シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ヒッチコック/トリュフォー」(2015年 アメリカ・フランス映画)

2016年12月21日 | 映画の感想・批評
 映画ファン必見である。これを見るといかにアルフレッド・ヒッチコックという希有の映画監督が映像表現の可能性、視覚的なおもしろさにこだわり続け、それが引いては映画の魅力の本質であることがよくわかる。映画とは何かの入門としても最適だ。
 非行少年がやがて長じてカイエ・デュ・シネマ誌の編集に携わり、とうとう自らメガフォンをとることとなったのはフランソワ・トリュフォーである。ヌーヴェルヴァーグの申し子ともいえる若き日のトリュフォーは尊敬する監督を聞かれて「ヒッチコック」と答え周囲を驚かせたそうだ。ヒッチは当時ただの娯楽映画の職人監督と軽んじられていたからである。
 1962年、トリュフォーがヒッチにインタビューを申し込むと巨匠は「涙が出るほどうれしい」と快く引き受け、それから連日7~8時間、1週間にわたる対談が行われる。ふたりは食事の間も惜しんで話していたらしい。よほど気が合ったのだろう。4年の編集期間を経て出来上がったのが大部の名著「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」だ。この映画はこれをベースとしたドキュメンタリであり、当時の録音が残っていてふたりの肉声が随所で流れる。
 例えば、サスペンスと恐怖の関係を聞かれたヒッチが初期の自作を引き合いに出して答える。「プロポーズされた女が電話でその諾否を答える場面。それを電話交換手が何気なく聞いていて思わず耳をそばだてる」。その映画のワンシーンが挿入され、聞き耳を立て落ち着かない様子の交換手がしばらくして思わず微笑む(つまり女は承諾した!)。「恐怖とは限らない。これもサスペンスだ」と言ってのけるという具合に。また、ヒッチは「私は告白する」のモンティ・クリフトが気に入らなかったそうだ。俳優は監督の操り人形であるべきで自主的に演技を考えるなど余計なことはするなと言うのだ。
 マーティン・スコセッシ、黒沢清ら当代の名匠10人にコメントを求め、かれらが話している間、ヒッチコック作品の一部をそのまま挿入して見せるというサービスぶり。まあ言ってみればヒッチコック映画の名場面集みたいなものである。この手の映画ではコメンテーターの顔がずっと映っていて映像的に興をそがれることが多いのだけれど、ケント・ジョーンズ監督は全編飽きさせない工夫をしている。
 サスペンスの巨匠は80年に80歳で大往生し、トリュフォーは84年に52歳という若さで亡くなった。(健)

原題:Hitchcock/Truffaut
監督:ケント・ジョーンズ
脚本:ケント・ジョーンズ、セルジュ・トゥビアナ
出演:アルフレッド・ヒッチコック、フランソワ・トリュフォー、マーティン・スコセッシ、デヴィッド・フィンチャー、黒沢清、ウェス・アンダーソン、オリヴィエ・アサイヤス、リチャード・リンクレイター、ピーター・ボグダノヴィッチ、ポール・シュレイダーほか

「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」(2016年アメリカ映画)

