シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「マイ・インターン」 (2015年 アメリカ映画)

2015年10月21日 | 映画の感想・批評


 9年前「プラダを着た悪魔」でメリル・ストリープに仕込まれ、ファッション界でキャリア・アップしていく主人公を演じたアン・ハサウェイが、その後日談のごとく、見事に女社長になって帰ってきた。今回の主人公ジュールズが1年半前に立ち上げた会社はネット販売で急成長。今や220人のスタッフを抱えるまでになった。
 この会社には福祉事業として「シニア・インターン制度」があり、そこで雇われたのが70歳の新人ベン。このベンが大人の男の魅力あふれる老紳士であると同時に、何ともかわいいオジサンで、その姿を見ているだけで口元が緩んでくる。そして彼の豊かな人生経験が的確なアドバイスとして機能し、迷える若者たちの悩みを次々と解決し、幸せへと導いてくれるのだ。
 この作品の最大の魅力は、美しく成長したアンの姿もあるが、何といってもロバート・デ・ニーロ扮するインターンのベン。あの「ゴッドファーザー」3部作でマフィアのボスを演じたデ・ニーロが、こんな今までにないキャラクターを演じることができるなんて、さすが名優と謳われるのも頷ける。その人物像を探ってみると・・・。クラシカルなスーツをいつも着用し、年代物のアタッシュケースや文具などのアイテムにもこだわりがあって、何ともファッショナブル。常に穏やかで何事にも動じないところは年の功か。硬派でありながらユーモアにあふれていて、上から目線で判断することなく、若い同僚からの人望も厚い。こんな愛すべき人物をデ・ニーロに演じさせたナンシー・マイヤーズ監督の粋な計らいにも拍手だ。
 さて、この「シニア・インターン」という制度、高齢化社会がアメリカ以上に進んでいる我が国においても、ぜひ取り入れたい制度だ。若い時は輝く未来が永遠に続くように思えるが、仕事を辞める日は必ず来る。定年を過ぎても元気で、長年培った力を何かに生かしたいと思っているオジサン(オバサン)たちも多いはず。そんな方はぜひこのベンの生き方を参考にしてみてはいかがだろう。ただし、くれぐれも「まだまだ現役!」とプライドが先行しませんように…。
(HIRO)

原題:「THE INTERN」
監督:ナンシー・マイヤーズ
脚本:ナンシー・マイヤーズ
撮影:スティーヴン・ゴールドブラッド
出演:ロバート・デ・ニーロ、アン・ハサウェイ、レネ・ルッソ、アダム・ディヴァイン、ジョジョ・クシュナー


「GONIN サーガ」(2015年日本映画)

2015年10月11日 | 映画の感想・批評
 1995年に製作されたバイオレンス映画の名作「GONIN」の後日譚である。何しろ20年もの歳月が経っているので、前作の断片はところどころ頭に浮かんでも全体といえば記憶のかなたにある。だから、本作は冒頭でおさらいのように前作のシーンを部分的に引用することで「事件」の概要について説明する。そうして、「事件」の被害者である暴力団の幹部たち――大越組の組長と若頭の久松の遺族・・・かれらのその後が描かれる。
 前作は、借金地獄で追い詰められたディスコ経営者(佐藤浩市)が仲間を募って貸し手の暴力団から巨額の金を強奪する作戦に成功し、やがてその暴力団が殺し屋(ビートたけし)を雇い、かれらを追い込んでゆくという話だ。むしろ大筋より、首謀者のディスコ経営者と男娼あがりの美青年(本木雅弘)のただならぬ関係とか、それに対比するように殺し屋とその手下の青年(木村一八)の加虐的な性愛が描かれるなど、不思議な情感を漂わせていた。そうしたアブノーマルな人間関係が本作では希薄となり、ずいぶん直球勝負となったところは少し物足りない。
 さて、大越組の上部団体、五誠会の跡目は二代目(テリー伊藤)が継ぎ、倅の三代目(安藤政信)はフロント企業の芸能プロ社長として幅を利かせている。大越の遺児(桐谷健太)はかれらのボディガードとして使い走り同然にこき使われているし、久松の遺児(東出昌大)はスナックを経営する母親とひっそり暮らしている。大越組を再興しようと誓う遺児ふたりと、三代目に翻弄される歌手(土屋アンナ)、20年前の「事件」の真相を究明しようと動いている謎の若者(柄本佑)の4人で五誠会の巨額の資金を強奪するのだ。因果はめぐるというやつで、五誠会は再び殺し屋(竹中直人)を雇い4人を追うが、この殺し屋が唯一アブノーマルな存在だといえる。 
 特筆に価するのは石井監督のたっての願いで特別に出演したという根津甚八の変わり果てた姿だろう。ほとんど演技とは言いがたいリアルな迫力とでも言えばよいのだろうか。
 それと、一瞬場面を暗くして同じ構図で再開することで時間経過をとばすという編集の場面転換手法が奇妙な味を醸し出していた。(健)

