙一重の差でつまずいてしまったというべきか。
 電通で最悪のテレビCMばかり担当している主人公(妻夫木聡)が、上司(豊川悦司)から国際CMコンテストの審査員の身代わりを命じられ、得意先企業のバカ息子が作った箸にも棒にもかからないちくわのCMを入賞させろと、ムチャブリされる。CMを心から愛する主人公は良心の呵責にさいなまれ、自社のCMよりライバル会社「白風堂」(このネーミングがおかしい)のトヨタのCMに惚れ、そちらを入賞させようと奔走するのだが・・・そういうストーリーである。
 おそらく、この作品の失敗は最終審査に残って入賞するか否かの大勝負に出るトヨタのCMが、失礼ながらそんなに優れているとは思えない点だろう(思った人にはおもしろいかもしれない)。確かに主人公が担当するエースコックの即席きつねうどんやちくわのCMよりはいくらもましというだけのことだ。永井監督はこの映画のために用意したトヨタの劇中劇ならぬ劇中CMに自信満々だったと見える。ここが映画の難しいところで、活字ならごまかせる点が映画はごまかせない。
 松竹とフジテレビが組んでいるだけあって傍役の顔ぶれが楽しいのは見どころか。(ken)

監督:永井聡
脚本:澤本嘉光
撮影:野田直樹
出演:妻夫木聡、北川景子、豊川悦司、鈴木京香、リリー・フランキー、加瀬亮

「麦子さんと」 (2013年 日本映画)

2014年01月12日 | 映画の感想・批評


 2014年の初笑い・初泣き映画となったのは「麦子さんと」。初詣に出かけた時のように清々しい気分に浸れて、本当によかった。
 主演の麦子を演じる堀北真希は、確かに「梅ちゃん先生」もよかったけれど、スクリーンに登場すると、がぜんその魅力が増してくる。「ALWAYS三丁目の夕日」で東北弁丸出しの六ちゃんを観た時に、この娘はなんて上手いんだろうと感心させられたが、今作でその思いは確信となった。ここまで自然体で役になりきれる若手女優はなかなかいない。
 今回演じるのは、アニメショップでアルバイトをしながら、声優になることを夢見ているいまどきの女の子。父の死後は兄と二人で暮らしていたが、突然母・彩子が舞い戻ってくる。母の記憶がほとんどない麦子は彩子の行動がすべて気に入らない。「私、あなたのこと母親と思ってないから!」という決定的な言葉を投げつけてしまった数日後、母は帰らぬ人となってしまう。末期の肝臓ガンだった。
 四十九日を迎え、母の故郷を訪れた麦子は始めて母の素顔を知る。何と彩子はその町のアイドルだったのだ。麦子が若い時の彩子そっくりだったので、町中の人たちが大歓迎。みんなそれぞれ人情味があって、こんな町がどこかにあったらいいなと思う。麦子も母の若き日の夢や突然会いに来たわけがわかってきて・・・。
 母親の余貴美子、兄の松田龍平、母の故郷で麦子を迎え入れる麻生祐美、温水洋一らが、堀北真希をしっかり持ち上げながら、それぞれの役柄でいい味を出している。こんなハートウォーミングな作品を作り上げた吉田恵輔監督はなんと38歳!!今後の活躍が大いに楽しみだ。
 (HIRO)

 監督:吉田恵輔
 脚本:吉田恵輔、仁志原 了
 撮影:志田貴之
 出演:堀北真希、松田龍平、余貴美子、麻生祐美、温水洋一、ガダルカナル・タカ ふせえり

2013年に見た映画ベストテン

2014年01月01日 | BEST
ブログ「シネマ見どころ」執筆者3名の2013年に見た日本映画、外国映画それぞれのベストテンを以下に発表します。(ken)

<久さんのベスト>
【日本映画】
1 人類資金
2 千年の愉楽
3 かぐや姫の物語
4 清須会議
5 利休にたずねよ
 
 年間の日本映画の鑑賞本数が少なく、結果ベスト10ではなくベスト5しか選べなかった。小林政広監督・仲代達矢主演の「日本の悲劇」を見逃したのが残念。

【外国映画】
1 ハンナ・アーレント(ドイツ・ルクセンブルグ・フランス)
2 東ベルリンから来た女(ドイツ)
3 もうひとりの息子(フランス)
4 天使の分け前(イギリス・フランス・ベルギー・イタリア)
5 偽りなき者(デンマーク)
6 スタンリーのお弁当(インド)
7 声をかくす人(アメリカ)
8 拝啓、愛しています(韓国)
9 命をつなぐバイオリン(ドイツ)
10 ヒッチコック(アメリカ)
 
 ファンタジー・ロマン・スペクタクル・サスペンス等々が溢れる映画も好きだが、いわゆる社会派といわれる映画の方が好きである。1位「ハンア・アーレント」、2位「東ベルリンから来た女」、9位「命をつなぐバイオリン」とドイツ映画が3本入っている。自国の歴史の恥部を捻じ曲げずに描き、真摯に向き合う姿勢に好感を持つ。「もうひとりの息子」はイスラエル人とパレスチナ人の赤ん坊の取り違えを扱っているが、紛争が続く地域の人々もこの二つの家族のようにいつかは仲良くなれるのではという希望を持ちたくなった。


