シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

2016年度上半期ベスト5発表

2016年07月21日 | BEST
 恒例により当ブログ執筆者による2016年度上半期ベスト5の発表です。各自のベスト5を参考に今後の鑑賞ガイドとしてください。併せて執筆者のプロフィール(①好きなジャンル、②苦手なジャンル、③好きな監督、④好きな女優、⑤好きな男優、⑥オールタイムでお薦め作品この1本、⑦その他何でも自己PR)を掲載しました。(健)

注記:2016年1~6月に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには原題、監督、製作年・製作国を入れた。タイトル、人名表記はキネマ旬報データベースに従った。


◆Hiro
【日本映画】今年は本当に見ていない!!見たい!と思う作品が少ないのか、それとも映画を観る意欲が薄れてきているのか…。何とか5本を選びました。

1位「ヒメアノ~ル」(吉田恵輔)
ムロツヨシのちょっと危ない先輩ぶりが最初から目に留まるが、それ以上に危ない旧友がいて、お人よしの濱田君が振り回される。期待以上の怖さにKnock out!!
2位「64-ロクヨンー前編」(瀬々敬久)
佐藤浩市をはじめ、オールスターキャストの演技合戦を見ているだけで面白い。新聞記事のようなレイアウトのパンフレットも出色。で、後編はどうなの???
3位「母と暮せば」(山田洋次)
戦後70年記念作品。吉永小百合は確か昭和20年生まれのはずだけど・・・。まだ十分「母」役でいけるなんて、ある意味すごい。広島を訪れたオバマ大統領、今度は長崎もお忘れなく。
4位「海難1890」(田中光敏)
日本とトルコって、こんなに仲がいいんですよ!!人種や国、宗教などで争うなんて、人間が本来求むべき姿ではないはず。さて、「イスラム国」を名乗る人たちと仲良くするにはどうすればいいのだ???
5位「の・ようなもの のようなもの」(杉山泰一)
森田芳光監督デビュー作へのオマージュ。35年たっても変わらぬ思いを、森田作品を支えたスタッフたちが集結してほんわか~とお届け。松山ケンイチ、北川景子もいい味出している。


【外国映画】いろいろなジャンルの作品が並びました。さすがに外国映画はバラエティに富んでいます。こちらは満足。

1位「サウルの息子」(Saul fia、ネメシュ・ラースロー、2015年ハンガリー)
初めて知ったゾンダーコマンドのこと、一生忘れられない映像の数々。戦後70年たった今、映画で描かれることの深い意義を感じた。
2位「ズートピア」(Zuutopia、バイロン・ハワード&リッチ・ムーア、2016年アメリカ)
先日テレビでナマケモノがリスに餌を横取りされるところを紹介していた。あのスピードはホントだったんですね。出てくる動物をしっかり研究してキャラに生かしています。
3位「ルーム」(Room、レニー・アブラハムソン、2015年アイルランド・カナダ)
7年間『部屋』で暮らしていた母子が、脱出したその先にあるものは??「こんにちは」と「さようなら」が上手く使われていた。
4位「スポットライト 世紀のスクープ」(Spotlight、トム・マッカーシー、2015年アメリカ)
この作品がアカデミー作品賞をとったところに、アメリカ映画界の良心がうかがえる。神父たちの苦悩ももう少し掘り下げてほしかったが…。
5位「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(5 Flights Up、リチャード・ロンクレイン、2014年アメリカ)
モーガン・フリーマンとダイアン・キートンの夫婦がとってもいい雰囲気。ニューヨークに似合っている!!人生のリノベーションも確かに必要ですね。元気なうちに・・・。

【プロフィール】
①スリラー・サスペンス、社会派、アート系、アニメ、ラブコメディ
②アイドル映画、ホラー映画
③クリント・イーストウッド、ジョージ・ミラー、チャン・イーモウ、大島渚、森田芳光、周防正行、呉美保、李相日、是枝裕和、黒澤明
④ジュリア・ロバーツ、メグ・ライアン、黒木華、安藤サクラ、松たか子、薬師丸ひろ子
⑤ロバート・レッドフォード、スティーブ・マックイーン、ジェームス・ディーン、松田龍平、加瀬亮、役所広司
⑥「エデンの東」(若いころに見た名作は、何年たっても忘れられません。主題曲が流れると思わず…。)
⑦歳と共にだんだん字幕やエンドタイトルの文字が見えにくくなり、映画を見ることに危機感を感じていましたが、5月に右目の白内障手術を受けたら、よく見えるようになってほっとしています。眼科の先生に感謝!!目や耳は大事にしたいですね。


