シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「嘘を愛する女」(2018年 日本映画)

2018年01月31日 | 映画の感想・批評
 数年、同居した恋人が、意識不明の重体になったことから、自分が知る恋人の名前も住所も偽りだったことに気付かされ、自分が愛した人物は何者なのか調べていくと、思いも寄らなかった過去が明らかになっていく・・・、サスペンス仕立ての恋愛映画である。
 観終わった後、分かったのだが、本作品は、新たな才能の発掘を目指した「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2015」にて、応募総数474本の中から、初代グランプリに輝いた企画だそうである。全編を通して、CM出身で初演出の監督が脚本も担当されたからだろうか、細かい不整合は多々ありながらも、熱き想いを勢いに乗せて、2時間を突っ走るという印象であった。登場人物の気持ちの浮き沈みが激しく、それ故に、「うれしい」シーンや「悲しい」シーンがはっきりとしており、やや唐突感が否めなくて、感動的なシーンでも、こちらが気恥ずかしく感じられる場面があった。特に、長澤まさみ演じる主人公由加利は、恋人を「信じたい」という願望と、信じ切っていた人物に裏切られた気持ちとが混ざり合う、複雑な感情を持つ人物を演じ続けなくてはいけないことから、かなりのストレスがあったかと想像出来る。そのストレスが画面を通じて、出ていたように感じる。それは監督の意図していたことなのか、そうでは無いのかは分からないが・・・。
 ちなみに、監督の熱い想いとは、嘘(=「人間のダメな部分」とします)をも、包み込んでしまう大きな気持ちが「愛」であるというものであろうと思う。果たして、主人公由加利は、それを感じられることが出来るのであろうか。はたまた、それを与えることは出来るのだろうか。感動的なラストにその答えが待っている。
(kenya)

監督:中江和仁
脚本:中江和仁、近藤希実
撮影:池内義浩
出演:長澤まさみ、高橋一生、DAIGO、川栄李奈、野波麻帆、初音映莉子、嶋田久作、奥貫薫、津嘉山正種、黒木瞳、吉田鋼太郎他

5パーセントの奇跡~嘘から始まる素敵な人生~(2017年ドイツ映画)

2018年01月24日 | 映画の感想・批評
 「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最後の日々」のマルク・ローテムント監督作品ということで期待していたが、原作者のサリヤ・カハヴァッテの実話を映画化し、期待通りの心温まる作品となっている。
 父の国スリランカを旅した際にホテルの魅力に感動し、「5つ星ホテルで働く」ことを夢見ていたサリーだったが、先天性の病気で95%の視力を失ってしまう。それでも夢を諦めきれないサリーは視力障害を隠して一流ホテルに応募し、見習い研修生に合格する。しかし実際に研修が始まると、次々と問題がおきて来る。
 サリーの5%の視力を、実際の見え方はどうなのかは観客の方で想像するしかないが、画面ではカメラのピントをぼかすことで表現している。普通に見えているものの色や形がぼやけて、判別できないもどかしさを共有しながら、自分だったらサリーのように現実に負けないで夢を実現しようと行動できるだろうかと思わずにはいられない。
 一流ホテルの研修内容は、ルーム係、フロント、厨房、バー、レストランなどと多岐に亘っていて、指導官も厳しい目で研修生たちをチェックしていく。サリーはちゃんとやっていいけるのか、見えないことがいつばれるのか、ハラハラドキドキしながら映画に引きこまれていく。
 本人の努力はもちろんのこと、明るくて誠実で真面目なサリーを優しく助けてくれる周りの人たちの存在が大きい。中でも、一緒に研修に参加することになったマックスとの友情が、サリーの夢の実現を手助けしてくれる。前夜の酒の匂いと女の残り香をまとって面接に遅刻して来て、本当にやる気があるの?と思いたくなるマックス。けれどもなぜかサリーとは気が合って、さりげなくサリーの様子をうかがいながら彼のピンチを助けてくれる、実はとっても頼もしいナイスガイだったのだ。父親の経営するレストランに研修が終わった後で忍び込み、サリーのためにバーテンダーに必要な知識や技を教えてくれたり、テーブルセッティングの練習に付き合ってくれたり、マックス自身がそれなりの技量をもっていることを伺わせる。サリー1人では叶わなかった夢が仲間たちの支えで実現し、彼を支えた人々も成長していく、そんな人生の素晴らしさを描いている。
 真面目で前向きなサリー役のコスティア・ウルマンはエスニックで甘いマスクが魅力のイケメン俳優、一方調子のいいちょっとワルなマックス役のヤコブ・マチェンツも数々の受賞歴に輝く若手俳優と、ダニエル・ブリュール以来注目したい俳優に出会えたドイツ映画だった。(久)

原題:Mein Blind Date mit dem Leben
監督:マルク・ローテムント
脚本:オリバー・ツィーゲンバルク
原作:サリヤ・カハヴァッテ「MEIN BLIND DATE MIT DEM LEBEN」
撮影:ベルンハルト・ヤスパー
出演:コスティア・ウルマン、ヤコブ・マッチェンツ、アンナ・マリア・ミューエ、ヨハン・フォン・ビューロー

「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(2017年 アメリカ映画)

