シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ミュージアム」(2016年 日本映画)

2016年11月21日 | 映画の感想・批評
 劇場型の連続猟奇殺人事件をテーマとしたサイコ・サスペンスである。したがって、ロマンチックな映画がお好きな向きには決してお薦めできないけれど、筆者のようにミステリやスリラー、ホラーが大好きな方にはご覧頂きたい作品だ。
 冒頭、いきなり女性が縛られたまま猛犬に食い殺されるという残忍な事件が発生する。続いては、引きこもりのオタク男が顔面をそぎ落とされて殺される。こうして次々と猟奇的な殺人が繰り返され、沢村刑事(小栗旬)が若い刑事(野村周平)と事件を担当するが、沢村の妻(尾野真千子)は幼な子の誕生日も忘れるほど仕事に没頭する夫に愛想を尽かして家を出てしまう。未見の方にはこれ以上申し上げられないのだけれど、妻の出奔が後々重要な伏線となって事件を新たな方向に向かわせ、沢村たちをとんでもない悲劇に陥れることとなる。殺された被害者には共通項が存在し、起承転結の起の部分は所謂ミッシング・リンク(解明されないつながり)を発見するところから始まる。
 既に報道されていることなので、後半当たりから顔を露わにする犯人が妻夫木聡であることは割っていいだろう。このキャラクターは明らかにハリウッド映画の影響であり、あまり日本映画には登場しない典型的なサイコ・キラーである。本当にこれが妻夫木かと思わせる狂気を秘めたキャラの造型には恐れ入る。ほとんど「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターだ。筆者は予告編でカエルのお面をつけた殺人鬼が登場する場面を見て「デスノート」のような超現実的ホラーかと誤解し、すっかり興ざめしたのだが、そうではないまともな犯罪映画だと聞いて改めて見に行く気になり、納得した。
 NHKドラマ「ハゲタカ」の演出で名をなした人だけに、大友啓史監督は歯切れのいい場面転換で飽きさせない。刑事が地道な聞き込みの積み重ねで犯人を追いつめて行くあたりは日本映画伝統の刑事もののリアリズムとして丁寧に作っているし、クライマックスとなる沢村vs犯人の鬼気迫る対決場面もよくできていると思った。(健)

監督:大友啓史
原作:巴亮介
脚本:高橋泉、藤井清美、大友啓史
撮影:山本英夫
出演:小栗旬、妻夫木聡、尾野真千子、野村周平、松重豊、田畑智子

「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年 日本映画)

2016年11月11日 | 映画の感想・批評


 余命2か月と宣告されたシングルマザー(旦那が蒸発したので戸籍はある?)宮沢りえ扮する主人公が、死を迎えるまでにやらなくてはならないことを、「熱く強く」実行していく勇気溢れる物語である。
 風呂屋を営んでいた蒸発しただらしない旦那(興信所に依頼して見つけたら腹違いの子供までいた)、高校生の娘が学校で抱えるいじめ、自身の身体への不安等、次々と災難事が続けさまに起こるが、自分の命に期限があることが分かっているので、勇気を振り絞って、風呂屋を再開させ、家族を一つに纏めていく。この力強さには圧倒される。
 後半は、もっと複雑で難解な展開になるが、諦めずに実行していくのである。こんなに勇気のある人はいるのだろうか。そして、これ程、愛される人そして、人を愛する人がいるのだろうか。粘り強く、人に向き合い、自分の想いを言葉にし、そして、ある時は怒りをぶちまけ、「生きる」のである。病気で足元がふらつくが、「地に足を付けて生きている」のである。濃縮された2か月である。
 我が家のルール(劇中何度か出てくる)(ちなみに、そのルールとは特別な日はすきやきを食べること)も心が温まるエピソードであった。ある場面では、朝食までもすきやきだった。旦那のセリフ「朝からすきやきも良いね」も良かった。家族の気持ちがうまく表現されている。それを実行するのが主人公の強さでもあり、優しさなんのでしょうね。
 全編を通して優しさが溢れる映画だ。病院で「死にたくない」と涙する主人公。自分が死を迎える時にどう思うだろうか。幸せな死を迎えられるのだろうか。ラストシーンも驚かせながらも、題名に絡めた特に優しさに溢れるシーンだった。思いっきり泣きたい人には是非お薦めしたい。
(kenya)

監督・脚本:中野量太
撮影:池内義浩
編集・題字:高良真秀
出演:宮沢りえ、杉咲花、オダギリジョー、松坂桃季、伊東蒼、駿河太郎他

「何者」(2016年 日本映画)

2016年11月01日 | 映画の感想・批評


 ガラケーからスマホに変えてほぼ1年。やっと使い方も少しずつ分かってきて、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)とやらも何とか使えるようになってきた。最近このSNSが何かと話題になっている。例えばあと数日後(11月8日)に迫った米大統領選。ここでも既存のメディアを通さず、有権者に直接メッセージを伝えられるとして、選挙を知るうえで最も参考になる手段に選ばれたのがSNSだ。しかし、お互いのけなし合いともとれる投稿にうんざりしている人も多いのは確か。このSNS,使い方によってせっかく繋がりができた相手を傷つけてしまうこともあるから注意が必要だ。
 デビュー作「桐島、部活やめるってよ」で等身大の高校生を描き、小説すばる新人賞を受賞したかと思ったら、今度は「何者」で直木賞を受賞と、若手作家のエースの名をほしいままにしている朝井リョウ。その原作を、大学時代から「劇団ポツドール」を主宰し、センセーショナルな作風で演劇界の話題をさらっている鬼才・三浦大輔が映画化。
 「何者」に描かれている大きなテーマの一つは就活問題だ。近年の厳しい状況はよく知られ、そこで起きている出来事はいずれも人間の本質・心の奥底を描くには格好の材料。しかし、三浦監督はあえて登場人物の本心をあからさまに語らせない手段をとった。モザイクをかけ、行動だけ見ると何を考えているのかわからないように・・・。そしてお互いが相手の気持ちを探り合う中で登場するのが前述のSNSである。SNSの中で自分の本心を延々と綴っていた内容が暴露された時の衝撃。でもこれって、本音だよね。わかるよ、その気持ち。自分を着飾り、本音を隠して生きていかなければならない現実。しかし最後にその呪縛を乗り越え、何もかも吹っ切れた中で、自分を取り戻した主人公に「何者」かになれる希望の光を見た。
 主人公の拓人を演じた佐藤健をはじめ、有村架純、菅田将輝、二階堂ふみ等、就活でライバルとなる登場人物に扮する若手実力俳優の演技合戦も見もの。
(HIRO)

監督:三浦大輔
脚本:三浦大輔
原作:朝井リョウ
撮影:相馬大輔
音楽:中田ヤスタカ
出演:佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之