2016年12月11日 | 映画の感想・批評
 財産はたっぷりとあるメリル・ストリープ演じるご老体の主人公は、音楽が大好きで大歌手になる夢を持ち続けているが、本人が気付いていないとんでもない音痴なのである。レッスンをするが、全く意味をなさない。周りの人間が四苦八苦しながら、悪口は絶対言わないという約束で、身内のミニコンサートを開催したり、自主制作レコードを出したり、何とか取り繕っていた。が、周りの者がちょっと目を離した隙に、本人が、勝手にあのカーネギーホールでの音楽会を申し込んでしまったのである。更に、軍の慰労者に招待券まで送ってしまったのである。さあ、当日はどうなることやら・・・。
 メリル・ストリープの旦那を演じるヒュー・グラントやピアノ伴奏者を演じるサイモン・ヘルボーグが、あの手この手で何とか当日を迎えるのだが、あまりの歌の下手さに、途中で退席する評論家や笑い出す観客が続出し、怒号が出て、初めて、心配そうな顔をする彼女。舞台袖で困惑する旦那。伴奏も続けることが出来ない。さあどうするか。その時である。一人の観客が叫ぶのである。「彼女は歌っているのよ!」そう、彼女は「心」で歌っていたのである。
 彼女は全く以って上手な歌手ではない。でも、自ら音楽を楽しみ、人を明るくさせ、人生を謳歌しようと信念があったのだ。何をどう訴えるのか、自分の人生をどう表現させるのかは、その人の「強い気持ち」で変わるもので、その方法の上手下手は関係ないと、改めて思わせてくれた。昨今、「勝ち組」「負け組」という表現が躍り、皆が「勝ち組」に入ろうとする。ただ、その線引きはどこにあるのだろうか。誰が決めるのだろうか。全編を通して、コメディタッチで描かれるがとても考えさせられる映画だった。
 この映画は実話をベースにしている。エンドロール時に、本人の歌声が流れるが、確かに、酷いものであった。ただ、この音楽会の録音は、カーネギーホールのアーカイブのナンバー1だそうだ。それは、「フローレンス・フォスター・ジェンキンス」という人物の気持ちが溢れている証拠だろう。
(kenya)

原題:「Florence Foster Jenkins」
監督:スティーヴン・フリアーズ
撮影:ダニー・コーエン
美術:アラン・マクドナルド
音楽:アレクサンドル・デスプラ
編集:ヴァレリオ・ボネッリ
衣裳:コンサラータ・ボイル
出演: メリル・ストリープ、ヒュー・グランド、サイモン・ヘルボーグ、レベッカ・ファーガソン、ニナ・アリアンダ他

「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」 (2016年 アメリカ映画)

2016年12月01日 | 映画の感想・批評


 10年にわたり世界中のファンを魅了した「ハリー・ポッター」シリーズが終了して早5年。その後もUSJのアトラクションに導入されたり、新シリーズが誕生するなど、今だにその人気は衰えることを知らないが、「ハリー・ポッター」シリーズより数十年前、1920年代のアメリカ大陸を舞台に、新たな魔法世界の時代を描いているのがこの「ファンタスティック・ビースト」だ。
 「ハリー・ポッター」シリーズ全7巻の原作者J・K・ローリングが、本作では脚本も担当。ローリングが作り出した新たなキャラクター、ニュート・スキャマンダーは世界中を旅する魔法動物学者。彼が持っている不思議なトランクの中はさしずめ魔法動物の動物園といったところ。世界を飛び回って絶滅寸前の動物たちを集め、保護しているのだが、中にいる動物たちが、何とも不気味で可愛くて、ファンタスティック!!それぞれ活躍の場も用意されているが、トランクの中にはまだまだ表に出ていない貴重な動物たちが隠れていそうで興味深い。
 このトランクをノー・マジ(普通の人間)であるコワルスキーが取り違え、動物たちをニューヨークの街中に放してしまったからさあ大変。不可解な現象が起きていた街に更なる騒動が巻き起こる。この二人に加え、マグーサ(アメリカ合衆国魔法議会)で働くティナとその妹クイニーがチームを組み、逃げた魔法動物を捕えながら強大な闇の勢力との対決に立ち向かう。
 J・K・ローリングの脚本に加え、「ハリー・ポッター」シリーズ後半4作品でメガホンをとったデイビッド・イェーツが監督したとあって、随所にハリポタの匂いが漂っているのはファンにとってうれしいところ。ニュートはかつてホグワーツ魔法学校の生徒であり、彼の著書「幻の動物とその生息地」は何とハリーたちが使っていた重要な教科書の一つなのだ。ニュートが使う魔法の杖もハリーたちが使っていたものと同じとはご愛嬌。しかし、ニュートを演じるエディ・レッドメインをはじめ、メインキャストの4人が、美男美女過ぎず、何とも新鮮な味わいを出しているところに好感が持てる。この新たなシリーズ、今後どんな展開をしていくか、非常に楽しみである。

監督:デヴィッド・イェーツ
脚本:J・K・ローリング
撮影:フィリップ・ルースロ
主演:エディ・レッドメイン、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、アリソン・スドル、エズラ・ミラー、サマンサ・モートン、ジョン・ヴォイト、コリン・ファレル
(HIRO)