2018年01月17日 | 映画の感想・批評


 先日公開された中国でも日本以上の大ヒット!!世界的な人気を誇る「スター・ウォーズ」シリーズの新たなる3部作の第2章。いよいよクライマックスも間近だ。SF映画の、特に視聴効果において革命をもたらした“中間三部作”、創始者ジョージ・ルーカスの思いが色濃い“前史三部作”と比べると、前作「フォースの覚醒」は少々雰囲気が変わった印象を受けた方も多いことだろう。それもそのはず。中間3部作を監督した後、ルーカスは自らが経営していたルーカスフィルムをディズニーに売却。今作でもキャラクター原案にかかわるのみとなっている。つまり、新三部作は新世代のフィルムメーカーたちによる、全く新しい「スター・ウォーズ」だともいえるのである。
 しかし、ご安心あれ。ルーカスが生み出したSWの面白さはしっかり新世代へと引き継がれている。これはプロデューサのキャスリーン・ケネディの力が大きい。彼女は70本以上の長編映画を製作してきたのだが、「E.T.」「ジュラシック・パーク」などのスティーブン・スピルバーグ監督作品をはじめ、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「シックス・センス」など、数々の名作に関わってきたというから驚き。2012年にはルーカスからルーカスフィルムの社長に指名され、その信頼度は絶大なのだ。そんな彼女が見つけ出し、今作の監督に抜擢したのがライアン・ジョンソンだ。ジョンソン監督はまず、前作「フォースの覚醒」の脚本を熟読し、登場するキャラクターたちを細部まで理解したうえで新たな脚本に着手。だからこそ、登場するキャラクターたちのすべてが、印象深く活かされているのである。
 俳優陣もがんばった。特筆すべきは、前作の最後に登場したルーク役のマーク・ハミルだ。その病を押しての渾身の演技には言葉には表せないほどの感動を得られる。その妹レイアを演じるキャリー・フィッシャーも然り。かつてのレイア姫も今や将軍。レジスタンスの最高指導者だ。その堂々たる演技に感銘を受けながらも、今作が彼女の遺作になってしまったことは、何とも悲しい。主人公のレイを演じるディジー・リドリーや、悩める宿敵カイロ・レンを演じるアダム・ドライバーなど、若手の成長も著しい。さらに、新しいキャラクターや珍しいクリーチャー、変わった惑星に戦闘機など、SWファンならウキウキするような仕掛けがいっぱい登場する。ライトセーバーももちろん健在なり。ルーカス監督が大好きだった黒澤明監督の時代(ジェダイ)劇にあやかっての大チャンバラシーンも堪能できる。
 さあ、泣いても笑ってもあと1作。父親を殺めてまでダークサイドに陥ってしまったカイロ・レンがどのような行動に出るのか、ジェダイは滅びる運命にあるのか、レイに繋がる人物はいるのか・・・等々興味は尽きないが、この半世紀にわたる大サーガの結末をあと2年、楽しみに待つことにしよう。
 (HIRO)

監督:ライアン・ジョンソン
脚本:ライアン・ジョンソン
撮影:スティーヴ・イェドリン
出演:マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー、デイジー・リドリー、アダム・ドライバー、ベニチオ・デル・トロ、ローラ・ダーン、フランク・オズ、アンディ・サーキス

オリエント急行殺人事件(2017年米・英)

2018年01月10日 | 映画の感想・批評
今年からこのシネマ見どころに参加させていただきます、アロママです。
よろしくお願いいたします。

12月8日公開の本作品。
あまりにも有名なアガサ・クリスティーの名作ミステリー。

もともとシェイクスピア劇の舞台俳優出身のケネス・ブラナーが、監督主演したリメイク版。

冒頭の卵の大きさにこだわるポアロ、卵を買いに走る少年の可愛さ、今トランプ大統領の発言で世界中が揺れる「エルサレム」の嘆きの壁などなど、いきなり引き付けられる。
そして、いよいよオリエント急行に乗りこむ時のわくわく感。
まるでタイタニックの乗船シーンのように、これから起こる重大事件とその結末がわかっていても、旅への期待が高まる導入。
うまいわあ!!!AXNミステリーの神経質なポアロさんと違って、チャーミング!

悩めるポアロが困惑を打ち明ける相手。カトリーヌの写真、これがエマ・トンプソンの若き日の姿らしい。
個人的な背景事情(ケネス・ブラナーとエマ・トンプソンは元夫婦、今も関係良好らしい)があるだけに、思わずにんまりしてしまう。

髭のカバーもあるんだ!ケーキが好きなんだ!それも上っ面だけ食べてる!

「顔が嫌いだから、依頼を断る」

こういうユーモアと茶目っ気がKEN(ケネス・ブラナー)の魅力でもある



大画面で見る価値は絶対にあり。俯瞰でとらえた映像は本当に旅している気分にさせてくれる。

壮大な風景の中をひた走る、おしゃれな列車。


74年版に負けていない、豪華俳優陣の競演もワクワクさせられる。

ジョニー・デップの悪役、はまってる!凄みと下品さをにじませながら。

ジュディ・デンチ、威圧感たっぷりの嫌みな公爵夫人、こういうのが本当によく似合う。だから好き!

スターウォーズの若きヒロインのデイジー・リドリーも、この名優たちに囲まれていい仕事をしている。


エンドロールで流れる歌はミシェル・ファイファー。若々しい声に驚く。
歌詞は監督も参加して書いたらしい。字幕で歌詞を紹介してほしかった。吹き替え版にもなし!