◆kenya
【日本映画】

1位「ハッピーアワー」(濱口竜介)
5時間17分が短く感じるくらい、物語にのめり込んだ。まだまだ、続きが観たい気がした。
2位「モヒカン故郷に帰る」(沖田修一)
親が子を想う心。これ程、一途なものがあるのだろうか。
3位「リップヴァンリンクルの花嫁」(岩井俊二)
綾野剛が良かった。これからも楽しみだ。
4位「海よりもまだ深く」(是枝裕和)
「海街diary」に続いて、基本に忠実な作品であった。俳優陣も安定していて、安心して観れた。
5位「64 ロクヨン 前編/後編」
警察広報官とマスコミとの確執が解かれていく過程に惹かれた。


【外国映画】

1位「ボーダーライン」(Sicario、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、2015年アメリカ)
自分の原点はどこにあるのか?アクションを売りにしているが実は人間を鋭く深く描いている。ラストシーンに、麻薬問題の神髄が描かれているように思う。
2位「ザ・ウォーク」(The Walk、ロバート・ゼメキス、2015年アメリカ)
ただ単なる高所スリル映画ではなく、主人公が綱渡りを達成するまでの過程をじっくり描いていて良かった。生きる力をくれる映画である。
3位「ブラック・スキャンダル」(Black Mass、スコット・クーパー、2015年アメリカ)
今までの演技から一枚脱皮したジョニー・デップが良かった。静かなる怒りを体現していた。
4位「リリーのすべて」(The Danish Girl、トム・フーパー、2015年イギリス)
エディー・レッドメーンの手術前のあの一言。「女性」になる喜びと覚悟が感じられ、身震いした。ラストシーンもこの映画を的確に表していた。
5位「キャロル」(Carol、トッド・ヘインズ、2015年アメリカ)
ケイト・ブランシェットが良かった。

【プロフィール】
①スリラー・サスペンス、犯罪もの、社会派、人間ドラマ
②ファンタジー、アメコミもの、ミュージカル
③チャン・イーモウ、クリント・イーストウッド、パトリス・ルコント、北野武
④ケイト・ブランシェット、コン・リー、ミシェル・ファイファー、ミラ・ジョボビッチ
⑤クリント・イーストウッド、マット・デイモン、ジョージ・クルーニー
⑥「Uボート」(1981年、ドイツ)
⑦ハリウッド映画からマニアックな映画まで「観たい!」と思った映画は幅広く観ます。「観たい!」と思う基準は、キャスト・スタッフに加え、予告編の印象も大きく、予告編は煽るように出来ている為、観たい映画が増える一方です。しかも、「映画は映画館で観たい」と思っているので、見逃してしまうことも多く、悩みの種となっております。中学生の頃から映画を観初め、音楽にも興味を持ち、学生時代は、その両方に埋もれて毎日を過ごしておりました。会社勤めが始まってからも、映画は観続け、一時、中断致しましたが、2年前から時間の許す限り、映画館に通っております。感動出来る映画に出会えた時は、人生が豊かになったように感じられ、是非、その感動をたくさんの方にお伝え出来れば幸いかと思っております。



