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いびつな「大日本病」そんな社会の行き着く先はどこか・・・

2015年11月07日 | 社会・経済

最近TVやYouTubeなどで盛んに取り上げられている。わたしも興味を持ちいくつかを見ていた。初めはフムフム、なるほど、そうだなぁ、などと見ていたのだがだんだん度が過ぎることに気が付いた。そしてYouTubeでは並んで嫌中・嫌韓がある。何か仕組まれたものを感じてしまった。

毎日新聞 2015年11月06日 東京夕刊に興味深い記事が載ったので紹介しておこう。

 

 人はホメられて成長する−−というが、国家の場合はどうなのだろう。ここ最近、テレビは外国人に日本をホメさせて「日本は世界から尊敬されている!」と自賛する番組だらけだし、書店には日本礼賛本と並んで中国・韓国をけなす本が相変わらず並ぶ。一定の需要があるのは「日本は他国よりすごい」という大国意識、優越感に浸りたい、という願望なのか。そんな社会の行き着く先はどこか。識者とともに考えた。

 ◇戦前の価値観への回帰

 伊勢神宮の西、三重県名張市に、最近の社会・政治状況を「大日本病」と名付けて憂えている人がいる。戦史研究家の山崎雅弘さん(48)。専門誌に近現代の戦史研究を寄稿し、著書も数多い。9月に出版した新刊「戦前回帰 『大日本病』の再発」(学研マーケティング)が波紋を広げていると聞き、会いに行った。

 山崎さんが書斎から引っ張り出してきたのが、戦前に出版された思想教育本。「教育勅語と我等の行道」(教育勅語普及会、1935年)▽「国体の本義」(旧文部省、37年)▽「万邦に冠絶せる我が国体」(陸軍教育総監部、38年)▽「臣民の道」(旧文部省、41年)……。「自国を賛美する現在の社会状況や『戦後レジーム脱却』がとなえられる政治状況は、これらの本が出版された時代の風潮と似ています」と眉間(みけん)にしわを寄せるのだ。

 山崎さんが手にした数冊の本が訴えるのは、総じて「天皇を頂点とする日本の国家体制は『世界に類を見ない神聖で崇高な国のあり方』(万邦無比(ばんぽうむひ))とし、体制存続のみに価値を置き、献身と犠牲をいとわないのが国民の務めで、人権や個人主義の考えは欧米的だ」という考えである。

 「これが国家神道の考えですが、伊勢神宮などが培ってきた伝統的な神道とはまるで別物です」と山崎さん。国家神道は教育勅語の「危急のことがあれば、国民は公に奉仕し、永遠に続く皇室を助け支えよ」という教えも取り込み、国民や兵士の命を軽視した戦争を続ける原因になった。

 自国を独善的・排外的に偉大な国として存在価値を膨らませ、他国・他者に不寛容になり、個人主義や人権を軽視する状況が、山崎さんが論じる「大日本病」である。

 過去の話に見えるが、今も同じにおいがしないだろうか。自民党の憲法改正草案が「現憲法は個人の権利が強調され過ぎている」と、義務規定を10項目も増やし、さらに欧米的な「個人」との言葉を嫌ったのか「国民は個人として尊重される」という条文を「人として〜」に改めている。

 付け加えれば、昨年6月には教育勅語を肯定的にとらえている下村博文前文部科学相が会長を務める「人格教養教育推進議員連盟」が発足したし、安倍晋三首相ら閣僚の多くが「神道精神をもって、日本国国政の基礎を確立する」と綱領にうたう政治団体「神道政治連盟」や、「美しい日本の再建と誇りある国づくり」を訴える運動団体「日本会議」の国会議員懇談会に名を連ねていることも見逃せない。

 「一連の動きから見えてくるのは、国家神道的な価値観をよしとする体制への回帰です。安倍首相は戦後レジームは否定しますが『戦前・戦中レジーム』には特に否定的な言及はしません。安倍首相を支持する人の中に戦前・戦中を肯定することが『愛国』と考える人が多いのも気になります。歴史上、この国を唯一、滅亡の寸前まで追いやったのが、その戦前・戦中レジームなのですが……」

 ◇極度に排他的な「愛国者」

 「コリアンタウン」とも呼ばれる東京・新大久保。在日韓国・朝鮮人や他民族など、少数者を差別・迫害するヘイトスピーチ団体の取材を続けてきたジャーナリストの安田浩一さん(51)を訪ねた。かつてこの街でもヘイトスピーチの嵐が吹き荒れたが、今は平穏に見える。安田さんは韓国料理店で豚肉のキムチ炒めをつまみながら「警察がここのデモを許可しないだけで、彼らは銀座あたりに移ってデモをするようになったのです」と苦い顔をした。