ストーリーを知らずに見るとしんどいかもしれない。
謎解きはそれほどメインで描かれてない。端折られてる感が強い。
それはこれだけ有名な作品のリメイクである以上、やむを得ないのかと思うが、いかがでしょう。

ナイルで殺人事件も起こった様子、しばらくはケネス・ブラナー版のポワロさんと付き合うのも楽しみ!

(アロママ)

原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS
監督:ケネス・ブラナー
原作:アガサ・クリスティー
脚本:マイケル・グリーン

出演:ケネス・ブラナー、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、デレク・ジャコビ、デイジー・リドリー他


執筆者の2017年ベストテン発表

2018年01月03日 | BEST


あけましておめでとうございます。2017年も日本・外国映画合わせて1000本余という大量の作品が関西で封切られました。映画がデジタルとなったことで映画づくりが身近なものとなり、フィルム撮影ほどのコストと専門的な技術を要しなくなったこと、観客のニーズが多様化したことなどが主な要因でしょう。昨年もまた、素晴らしい映画の数々に出会いました。執筆者のベスト10を発表します。ことしも素晴らしい年でありますように。(健)

注記:原則として2017年1~12月に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには原題、監督、製作年・製作国を入れた。日本公開題名・人名表記はキネマ旬報映画データベース、外国映画の原題・製作年・製作国はInternet Movie Database に従った。

◆久

【日本映画】
1位「三度目の殺人」(是枝裕和)
真犯人は誰なのかというモヤモヤした疑問が最後まで続いたが、犯罪の背景や死刑制度など、いろいろ考えさせられた。
2位「エルネスト」(阪本順治)
ゲバラが主人公ではないけれど、映画冒頭のゲバラの広島訪問のエピソードが心に残ったので…。
3位「幼な子われらに生まれ」(三島有紀子)
離婚が増え、子連れ再婚も増えてきて、血の繋がらない家族が暮らす難しさや、家族それぞれの心情に納得。
4位「火花」(板尾創路)
東京進出に夢を懸けるお笑い芸人の夢と挫折を、菅田将睴と桐谷健太の熱演で面白く、しんみりと観た。
5位「標的の島 風かたか」(三上智恵)
つい最近も小学校の校庭に米軍ヘリから窓が落下する事故があったばかり。基地の島“沖縄”を撮り続ける三上監督の怒りと情熱に敬意を表して。
※2017年も日本映画の鑑賞本数はやっぱり少なかったので、上記のとおりベスト5を選んだ。


【外国映画】
1位「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(Eye in the Sky、ギャヴィン・フッド、 2015年イギリス・南ア)
上半期にベスト1に選びそのまま、年間を通してもベスト1に選んだ。戦場から遠く離れた会議室でドローンから送られてくる映像に葛藤する軍や政府の高官たちの姿はやはり滑稽だ。
2位「わたしはダニエル・ブレイク」(I, Daniel Blake、ケン・ローチ、2016年イギリス・フランス・ベルギー)
常に社会的弱者の立場に立った映画を製作するケン・ローチ監督の作品が好きである。病気で失業してしまったダニエル・ブレイクにそそぐ温かい眼差しがよかった。
3位「ローサは密告された」(Ma' Rosa、ブリランテ・メンドーサ、2016年フィリピン)
マニラのスラム街で雑貨屋を営むローサは麻薬の密売を密告され、警察に逮捕される。しかし、押収麻薬の横流しや密売人の恐喝などなど、警察の腐敗が逆に恐ろしい。
4位「女神の見えざる手」(Miss Sloane、ジョン・マッデン、2016年フランス・アメリカ)
ラスベガスで銃乱射事件が起きて間無しに観たので、アメリカで進まない銃規制問題を扱った映画の進展に引きこまれた。
5位「否定と肯定」(Denial、ミック・ジャクソン、2016年イギリス・アメリカ)
相変わらず繰り返されるホロコーストの否定。でも大っぴらに否定する輩より、“FAKE”を見抜けない人々、同調する人々とどう向き合うべきかの方が難しい。
6位「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」(The Zookeeper's Wife、ニキ・カーロ、2017年チェコ・イギリス・アメリカ)
ナチスドイツからユダヤ人を救ったのは、シンドラーや杉原千畝だけではなかった。ナチ占領下のポーランドのワルシャワ動物園の園長夫妻やその仲間の勇気ある行動が描かれているが、こういう映画が作り続けられていることに感動する。
7位「婚約者の友人」(Frantz、フランソワ・オゾン、2016年フランス・ドイツ)
オゾン監督の作品はいつもドキドキしながら観てしまうが、今回もヒロインと婚約者の友人という男がどういう関係になっていくのかと思っていたら期待通り、ありふれた結末でなく嬉しくなった。
8位「タレンタイム 優しい歌」(Talentime、ヤスミン・アフマド、2009年マレーシア)
多様な民族や宗教の違う人々が暮らすマレーシア社会。そんな中でいろいろな問題を抱えながら生きる3人の若者の愛と友情のストーリーが爽やかだった。
9位「ヒトラーの忘れもの」(Under sandet、マーチン・サントフルート、2015年デンマーク・ドイツ)
第2次大戦後、戦争中にナチスがデンマークの海岸線に埋めた地雷撤去作業に、捕虜となったドイツ人少年兵たちが駆り出されたという事実に驚きと怒りを感じる。しかし、戦争の犠牲は様々な形をとって人々を苦しめるものだとつくづく思う。
10位「ムーンライト」(Moonlight、バリー・ジェンキンス、2016年アメリカ)
アメリカ南部で黒人、ホモセクシュアルという最も攻撃の対象となる存在だった主人公が選んだ生き方がやるせない。ベスト10ぎりぎりに残すことができた。

