シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「罪の手ざわり」(2013年中国=日本)

2014年06月21日 | 映画の感想・批評
 何の脈絡もないように見える複数の物語が登場人物を介してつながっていく。ジャ・ジャンクー監督は実際に発生した様々な事件に触発されて、この映画の着想を得たという。彼は、「プラットホーム」や傑作とされる「長江哀歌」などで今や世界的に知られる巨匠の風格を帯びたが、そのおもしろさが第一級かというと、正直にいって私は少し疑問があった。しかし、本作は確かに第一級のおもしろさだといっていい。カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。
 一番目のエピソードは、うだつの上がらない中年男が、今や成功して資産家となった同級生と彼から賄賂をもらって私腹を肥やしている村長や村の会計責任者に憤りを感じ、告発しようとするが、村の連中はそういう男を負け犬としか見ない。
 二番目の話は、母親の長寿祝に次男が出稼ぎから久しぶりに帰郷する。妻は大金を仕送りして来る彼がいったい何の仕事をしているのか不審に思っている。男は妻の心配をよそ目に再び出稼ぎと称して場当たり的な旅に出る。
 三番目の話は、その男が稼ぎ場所を求めて乗車するバスに乗り合わせた恰幅のよい中年男が停留所を降りて女と落ち合うところから始まる。ふたりは不倫の関係にあり、自分を取るか妻を取るかと迫る女に、男は曖昧な態度を繰り返すばかりだ。自宅に戻る男を見送った女はやるせないまま現実の生活に帰るのである。
 大きな工場の職工をしている若者が職務中に私語をしたことで同僚に大けがを負わせ、工場の責任者(例の不倫の男だ)にこっぴどく叱られる。工場をやめた若者は友人を頼って町に出て風俗店のボーイに就く。だが、そこで若者が見た夢はやがて絶望へと変わるのだ。
 こうして、一番目の男、三番目の女、四番目の若者は血なまぐさい衝撃の結末を迎え、既に血なまぐささを背負って生きる二番目の男だけが宛もない旅を続けるのだ。些細な罪から大罪まで、人間の業(ごう)というものを描きながら、現代中国の格差拡大、社会的な矛盾をあぶり出して行くのである。巨大な国の中で蠢く無力な人びとの怨嗟が聞こえてきそうだ(原題は「天の定め」の意)。  (ken)

原題:天注定
監督:ジャ・ジャンクー
脚本:ジャ・ジャンクー
撮影:ユー・リクァイ
出演:チャオ・タオ、チアン・ウー、ワン・バオチャン、ルオ・ランシャン

「X-MEN フューチャー&パスト」 (2014年 アメリカ映画)

2014年06月11日 | 映画の感想・批評


 「キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー」「アメイジング・スパイダーマン2」と、今年はマーベル映画の新作が相次いで公開され、人気のほどをうかがわせているが、その真打ちともいうべき「X-MEN」最新作の登場だ。
 2023年の未来でX-MENたちは最大の危機を迎えていた。ミュータントを抹殺するために開発されたバイオテクニカル・ロボット「センチネル」の攻撃により、地球は壊滅寸前に。この危機を救うには、センチネルの開発が始まった1973年にタイムスリップし、その根源を断つしかない。そう考えたかつての宿敵、プロフェッサーXとマグニートは手を結び、時空間移動の能力を持つキティ・ブライドによってウルヴァリンの「魂」を過去に送り込もうとする。2023年と1973年、二つの時代を駆け抜け、人間とミュータントたちとの思いが激しくクロスする。
 シリーズ全作に出演しているヒュー・ジャックマンの変わらぬボディに、ウルヴァリンを演じられるのはやはりこの人と思いながら、今回はプロフェッサーXとマグニートを演じた、パトリック・スチュワート=ジェームス・マカヴォイ、イアン・マッケラン=マイケル・ファスベンダーのコンビが印象に残った。パンフレットの表紙でもお分かりのように何と見事な成長ぶり!!
 監督に第1作「X-MEN」、第2作「X-MEN2」のブライアン・シンガーが復帰し、懐かしいメンバーが勢ぞろいしたのもファンにはうれしいところ。日本ではついに人口の減少が始まり、感情を感知し、言葉で表現できるロボットが登場した昨今、ぜひこのシリーズを見直し、誰もがみんな平和に共存できる地球について考えてみるのもいいかもしれない。
(HIRO)

監督:ブライアン・シンガー
脚本:サイモン・キンバーグ
撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル
出演:ヒュー・ジャックマン、ジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ハル・ベリー、
   ジェニファー・ローレンス、イアン・マッケラン、パトリック・スチュワート

バチカンで逢いましょう(2012年ドイツ映画)

2014年06月01日 | 映画の感想・批評
 「バグダッド・カフェ」のミステリアスなジャスミン役で観客を虜にしたマリアンネ・ゼーゲブレヒトが、ローマとバチカンを舞台に元気でチャーミングなおばあちゃんマルガレーテとなって、スクリーンに帰って来た。原案を書いたクラウディア・カサグランデのおばあさんの実話だそうだ。
 若い頃共にカナダに移住した夫が亡くなり、娘一家と暮らすことになったマルガレーテ。娘は母親を老人ホームに入れる計画を立てていた。しかし彼女の願いはたったひとつ、バチカンに行き、ずっと隠してきた秘密を法王の前で懺悔することだった。娘たちとの同居も老人ホームへの入居も拒否し、マルガレーテはバチカンを目指して孫娘が暮らすローマへと旅立つ。
 昨年史上初アメリカ大陸出身の法王が誕生したばかりだが、この映画が製作された2012年のローマ法王は、ドイツ出身のベネディクト16世。マルガレーテも法王もバイエルンの出身ということで、彼女は尊敬と親しみをこめて「ベネディクト」と呼び、彼にこそ懺悔を聴いてほしかったのだろう。
 「バグダッド・カフェ」のジャスミンがシャイで静かなムードで周りの人々を癒していってのとは対照的に、マルガレーテはバイタリティあふれる行動力で、ローマで出会った人たちを幸せにしていく。ジャンカルロ・ジャンニーニ扮する老詐欺師ロレンツォとの出会いも彼女のローマでの滞在に刺激を与えてくれた。目が見えないと偽った彼に仕返ししようとして、誤って法王にスパイススプレーを振りかけたせいで捕まった彼女を助けようと、警官の前で繰り広げる大芝居、女を口説かせたら右に出るものはいないイタリア男の面目躍如といったシーンでは観客も爆笑。
 前向きに生きるマルガレーテには懺悔なんか似合わない、自分の問題は自分で解決できる、ドイツ映画だけれどイタリアの陽気さが溢れる楽しい映画だ。(久)

原題:OMAMAMIA
監督:トミー・ヴィガント
脚本:ジェーン・エインスコー
撮影:ホリー・フィンク
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、ジャンカルロ・ジャンニーニ、アネット・フィラー、ミリアム・シュタイン、ラズ・デガン