◆健
【日本映画】

1位「64 ロクヨン 前編/後編」
瀬々監督は優れた職人的技量と映像作家としての立ち居地を併せ持って独自の世界を構築してきた人だが、前者の才能が具現化したのがこの迫力満点の刑事映画である。群像劇を見事に裁いた力量に目をみはる。
2位「クリーピー 偽りの隣人」(黒沢清)
東京芸大教授の黒沢監督は理論家でありながら娯楽映画に長けたあたりはどこかマーティン・スコセッに通じる才能を感じる。香川照之の余人をもって代え難いサイコパス・キャラもさることながら、演出の切れがいい。
3位「リップヴァン ウィンクルの花嫁」
久しぶりの岩井ワールドである。何よりも流麗な映像美に目を奪われる。黒木華もよく健闘した。3時間に及ぶ大力作だ。
4位「日本で一番悪い奴ら」(白石和彌)
北海道警察の組織的な不正を暴いた実録ものである。柔道の腕を買われて特別枠で警察官採用に合格した若者がやがて悪徳警官の道をまっしぐら。私がよく知らない傍役陣がそれぞれの役柄によくはまっていてリアリティを感じさせる。そうして綾野剛の怪演!白石の代表作となるだろう。
5位「葛城事件」(赤堀雅秋)
舞台の演出家として頭角を現した赤堀が自身の戯曲を自らメガホンを握り、家族の破綻というきわめて現代的で重たいテーマを映画化した。傍目には幸せそうな4人家族の関係が徐々に修復不可能なところまで崩壊して行くさまは殆ど救いがない。堅実で適度に厳格な父親を演じた三浦友和がいい。


【外国映画】

1位「スポットライト 世紀のスクープ」
実話の映画化で結末がわかっているにもかかわらず、ここまでハラハラドキドキさせる才腕に脱帽せざるを得ない。記者がチームプレイで強大な教会勢力と対峙し、その隠蔽体質に斬りこむ姿がりりしい。
2位「ブリッジ・オブ・スパイ」(Bridge of Spies、スチーヴン・スピルバーグ、2015年アメリカ)
これもまた実話。相変わらずのスピルバーグのうまい話術には「あざとい」と非難する向きもあるが、私はそのプロフェッショナルな職人芸に惜しみない拍手を送りたい。よっ、大統領!
3位「キャロル」
赤を基調とした色調、端正な演出、ふたりの女優のうっとりとするような演技、そうして女同士のねっとりとした禁断の逢瀬。アメリカのミステリ作家パトリシア・ハイスミス女史の自伝的小説を映画化して秀逸だ。
4位「ヘイトフル・エイト」(The Hateful Eight、クェンティン・タランティーノ、2015年アメリカ)
タランティーノは役者を使うのがうまい。とくに、演技派女優ジェニファ・ジェイソン・リーが薄汚れて頭のいかれたお尋ね者に扮するのは見ものである。サミュエル・L・ジャクソンやカート・ラッセルといった曲者スターが楽しそうに演じているのもいい。
5位「ヴィクトリア」(Victoria、ゼバスチャン・シッパー、2015年ドイツ)
映画を知る者ほど信じられない方法で撮られている。夜更けから明け方までの140分間を一切カット割りせずに、全編ロケでアドリブとワンテイクによって撮られた驚くべき一編。ベルリンの町に繰り出した若者たちのドンチャン騒ぎ。ところが、突然堰を切ったように恐怖、スリル、悲劇へと変転する。

【プロフィール】
①スリラー・サスペンス、犯罪もの、社会派、アート系、実験映画
②恋愛映画、SF、冒険・ファンタジー、アニメ
③F・フェリーニ、A・ヒッチコック、B・ワイルダー、今村昌平、寺山修司etc
④メリル・ストリープ、マリサ・トメイ etc
⑤ハンフリー・ボガート、ジェームス・キャグニーetc
⑥「西鶴一代女」(溝口健二の傑作。ぜひ見てください)
⑦苦手なジャンルでも好きな作品はいっぱいあります。自然な表現もよいけれど、むしろ技巧的でスタイリッシュな映画が好きです。映画史とか映画理論に関心があります。アメリカ映画が得意ですが、ほんとうはイギリスやイタリアの映画が好みです。日本映画のよさがわかり出したのは中年になってから。フランス映画には苦手感があります。

「セトウツミ」(2016年 日本映画)