【プロフィール】病気でしばらくお休みしていましたが、ようやく復帰できました。どちらかと言えばいわゆるアート系の作品の方が好きなのと、シネコンではなかなか見られない世界各地の映画が上映される京都シネマが、私のお気に入りの映画館です。



◆HIRO

【日本映画】
1位「三度目の殺人」
容疑者は本当に殺人を犯したのか。真実は最後まで画面に出てこない。しかし、全編にいろんな伏線がちりばめられ、観客は否応なしに想像力を掻き立てられる。映画にのめりこむとはこういうこと。
2位「エルネスト」
キューバの英雄ゲバラに魅入られた日本人がいたことを初めて知った。最後はボリビアで志半ばであえなく殺されてしまうのは何ともいたたまれないが、キューバで一緒に学んだ本物の学友たちが花を手向けるところで涙。
3位「人生フルーツ」(伏原健之)
年をとったらこんな風に生きてみたいと思わずにはいられない。夫婦で仲良くいろんなものを育て、収穫する。そのすべてが喜びに繋がっていることが、人生を楽しくしてくれると教えてくれる。
4位「三月のライオン」前後編(大友啓史)
2017年は藤井四段の大活躍で、全国民から注目を浴びた将棋界。映画もグッドタイミングの公開となったのだが、やはり対局は本物のほうが面白い?!
5位「君の膵臓がたべたい」(月川翔)
彦根城の入場者が2017年はグンと増加したとか。少しはこの作品が貢献したのも間違いないだろう。実写映画では2017年度観客動員数ベスト2に入った。彦根城も、豊郷小学校も、俳優たちも、ストーリーも、みんな綺麗。
6位「DESTINY 鎌倉ものがたり」(山崎貴)
医院の待合室で見かけた「漫画アクション」に連載されていた西岸良平の原作漫画。そのほのぼのした雰囲気がうまく映像化されていた。高畑充希はTVドラマ「過保護のカホコ」のカホコから抜け出ていないような気もしたが…。
7位「家族はつらいよ2」(山田洋次)
くすくす笑いながらも、少子高齢化社会のひずみを考えさせてくれるのは、さすが社会派山田監督。第3弾の製作も確定したようで楽しみだ。
8位「ミックス。」(石川淳一)
卓球の楽しさを思い出させてくれた嬉しい作品。出演者たちも練習の成果がしっかり出ていた。
番外「この世界の片隅に」(片渕須直)
2016年11月公開作品だが、1月に初見。超ロングランヒットとなったのも頷ける、誰もが見たくなる良心的な作品。原爆の恐ろしさ、戦争のはかなさ、そして生きることの大切さをしみじみ訴えかける。
番外「湯を沸かすほどの熱い愛」(中野量太)
この作品も2016年公開だが、多くの賞を受賞したおかげで見る機会を得る。宮沢りえがとにかくいい。ラストで銭湯の煙突から出てきた煙が赤かったのは非現実的だが、非常に印象に残った。


【外国映画】
1位「ムーンライト」
やっぱりこの作品がアカデミー賞!!と納得。月の光は確かに明るくはないけれど、太陽の光を受けて淡く妖しく美しい。様々な差別を味わい、ストイックに生きてきた主人公が最後に報われるところでグッと来た!!
2位「ベイビー・ドライバー」(Baby driver、エドガー・ライト、2017年アメリカ)
イケてる音楽とカーアクションが見事にコラボ!!エドガー・ライト監督の才覚を肌に感じる。アンセル・エルゴートの新鮮演技に加え、悪の脇役にケヴィン・スペイシーを配したのも監督のセンスの表れ。
3位「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(Manchester by the Sea、ケネス・ロナーガン、2016年アメリカ)
つらい過去を背負った主人公を演じたケイシー・アフレックを、思わず支えてあげたいとおもえてくる。この演技でアカデミー賞主演男優賞を受賞。舞台の港町(マンチェスター・バイ・ザ・シー)の鄙びた風景もグッド。
4位「ブレードランナー2049」(Blade Runner 2049、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、2017年アメリカ・香港・ハンガリー・カナダ)
今回もまた救われるのは人間。人間が生み出したレプリカントの悲哀を斬新な映像とともに観客に投げかける。30年後は土で育った新鮮な野菜なんて、確かにないんだろうなあ。
5位「パターソン」(Paterson、ジム・ジャームッシュ、2016年アメリカ・フランス・ドイツ)
バスの運転手をしている詩人の1週間の日常を描いた、往年のジム・ジャームッシュ監督作品を思い出させる愛すべき作品。永瀬正敏が最後の1日に登場して、詩を書くことの意味を教えてくれる。
6位「ラ・ラ・ランド」(La La Land、デイミアン・チャゼル、2016年米・香港) 
夢の国LA LA Land を目指す若者たち。冒頭の高速道路での新感覚の歌と踊りから、往年のハリウッドミュージカルの世界へ!弾む心の中に「もしあの時…」と、自分の青春時代の苦い思い出をほろりと思い出させる演出が何ともニクイ。
7位「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン」(Dancer、スティーヴン・カンター、2016年イギリス)
バレエに特別関心はなかったのだが、劇場に張られたポスターに魅了されて入場。セルゲイ・ポルーニンというダンサーについて詳しく知ることとなった。名声を得た後、幼い時に通ったバレエ学校の先生との再会場面が感動的。
8位「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」(Star wars/The last Jedi、ライアン・ジョンソン、2017年アメリカ)
待ってました!!残るはあと1作のみ!完結編を前に40年前に公開された第1作「エピソード4/新たなる希望」で活躍したマーク・ハミル、キャリー・フィッシャーが、最後の力を振り絞っての大熱演。この40年を一緒に生きてきたファンたちを魅了する。
9位「ダンケルク」(Dunkirk、クリストファー・ノーラン、2017年英・オランダ・仏・米)
第二次世界大戦で、連合軍が苦戦したのがこのダンケルクの戦いだったそうだが、陸海空の3つの場面で展開していくエピソードを徐々に1点に集中させていく演出が出色。英仏両軍の葛藤場面が面白い。
10位「わたしは、ダニエル・ブレイク」
イギリスの年金制度のことが少しわかった。日本同様、厳しい規制、条件があって、なかなか『ゆりかごから墓場まで』とはいかないようだ。自分のことはさしおいて、偶然知り合った母子に優しく手を差し伸べるダニエル。こんな爺さんになれたら…。
番外「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(Rogue one、ギャレス・エドワーズ、2016年アメリカ)
昨年のお正月作品。スター・ウォーズの3と4のエピソードを繋ぐこんな感動的な裏話があったのかと、思わず身を乗り出して見てしまった。この作品で活躍するメンバーは、最後には使命を果たしてほとんどいなくなってしまうのだが、スピンオフの作品としてはこうなるのが定石?!