 安田さんは字義通りの「戦前回帰」とは少し違う見方だ。「『日本が大好き!』と声高に叫ぶ人が増えていますが、彼らは中国・韓国など他国、他民族をけなし、排他的な言説をセットにしているんです。他者をおとしめることでしか自国への愛を確認できない。かつての日本は、上辺だけでも『大東亜共栄圏』などとアジアとの連帯をうたっていたが、今の自称『愛国者』は違う。21世紀型というか、『日本以外みんな敵』ぐらい排他的なんです」

 日本が他国・他民族に優越する、という考え方は、自国の国益を得るために他国に政治・軍事的な影響力を行使してもよい、という大国主義の下地にもなる。「その意味では、彼らの優越感は大国主義に近いのですが、一方では内向き。まだ受け入れてもいないシリア難民を敵視・蔑視する言説がインターネットなどで広がっているし……」

 差別の対象は在日や外国人だけではない。最近では福島原発事故で仮設住宅で暮らす被災者に対し「国に依存するなと罵声を浴びせたり、水俣病の患者団体の関係者には『いつまで国に甘えているんだ』という電話を掛けたりしている」と安田さんは語る。

 他人を罵倒する人々に共通するのは「奪われている」という感覚だ。国の領土が他国に奪われている、国の社会保障や生活保護が奪われている……。山崎さんは、「日本ブランド」をまとって自分の存在価値を高めたい、という人が、日本が批判されたり、国のお金が他者に使われると「自分が批判され、損をした気になるのではないか」と分析した。

 安田さんは辛辣(しんらつ)である。「『領土が奪われている』と言いながら、現に米軍基地として土地を奪われている沖縄県民が、基地反対運動をすれば『売国奴』という言葉を投げつける。彼らにすれば、沖縄すら排他の対象なんです。自分だけが正しい、美しい、尊敬されたい、という感情しかない。他国・他者より優れた存在でありたいが、ひたすら排他的。それが21世紀日本の大国主義の実相かもしれない。ゲンナリする社会です」とため息をついた。排他大国、排外大国という不思議な言葉が思い浮かんだ。

 ◇キーワードは「不安」

 大日本病や大国志向、自称「愛国」がなぜ今、求められているのか。山崎さんは「キーワードは不安です」と読み解いた。

 国家神道の考えが強調されだしたのは、満州事変後の国際連盟脱退表明(33年)のころからで、国際的な孤立で国民の不安が高まった時だ。人口減や景気停滞、原発事故や中国や韓国の経済成長……不安が高まる今の日本が重なる。国と自分を重ね、「万邦無比」といった「大きな物語」に自分が連なるという幻想を抱けば、自分の価値を再確認でき、不安の気持ちも軽くなる、というわけだ。

 政治学が専門の一橋大名誉教授の渡辺治さん(68)は最近の大国志向は、政治・経済的な必要性から生じた、とドライに分析してみせた。

 かつて日本は経済力を背景に、アジアに一定の影響力を持っていた。しかし中国の成長で日本の影響力が相対的に下がると、インドネシアでの大型公共事業の受注を中国企業に奪われるような事態が増えた。国益を確保するためには、経済力だけではなくアジアに対する政治・軍事的な影響力を強めなければ、という考えが安倍政権や財界にあるのだ、という。

 「でも日本は、中国と張り合うような軍事大国にはなれないから、集団的自衛権の行使という形で米国の戦争に協力し、米国の威を借りる形で大国化を図ろうとしている」

 だが安全保障関連法について、国民の多くが反対しているのは世論調査の結果から明らかだ。渡辺さんは「国民の多数は安倍流大国化に反対している。この点は重要ですが、安保法が発動されると状況が一変する恐れもある」と楽観はしていない。

 例えば自衛隊が海外で武力行使するようになればどうなるか。「まず自衛隊が変わる。海外で殺し殺され、という状況になれば、自衛隊の政治的発言力は確実に大きくなる。軍事が日本の中で大きな地位を占め、必ず国家意思の決定に関与するようになる。そういう意味で、今の日本は岐路に立っていると言えます」

 山崎さんが締めくくる。「自分の価値観を内面に持ち、一人一人が独立した思考を持つ『個人』でいられるかどうか。これがいびつな『愛国』や『大日本病』を克服できるかどうかのカギです」

 耳に心地よい礼賛や、繰り返される「愛」に気をつけたい。【吉井理記】