2016年07月11日 | 映画の感想・批評
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 イマドキの若者というか高校2年生のゆるーい会話だけで成立させた不思議な映画である。8つのエピソードから構成された75分という短い時間があっという間に過ぎる。
 イケメンで成績優秀だが無口で暗くて友達のいない内海(池松壮亮)は学校が終わってから塾の始まる時間を川縁で過ごす。ある日、クラブ活動を事情があってやめざるを得なくなったひょうきんでお調子者の瀬戸(菅田将暉)が放課後の時間をもてあまして川縁にやって来る。こうして、この対照的なふたりの男の子が毎日適当な距離感を置いて川辺の石段に座り、掛け合い漫才そのままに関西弁のゆるーい会話を始めるのだ。しかも、ボケと突っ込みが絶えず逆転し、今が旬の実力派売れっ子男優ふたりがまさに火花を散らして演技を競い合う。おそらくアドリブもあるのだろう。
 マドンナというべき少女(中条あやみ)が現れるが、結局かの女はふたりの間に入り込むことができずやきもきする。高校2年生という設定が利いてくるところだろう。恋愛感情よりも友情のほうが先行しているのである。しかし、その友情にしたって、まさしくイマドキというか、相手の領域に対して一定の範囲以上には入り込むことをせず、他人行儀と友愛の狭間を微妙なバランスで行きつ戻りつしているのがおかしい。
 凍えるように寒い冬の夕暮れどきに瀬戸が身体を丸めて川縁で震えながらひたすら内海の来るのを待っていると、内海がだいぶ遅れてやって来る。いつものように適当な距離感で並んで座るふたり。瀬戸にさんざん寒い思いをさせておきながら内海は鞄から暖かい飲み物を出して自分だけ呑む。それを瀬戸が見つめると、内海は気がついたようなフリをして飲みさしの缶を瀬戸に差し出す。瀬戸が受け取って呑む傍らで、内海が缶をもうひとつ鞄から取り出して素知らぬ顔で飲み始めるラストショットには笑った。この無言のやりとりに、男同士の照れとふたりの関係性の深まりがよく表現されていた。
 私は原作を知らないが、大森立嗣はその雰囲気を壊さずに心がけたのだろう。ストップモーションやスローモーションなどのテクニックを駆使して、ややもすると平板で平面的になりそうな正面からの固定ショットを飽きさせないよう工夫しているように思った。今年の日本映画の収穫のひとつである。音楽もまたすばらしい。(健)

監督:大森立嗣
原作:此元和津也
脚色:宮崎大、大森立嗣
撮影:高木風太
出演:池松壮亮、菅田将暉、中条あやみ

「日本で一番悪い奴ら(2016年 日本映画)

2016年07月01日 | 映画の感想・批評
 1975年、スポーツ推薦で北海道警察に入隊した一人の柔道青年が、暴力団対策担当になり、「道警(北海道警察)の為」という名目で、自ら裏家業に手を染めていき、2002年覚醒剤所持で逮捕されるまでを描いた映画である。綾野剛が、柔道しか知らないうぶな青年から、シャブ漬けの警察官までを演じている。
 映画全体はコミカルな演出で、「それはないだろう」という場面も多々あるが、根底には、①麻薬依存性の怖さ、②本音と建前の共存、③人間の欲の見苦しさ等を描いていると思う。①は、元スポーツ選手や芸能人の事件が後を絶たない。何故、これだけ事件になっているのに、これ程まで続くのだろう。それくらい「怖い」ものであるということであろう。一人の純朴な青年が堕落の一途を辿る。「覚醒剤止めますか?それとも、人間辞めますか?」。②人間が存在している限り、起こりうることであろうが、「公的機関」の仕事社会では中々口には出来ないストレスがあるということであろうか。「警察官=善人」という一般的な図式が更に興味深くする。先述した「道警の為」というセリフが組織の中で生きる人間の辛さも表している。③金持ちになりたい、女(主人公は男なので)にもてたい、出世したい等々、それらが、人間を暴走させ、他人を傷つけ、自分も不幸になっていく。①②③纏めると、人間は強くて弱いものであるということだろうか。メッセージ力のあるパンチの効いた映画である。凹むようなことがあった人には是非お勧めではなかろうか。
 それにしても、綾野剛は七変化。私が今年観ただけでも「64ロクヨン前編&後編」「リップヴァンリンクルの花嫁」と、どの役柄も全く違和感がない。昨年より前の作品は未見の為、出遅れているが、今後の作品にも注目していきたい。
(kenya)

原案:稲葉圭昭
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
音楽:安川午朗
撮影:今井孝博
出演:綾野剛、YOUNG DAIS、植野行雄、 矢吹春奈、瀧内公美、田中隆三、みのすけ、中村倫也、勝矢、斎藤歩、白石糸、青木崇高、木下隆行、音尾琢真、ピエール瀧、中村獅童他