【プロフィール】
滋賀県長浜市在住。現在地元の「まちづくりセンター」に勤務しております。近くに映画館がないうえ、仕事の関係で休みがとりにくく、なかなか好きな映画を見に行けないのが悩みの種。そろそろ自由の身になって、思う存分映画を見たいところなのですが…。




◆kenya

【日本映画】
1位「映画 夜空はいつでも最高密度の青空だ」(石井裕也)
主演の石田静河が良かった。漠然とだが、自分と世間にイライラを募らせながらも、生きていかなくてはいけない不条理感、やるせなさを身体全体で表現して、彼女のおかげで、この映画が成り立っている。池松壮亮を凌ぐ圧倒的な演技だと思った。今年の新人賞候補かな。
2位「本能寺ホテル」(鈴木雅之)
想像より、面白かったので2位にした。京都が舞台でもあるし、綾瀬はるかが抜群に可愛かった。「海街diary」と違う面が観られた。
3位「追憶」(降旗康男)
降旗監督と佐藤大作撮影による、「ザ・昭和映画」で、安定感に対して3位にランクイン。岡田准一の演技は真面目過ぎて、疲れたけど・・・。
4位「恋妻家宮本」(遊河和彦)
全編軽いタッチだが、セリフがよく考えられていて、心に響く部分(共感?)する場面が多かった。
5位「家族はつらいよ2」
教科書通りで、映画製作を目指す人は、お手本とすべき映画では。橋爪功の息子の事件があって、パート3は出来るかな?(余計な心配?)でも、実生活でも「家族はつらいよ」
6位「アウトレイジ 最終章」(北野武)
第3作目の完結編。舞台はヤクザの世界だが、描いている根本は人間社会そのもの。北野武の人情味を感じた。塩見三省さんの次回作に期待。
7位「彼女がその名を知らない鳥たち」(白石和彌)
珍しい男性向け恋愛映画と思う。俳優陣も生き生きと演じていて、惹き付けられた。