<Hiroさんのベスト>
【日本映画】
1 舟を編む
2 かぐや姫の物語
3 清須会議
4 東京家族
5 そして父になる
6 許されざる者
7 クレヨンしんちゃん~バカうま!B級グルメサバイバル~
8 ペコロスの母に会いに行く
9 風立ちぬ
10 ひまわり~沖縄は忘れない、あの日の空を~
 
 今年は本当に見逃した作品が多くて、「ベストテン」には恥ずかしい結果なのですが、自分の好きな作品ということであげさせてもらいました。
 1位は「舟を編む」。松田龍平の演技力はただものではないことがわかりました。2位は「かぐや姫の物語」。今までに見たことのない、とんでもないアニメを見せてもらったという感激で、思わず鳥肌が立ちました。間違いなく高畑勲監督の代表作となるでしょう。3位の「清須会議」は役所広司の柴田勝家と、大泉洋の豊臣秀吉とのキャラクター合戦が実におもしろかった。原作、脚本、監督、全部やってくれた三谷幸喜監督って、やっぱりすごいです。

【外国映画】
1 ゼロ・グラビティ(アメリカ)
2 パッション(フランス・ドイツ)
3 スタ-・トレック~イントゥ・ダークネス~(アメリカ)
4 悪の法則(アメリカ)
5 フライト(アメリカ)
6 ヒッチコック(アメリカ)
7 オブリビオン(アメリカ)
8 ザ・フューチャー(ドイツ・アメリカ)
9 パシフィック・リム(アメリカ)
10 クラウド・アトラス(アメリカ)
 
 洋画は更に見た本数が少なく、薄っぺらい「ベストテン」になってしまいましたが、年末にⅠMAXで見た「ゼロ・グラビティ」が印象に残りました。あの無重力空間をどのような方法で表現したのでしょう。本当に驚きました。そして、やはり原題は「グラビティ」と納得させられるラストがよかったです。2位はブライアン・デ・パルマ監督5年ぶりの新作「パッション」。“デ・パルマ・マジック”といわれた独特の作風は今も健在。そのスリルとサスペンスの魔力に見事にはまってしまいました。3位の「スター・トレック/イントゥ・ダークネス」は悪役のベネディクト・カンバーバッチの存在感に圧倒されました。映画史に残るヒール(悪役)の誕生です。


<kenのベスト>
【日本映画】
1 舟を編む
2 東京家族
3 凶悪
4 みなさん、さようなら
5 共喰い
6 はじまりのみち
7 許されざる者
8 千年の愉楽
9 夏の終り
10 日本の悲劇
 
 「船を編む」がぶっちぎりの1位。辞書を編むという気の遠くなるような作業同様、実に丁寧に作られた秀作。「東京家族」は松竹の大先輩である小津安二郎の世界的傑作をリメイクするという功成り名を遂げた巨匠が手を出すには危険すぎる大冒険を敢えて実行した山田洋次に敬意を評して。「凶悪」「みなさん、さようなら」は話術に引き込まれ、「共喰い」「夏の終り」は文芸映画の収穫として推挙したい。「はじまりのみち」は、いつも弱き者、女々しき者に寄り添う木下恵介が好きだ。イーストウッドの西部劇を北海道の開拓時代の復讐劇に置き換えアイヌ差別を絡ませた「許されざる者」は李相日の重厚な演出がみごと。晩年に至るほど若き日の血がたぎるように過激さが復活した若松孝二。小林政広の「日本の悲劇」はモノクロ画面と極端に限定したカメラ位置という制約の中で少子高齢化の老人問題を鮮やかに抉り出した。

【外国映画】
1 ゼロ・グラビティ(アメリカ)
2 ゼロ・ダーク・サーティ(アメリカ)
3 欲望のバージニア(アメリカ)
4 ハンナ・アーレント(ドイツ・ルクセンブルグ・フランス)
5 キャプテン・フィリップス(アメリカ)
6 L.A.ギャングストーリー(アメリカ)
7 悪いやつら(韓国)
8 危険なプロット(フランス)
9 熱波(ポルトガル・ドイツ・フランス・ブラジル)
10 プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命(アメリカ)
 
 「ゼロ・グラビティ」には驚かされた。恥ずかしながら3Dを初めて見たが、まさに3Dでしか味わえない迫真性がここにある。ビン・ラディン暗殺場面の迫力がみごとな「ゼロ・ダーク・サーティ」、同じくドキュメンタリ・タッチが冴え渡る「キャプテン・フィリップス」。キザでケレンミたっぷりに物語るギャング映画「欲望のバージニア」「L.A.ギャングストーリー」にニンマリ。「ハンナ・アーレント」では、小役人然としたアイヒマンがイスラエルの法廷で「ユダヤ人をアウシュヴィッツに輸送する承認書には機械的に判を押していただけだ」と弁解するニュースフィルムが挿入され、収容所経験のある哲学者アーレント女史がそれを肯定しながら思考を停止した人間の罪を問う。「危険なプロット」はスランプに陥って久しいフランソワ・オゾンが復活したのが嬉しい。「悪いやつら」の話術の妙、「熱波」のエキゾチズム、「プレイス・イン・ザ・パインズ」の因果は巡る糸車。みんなおもしろかった。あと「バーニー」「ザ・コール」「声をかくす人」も入れたかった。