シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

命をつなぐバイオリン(2011年/ドイツ)

2013年07月22日 | 映画の感想・批評
 1941年春、ソ連の支配下にあったウクライナのボルタヴァ。アブラーシャはバイオリンで、ラリッサはピアノで、神童と呼ばれていたユダヤ人の少年と少女がいた。2人の演奏に感動したバイオリンを弾くドイツ人の少女ハンナは、2人と友達になり、一緒に演奏をしたいと両親を説得する。
 3人の間に友情が芽生え始めたころ、ドイツは1939年8月に締結した“独ソ不可侵条約”を破り、ウクライナを爆撃する。ドイツ人であるハンナの家族は危機にさらされるが、アブラーシャとラリッサの家族に助けられる。だがドイツ軍が侵攻して来て状況が逆転し、今度はユダヤ人であるアブラーシャやラリッサの家族がハンナの一家にかくまわれる。やがて2人とその家族は見つかり、彼らの家族は強制収容所送りになるが、ナチス親衛隊の大佐は、ヒムラーの誕生祝賀会で完璧な演奏をしたら2人を収容所送りから免除してやると伝える。
 隠れ家でラリッサが「ハンナは敵になるの?」という問いに、アブラーシャが「大人はバカだからさ」と答える場面がある。バイオリンとピアノという音楽を通して、ユダヤ人とかドイツ人とか、民族や人種に関わりなく育んできた、3人の友情を壊そうとする理不尽で身勝手な大人への怒りが静かに伝わってきた。
 のどかな村の平和な暮らしが、ある日突然飛来した戦闘機の爆撃で破壊され、戦争の恐怖が広がっていく。あぁ、戦争ってこんな風にあたりまえの生活を壊すところから始まるのだな、だから常から「平和を欲するなら平和に備える」ようにしなければいけないとつくづく思った。(久)

原題:WUNDERKINDER
監督:マルクス・O・ローゼンミュラー
脚本:マルクス・O・ローゼンミュラー、スティーブン・グランツ、ロルク・シューベルト、クリス・カラトマス
撮影:ローマン・ノボツィエン
出演:エリン・コレフ、イーモゲン・グレル、マティルダ・アダミック

2013年 上半期の総括~ベスト5

2013年07月21日 | BEST
 さて、2013年も後半に入り、HIROさんの提案で上半期のベスト5を批評欄執筆者3名で選出することになりました。

久さんのベスト5
1 東ベルリンからきた女(ドイツ)
2 天使の分け前(イギリス・フランス・ベルギー・イタリア)
3 偽りなき者(デンマーク)
4 スタンリーのお弁当箱(インド)
5 The Door(ハンガリー)

HIROさんのベスト5
(日本映画)
1・舟を編む
2・藁の楯
3・東京家族
4・映画クレヨンしんちゃん バカうま!B級グルメサバイバル
5・だいじょうぶ3組
(外国映画)
1・ホビット 思いがけない冒険
2・007スカイフォール
3・フライト
4・レ・ミゼラブル
5・ヒッチコック

kenのベスト5
(日本映画)
1・舟を編む
2・東京家族
3・みなさん、さようなら
4・はじまりのみち
5・千年の愉楽
(外国映画)
1・ゼロ・ダーク・サーティ
2・L.A.ギャングストーリー
3・007スカイフォール
4・欲望のバージア
5・レ・ミゼラブル

「欲望のバージニア」(2012年アメリカ映画)

2013年07月11日 | 映画の感想・批評
 1920年代のアメリカはヴァージニア州の片田舎。禁酒法の時代に密造酒で荒稼ぎする3兄弟がいた。恐らくクレジットされている原作者はその末弟だと思われるが、多少大げさに描かれているとはいえ、実話の映画化である。冷静沈着、禁欲的で商才、度胸、知恵を兼ね備えた次男が商売を取り仕切り、長兄は腕っ節で弟を支え、末弟は意気地無しと見下されているので何とか自分の存在価値を認めさせようと野心満々である。ふたりの兄はこれまで災難や病気に見舞われながらも九死に一生を得てきた強者で、3兄弟は不死身だと末弟に言い聞かせている。
 何しろ田舎だから保安官もみんな気心の知れた顔見知りだ。ところが、そこへ連邦政府から検察の特別補佐官と名乗る蛇のように執念深い男が密造酒の摘発に乗り込んできた。この煮ても焼いても食えそうにない狡猾な男をガイ・ピアスが演じる。眉毛を剃り落として髪の毛を油で塗り固めて七三にぴったり分けたピアスの鬼気迫る演技はみごとというしかない。あの好漢ピアスの面影はまったく消え失せ、最後に3兄弟と対決するときには、ピアスの指揮下にある保安官連中までがかれに銃を向けざるを得ないほど人倫にもとる卑劣漢となって狂気を宿したまま、八つ裂きにされるのだ。ピアスが倒れたあとの爽快感は何だろう。それほど憎々しい役づくりだった。
 今年のカンヌ映画祭でオープニングを飾ったこの映画、随所にちょっとキザだが適当にしびれさせるスタイリッシュな映像(闇夜に雪が降る場面とか)が散りばめられ、ジョン・ヒルコートという御仁、おぬしできるなと思わせる。(ken)

原題:Lawless
監督:ジョン・ヒルコート
脚本: ニック・ケイヴ
原作:マット・ボンデュラント
撮影:ブノワ・ドゥローム
出演:シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ、ゲーリー・オールドマン、ジェシカ・チャステイン、ミア・ワシコウスカ、ガイ・ピアス、ジェイソン・クラーク

「オブリビオン」 (2013年 アメリカ映画)

2013年07月03日 | 映画の感想・批評

 ハリウッド映画の超大ヒット作が少なくなった昨今、お客を呼べるスターとしてまず頭に浮かぶのがトム・クルーズだろう。おなじみ「ミッション・インポッシブル」の後は「ロック・オブ・エイジス」で見事な歌唱力を披露し、続く「アウトロー」では、ダークヒーローを演じるなど、常に新境地を目指すトムが選んだ新作は、「トロン:レガシー」で独特の映像世界を創り出し注目されたジョセフ・コシンスキー監督作品だ。

 舞台は2077年。未知のエイリアンからの襲撃を受け、荒れ果てた地球。生き残った人類は土星の衛星タイタンへの移住を果たしたが、記憶を消されたジャック(トム・クルーズ)とパートナーのヴィクトリアは地球に残り、海水を集める装置や資源の安全を見守るという任務に就いていた。ある日、墜落した宇宙船のカプセルの中で眠っている女性を保護したジャックは、目覚めた彼女から自分の名前を呼ばれ困惑する。実は、自分も夢の中で何度も“彼女”と出会っていたのだ。「忘却」の彼方で二人はどのようにつながっていたのだろうか?!

 登場人物は少ないのだが、トムの活躍が2倍、3倍楽しめる設定になっていて、ファンにとってはうれしいかぎり。格闘技で鍛えた身体ですべてのスタントをやってのけた役者根性にも脱帽。

 コシンスキー監督が選んだロケ地・アイスランドの荒涼とした風景が、近未来のセンセーショナルなビジュアルとマッチして何とも美しい。

  (HIRO)

 

 監督・原作・製作:ジョセフ・コシンスキー

 脚本:カール・ガイダシェク、マイケル・デブリュン

 撮影:クラウディオ・ミランダ

 出演:トム・クルーズ、モーガン・フリーマン、オルガ・キュリレンコ、アンドレア・ライズブロー