【外国映画】
1位「ムーンライト」
昨年・一昨年の白人優位のアカデミー賞、そして、今年のアカデミー賞のハプニングに至るまで、年度を跨ぐ演出なのか?中々、スポットライトが当たりにくいテーマを扱う複雑な映画がアカデミー賞を受賞した。歴史的快挙かもしれない。主人公二人が、久し振りの再会をするシーンや、ラストシーンが忘れられない。
2位「マンチェスター・バイ・ザ・シー
とても地味だが、生きていく勇気・希望・覚悟を与えてくれる映画だと思う。主人公のケーシー・アフレックがアカデミー賞主演男優賞を獲得したが、助演女優賞候補になったミシェル・ウィリアムズもとても良かった。
3位「LION/ライオン~25年目のただいま~」(Lion、ガース・ディヴィス、2016年英・オーストラリア・米)
親が子供の誕生をどれだけ嬉しく迎え入れたのか。ラストにテロップで、生みの親が付けた「サルー」という名前の意味が明かされる。涙なしでは観られない。
4位「ブレードランナー2049」
35年前の「ブレードランナー」を初めて観た時は、「こんな映画があったのか!」と圧倒された記憶がある。その続編で、製作側はかなりのプレッシャーがあっただろう。前作に引き続き、世界観に魅了された時間を過ごした。実際の2049年はどんな世界なのか?
5位「メッセージ」(Arrival、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、2016年アメリカ)
最近、AIや人工知能がよく話題に挙がる。この映画は、人間本来の「生」や「知能」に対する警鐘なのか。監督の次作「ブレードランナー2049」にも通じる作品である。今年も、ヴィルヌーブ監督に脱帽。次回は「砂の惑星」の続編だとか。楽しみである。
6位「ラ・ラ・ランド」  
私は、ミュージカルは苦手だが、音楽が最高に良かった。今でも思い出し、身体が動き出す。アカデミー賞主演女優賞受賞のエマ・ストーンはもちろん良かったが、ライアン・ゴズリングが最後までしっくりこなかった。
7位「バイオハザード ザ・ファイナル」(Resident Evil:The Final Chapter ポール・W・S・アンダーソン、 2017年英・仏・米・独ほか)
ミラ・ジョヴォヴィッチのはまり役だと思って、シリーズは全部観ている。シリーズ物の特徴で、ゾンビの数がどんどん増えているような気がする。「ファイナル」ということだが、無理矢理でも、続編を期待する。
8位「バーニング・オーシャン」(Deepwater Horizon、ピーター・バーグ、 2016年米・香港)
2010年に起きたメキシコ湾沖の石油掘削施設内の事故現場を舞台に繰り広げられる人間模様。大きな組織の論理と現場の人間との葛藤を描く。つい先日、日本でも、同様の事故が発生した。他人事ではない感じがする。
9位「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」(The Founder、ジョン・リー・ハンコック、2016年アメリカ)
会社の「創業の理念」というものは、世界のどの会社も、純粋で無垢な精神で出来上がっているものと思い込んでいたが、「マクドナルド」はそうでは無かった。印象が変わってしまった。
10位「こころに剣士を」(Miekkailija、クラウス・ハロ、2015年フィンランド・エストニア・独) 
小粒な映画だが、人間の成長をじっくりと捉えた作品で、寒い国が舞台だが、心温まる映画であった。

【プロフィール】
京都市西京区在住の47才会社員のkenyaです。中学生の頃に、アイドル映画に夢中になったことから、映画の世界に魅了されるようになりました。学生時代や独身時代は、時間があれば、映画館に通いましたが、今は、中々そこまで時間が取れず、見逃す機会が多く、フラストレーションが溜まる一方です。ハリウッド大作からマイナー作品まで、幅広く観ますが、特に、サスペンスやスリラーが好きです。映画を観た感動を、少しでも伝えられたら幸いです。



◆アロママ

【日本映画】
1位「三度目の殺人」
今年は役所広司の圧倒的な演技力を堪能できた。「関ケ原」でも、嫌らしさ全開の家康役で、主演の岡准を吹っ飛ばした感がある。是枝監督の新しい分野への挑戦がうれしい。
2位「しゃぼん玉」(東伸児  2016)
市原悦子に「坊はよい子」と頭をなでらたくなる。林遣都の目の演技が良かった。日本の現風景を堪能できた。
3位「3月のライオン前後編」
神木隆之介君の代表作になるかな。我が双子と同じ日の誕生日ということもあって、応援の気持ちを込めて。前編と後編で大きく成長した主人公の背中が頼もしい。加瀬亮の透明感にしびれる。将棋はわからないが、迫力ある対局シーンに緊張した。
4位「ナラタージュ」(行定勲)
有村架純も今年の成長株、これからがとても楽しみな役者さん。「関ケ原」では良さが発揮されないままだったが、高校生の初々しさからしっとりした大人の女性への成長を見せてくれた。切ない表情に胸がときめく、そんな自分自身にも驚いたし、珍しく2回も見た。
5位「ビジランテ」(入江悠)  
同じ監督で2本めを見た。圧倒的な迫力、圧力を感じた。地方の矛盾も噴き出ていて、今年の作品では一番重い。桐谷健太の代表作かと。「火花」も良かったが、本作は熱量を感じた。
6位「君の膵臓を食べたい」
若い世代を演じた二人だけでも十分だった。タイトルの異様さにしり込みしたけれど、原作が良かったのと、滋賀が撮影舞台とあって、鑑賞。期待しなかった分、心に残った。
7位「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(廣木隆一)  
全てがつながったときに、ああそうだったんだ!と、ホッとした。まさに奇跡の話し。尾野真千子が時代をわたって、彼女と気づかせないでの熱演。贅沢な役者陣の共演を見る。
8位「22年目の告白」(入江悠)
テレビドラマ「リバース」とうって変わっての藤原達也を見たくて。ストーリーに無理やり感はあったけれど、退屈させない。大衆心理の危うさをうまく描いていたと思うし、そら恐ろしさを感じた。
9位「デスティニー 鎌倉ものがたり」(山崎貴)
CG多用の作品は実は苦手だけれど、さすがにきれいな映像。前半がちょっと長すぎたかな。田中泯さんの貧乏神の可愛らしさが新鮮。
10位「泥棒役者」(西田征史)
舞台を見ているような、こじんまりした話。市村正親、ユースケ・サンタマリア、ベテラン脇役に支えられて、主人公の人の良さがにじみ出てる、ほのぼのとした作品。拾い物をした気分だった。