監督・脚本:石井隆
撮影:佐々木原保志、山本圭昭
出演:東出昌大、桐谷健太、土屋アンナ、柄本佑、竹中直人、安藤政信、テリー伊藤、根津甚八

「セッション」 (2014年 アメリカ映画)

2015年10月01日 | 映画の感想・批評


 すべてが予想を覆す映画だ。超えてしまっているといった方がいいか。まず、タイトルが出る。「Whiplash」あれっ?!「Session」じゃあないのか。ヒップラッシュって、なんという意味だっけ?と思っているうちに主人公アンドリュー・ニーマンが登場。彼は若くして才能に恵まれる19歳のジャズ・ドラマー。アメリカで最高の音楽学校に進学し、日々孤独に練習に打ち込んでいる。なかなか上手だ。
 彼が学ぶ初等教室に音楽学校の中でも最高の指揮者として名高いテレンス・フレッチャーがやってくる。いわゆる“引き抜き”ってやつだ。フレッチャーの目に留まったニーマンは彼のスタジオ・バンドに招かれ、腕を試されることに。さあ、これからニーマンの成功物語が始まると思いきや、このフレッチャー先生が半端じゃあない。ものすごく怖いのだ。彼はバンドの“セッション”については徹底した完璧主義者で、ちょっとでも音色やテンポが違っただけで容赦なくメンバーに怒声を浴びせる。時にはイスを投げつけることも。初日からニーマンも「Whiplash」という曲を練習している最中にその対象となる。ひと昔前なら日本にもこんな鬼先生がいたかもしれないが、「体罰」が問題となる今では貴重な存在だ。(少し懐かしい感じもするが・・・)しかしニーマンはへこたれない。彼をやっつけるには、とにかくどんな曲でも演奏できるように練習すること。この気構えが何とも頼もしい。
 「Whiplash」とは“鞭打ち”という意味だと分かって納得した。フレッチャーを見事に演じ、観客までも鞭打って異常な緊張感を与えてくれたJ・K・シモンズはアカデミー賞助演男優賞を受賞。編集賞と録音賞も獲得したが、自らジャズドラムを演奏し、一途なニーマンを演じきったマイルズ・テラーにも注目。特にラスト9分19秒の怒涛の演奏シーンは強烈だ!二人が目指していたのはまさにこれ!!こんな映画史に残る傑作を監督したのは、かつてジャズバンドに所属したこともあるというデイミアン・チャゼル。忘れないでおこう。
(HIRO)

原題:「Whiplash」
監督:デイミアン・チャゼル
脚本:デイミアン・チャゼル
撮影:シャロン・メール
音楽(音響ミキシング):クレイ・マン、ベン・ウィルキンズ、トーマス・カーリー
編集:トム・クロス
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、ポール・ライザー