【外国映画】
1位「オリエント急行殺人事件」(Murder on the Orient Express、ケネス・ブラナー、2017年米・英・マルタ・カナダ) 
有名作品のリメイクに果敢に挑戦しつづけているのはすばらしい。名優たちの競演と、65ミリフィルムを使っての撮影は見ごたえあった。謎解きはわかりにくかったかも。監督のお茶目さや、ファンにはたまらない仕掛けがいっぱい。M・ファイファーの若々しい歌声も良かった。英語が苦手なので、歌詞の内容をしっかり知りたい。
2位「ダンケルク」(Dunkirk、クリストファー・ノーラン、2017年英・オランダ・仏・米)
「インセプション」など時間軸と空間軸を操るのが得意な監督らしい作品。船のきしむ音や波の音、そして飛行機の爆音、実写の迫力、緊張感のある展開。海と空の映像はこれが戦争映画であることを一瞬忘れるくらいに美しい。そして、敵軍を描かない、70年たって今一度敵感情を掘り起こすことなく、しかし、戦争の愚かさを描いている。
3位「否定と肯定」
日本でも同様のことがいっぱいあり、よそ事ではない。歴史から何を学ぶかを問われている。レイチェル・ワイズの「スターリングラード」、ジュード・ロウとの極限でのラブシーンは忘れられない。今作はきりっとした学者役が似合っている。原作者の当時の衣装を使って。その気持ちも引き継いでの演技に感銘する。
4位「未来を花束にして」(Suffragette、セーラ・ガヴロン、2015年イギリス)
20世紀初頭のイギリスの女性参政権運動。名もない女性たちの大きな犠牲の上に、今の参政権があることを若い人たちは忘れないでほしい。当時の活動を弾圧する首相だった曽祖父をもつというヘレナの、この作品に対する思いの強さを知って、ますますファンになった。
5位「沈黙 -サイレンス-」(Silence、マーティン・スコセッシ、2016年メキシコ・台湾・米)       
信仰をもたない人間にとって、改めて宗教とは何なのかと考えさせる。イエズス会が背景にあるヨーロッパ諸国の経済的野望に思いをはせると、宗教のベールに包まれたきれいごとだけではない事実も思い起こしたい。音の使い方が秀逸。無音と効果音のメリハリが素晴らしかった。音楽が邪魔をすることの多い邦画は見習うべき。
6.「LION/ライオン~25年目のただいま~」
ニコール・キッドマンが最近とてもいい。この日、モナコ公妃グレースケリー展を見ながら、キッドマンの映画を思い出し、あの時の美しさと、今回は老け役も違和感を感じさせず、深くて大きな母性を演じていた。ラストでタイトルの意味を知り、思わずうなってしまう。
7.「ラ・ラ・ランド」   
ミュージカルの楽しさと、過去の名画へのオマージュが重なり、これぞ映画!を実感させてくれる。「セッション」の監督とは思えない、ふり幅の大きさ。アカデミー賞は残念だったけれど、「ムーンライト」が受賞したのはトランプ大統領就任という年だからこその配慮だったのかもと、ムーンライトを見ながら深読み。
8位「素晴らしきかな、人生」(Collateral Beauty、デビッド・フランケル、2016年アメリカ)   
ウィル・スミスの静かな演技は初めて見た気がする。ケイト・ウィンスレット、ヘレンミレン、キーラ・ナイトレイなど、大好きな女優さんの競演もうれしかった。個人的には大事な人を見送った後だけに、じんわりくる。邦題がなあ・・・・・「幸せのおまけ」が原題だそう。興行的にはあまり芳しくなかったようだけれど、私は好きな作品。
9位「美女と野獣」(Beauty and the Beast、ビル・コンドン、2017年アメリカ)
実写版「シンデレラ」にはかなわないけど、音楽も良かったし、吹き替え版も字幕版も楽しめた。エマ・ワトソンとエマ・トンプソン、そして「ララランド」のエマ・ストーン。3世代のエマの活躍が見られた。
10位「こころに剣士を」    
体制の激動の中で家族を奪われ、希望も失いそうななか、主人公とフェンシングに出会って、生き生きしてくる子どもたちの表情が素晴らしい。まだまだ世界で起こっていること、「かつて」だけでなく、今現在起こっていることも「知らない」で済ませちゃいけないと思えた。

【プロフィール】
はじめまして。今年から参加させていただきます。お気楽なノリで書かせてもらいます。みなさん、よろしくお願いいたします。
滋賀県湖北地方在住。深刻な重い映画を観て、その世界に同調することでストレス解消をはかるのが得意。ケネス・ブラナーとケイト・ウィンスレット、ケイト・ブランシェットが好き。日本では役所広司、原田美枝子、宮本信子、宮沢りえ。若い俳優では神木隆之介、志田未来、有村架純に期待しています。
苦手なジャンルはホラーとSF、こてこての青春物。映画館が近くにないことがたまらなく苦痛。
「見たい映画のためなら寸暇を惜しまず!」をモットーに、今年もたくさん楽しく見ていきたいです。




◆健

【日本映画】
1位「愚行録」(石川慶)
石川監督は今後が楽しみな逸材だ。自主映画出身とは感じさせない正攻法の演出、どっしりと安定した画面づくり、映画的スリル、これらはいずれも一流だ。
2位「三度目の殺人」
ミステリ映画としてもおもしろいし、人間の倫理や生き方、業といった観点から見ても興味尽きない秀作である。役所広司が抑制の利いた演技で、ささやくように話すのが臨場感を出してよかった。
3位「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」
一編の詩からインスピレーションを得て創造された今どきの若い男女の関係が危うくもいとおしい。とにかく見て欲しい。みごとだ。
4位「彼女の人生は間違いじゃない」(廣木隆一)
原発事故で漁師の仕事を奪われ腑抜けのようになった父親は毎日補償金でパチンコ通い。役場に勤める娘は週末になると夜行バスに乗って都心へ風俗のバイトに出かける。震災の後遺症を引きずる人々の痛ましい日常を描いてむしろ清清しい。
5位「幼な子われらに生まれ」
女性の監督には二つのタイプがあって、とても女性とは思えない男性的な作風の人と女性らしさや母性を感じさせる人。キャスリン・ビグローや西川美和が前者だとすれば、三島有紀子は明らかに後者の人だ。
6位「彼女がその名を知らない鳥たち」
ジャンル映画として見れば、ある意味で鮮やかなどんでん返しともいえるミステリだが、普通映画として見ても人間の内に潜む善と悪をあぶりだしておもしろい。
7位「帝一の國」(永井聡)
最初から最後まで飛ばしっぱなしの痛快な学園もの。生徒会長選挙をめぐるかけ引きや策略、友情がおもしろおかしく描かれ、今をときめく菅田将暉が暴走する。そうして、最近売り出し中の竹内涼真もいい。
8位「光」(大森立嗣)
幼なじみ三人の三すくみの支配関係が宿命のような悲劇を呼ぶ。幼少時に被虐体験をもつタスクが歓喜の表情で兄貴のように慕うノブユキによって殺される場面は衝撃的だ。
9位「光」(河瀬直美)
河瀬直美らしい実験的精神にあふれた異色作である。「あん」の非の打ちどころのない安定したオーソドックスなつくりよりも私はこちらの野心を買いたい。視覚障害者のための映画用音声ガイドを作る珍しい職種を扱った。
10位「家族はつらいよ2」
これはもう名人芸の域に達した山田洋次の熟練のなせるワザである。正編よりも的を絞った家族の一大事がおかしい。その笑いにもまた芸術院会員としての風格が漂う。


【外国映画】
1位「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」
テロリストの隠れ家にミサイルを撃ち込む英米共同作戦が、その家の前で突然パンを売り始めるいたいけな少女の出現で中断され、断行派と中止派が議論を尽くす過程をスリリングに描いて見事だった。
2位「パターソン」
ジャームッシュのいかなる技巧やケレンミも用いないこの自然なスタイルが、ほとんど奇跡としか言いようのない詩的世界を紡ぎだした。脱帽するしかない。
3位「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
人生とは時に残酷な救いのない仕打ちを強いるのだが、それでも人は前を向いて歯を食いしばって生きて行くしかないと、この映画は一見絶望ともとれる描写の裏で、そういうエールを送っているように感じた。
4位「ブレードランナー2049」
リドリー・スコットのカルト映画の続編として作られたにもかかわらず、私はこちらの方が数倍好きだ。「瞼の母」ならぬ「瞼の父」の物語だ。
5位「立ち去った女」(Ang babaeng humayo、ラヴ・ディアス、2016年フィリピン)
4時間になんなんとする長丁場をワンシ-ン・ワンカットの、しかも殆ど固定されたキャメラのロングショットで風景を眺めるような、遅々として進まない描写がむしろ見る者を圧倒してやまない、この底力は何だろう。ヴェネチア金賞の秀作である。
6位「女神の見えざる手」
銃規制法案を成立させようという側と否決に持ち込もうという勢力がそれぞれにコンサルを雇って熾烈な闘いに挑む。まんまと一杯食わされました。
7位「セールスマン」(Forushande、アスガル・ファルハーディー、2016年イラン・フランス)
旧態依然とした倫理感に縛られたイスラム社会。そこでは強姦の被害者が責めを負わされ社会から蔑まれ、苦しまなければならない現実がある。かくいう日本もまた強姦罪がつい昨日まで親告罪であった事実を思い返したい。同じ発想である。
8位「婚約者の友人」
このハラハラドキドキ感は半端ではない。さんざん観客をじらして、イマジネーションを刺激しておきながら、ごくささやかな嘘に収束させてしまう手法は鮮やかだ。みごとにはぐらかされた。
9位「お嬢さん」(パク・チャヌク、2016年韓国)
イギリスの名作ミステリを換骨奪胎して舞台を日本統治下の朝鮮半島に置く。韓国の俳優が四文字言葉を日本語で連発するおかしさ。母国語を奪って日本語を強制した恥ずべき歴史を忘却してはならない。
10位「ノクターナル・アニマルズ」(Nocturnal Animals、トム・フォード、2016年アメリカ)
トム・フォードはガラス細工のような心理的サスペンスを得意とする。神経症的な作家志望のダメ男がしっかり者の前妻に復讐するかのように送りつけた後味の悪い風変わりな小説を主題として、物語は深い闇の淵からただひたすら落ちて行くようだ。

【プロフィール】
フェデリコ・フェリーニと淀川長治さんを何よりも尊敬し、ヒッチコックとワイルダーが大好きな還暦を過ぎたオヤジです。年末に見た「リュミエール!」の中で引用されるラオール・ウォルシュの言葉「カメラの位置は1カ所である」に共感した。カメラ・ポジションは必然でなければならないという極意だ。宮崎駿曰く「映画のおもしろさはストーリーではなく、すごいと思わせるワン・ショットだ」。うーん、映画は奥深い。映画と格闘する毎日です。