「Thinkstock」より

 トランス脂肪酸は脳梗塞や心臓病のリスクを高めることから、世界的に規制の動きが強まっています。トランス脂肪酸は、植物油など液体状の油脂や、マーガリン、ショートニングのような固体状の油脂を製造する加工工程で生成します。欧米やWHO(世界保健機関)などの専門機関は、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギーの1%以下にするよう勧告しています。これを受けて米ニューヨーク市はトランス脂肪酸を含む油脂製品の使用を禁止するという厳しい措置をとっています。また米国、カナダ、韓国では、加工食品についてトランス脂肪酸など4種類の脂質について含有量を表示することが義務付けられています。

 しかし、日本では「日本人のトランス脂肪酸の摂取量はWHOの目標を十分に下回っている」(食品安全委員会)などとして、基準値の設定や表示は義務付けられておらず、野放し状態です。

 こうした中、トランス脂肪酸の新たな健康リスクが明らかにされ、トランス脂肪酸の使用を放置している厚生労働省や食品安全委員会に対する批判が強まっています。

●新たな健康リスク

 新たなリスクというのは、トランス脂肪酸の摂取が皮膚障害の原因になるというものです。この研究結果を明らかにしたのは、JA高知病院の野田里香医師(形成外科・皮膚科)です。2014年7月26日に開催された講演会(主催:食品表示を考える市民ネットワーク)で野田医師は、小さい娘のアトピーが、保育園を変えたとたん急激に悪化、その原因を追究していく中で、トランス脂肪酸と皮膚障害の関連性を突き止めたと語っています。「食の安全ウオッチ」(No.42)は、その講演の要旨を以下のように伝えています。

「患者の中で皮膚の痒みを訴える人には、肉料理と魚料理はどちらが多いか、食用油は何を使っているか、菓子パン・調理パン・アイスクリーム・スナック菓子・洋菓子・スーパーの揚げ物などをどのくらいの頻度で食べているかという問診票を使って尋ねています。ひどいニキビや皮膚の湿疹などに悩んでいる患者にはEPA製剤を投与するほか、菓子パンやドーナツやアイスクリームなど、トランス脂肪酸を多く含む食品をやめ、肉食より魚食に代えてもらうと、劇的に改善します。汗は本来暑いときに体を冷やしてくれる優れものですが、汗の中に身体から出る有害物質が混じっていて、それが皮膚に痒みなどをもたらすのではないか」

 そして、野田医師はこうアドバイスしています。

「アトピー性皮膚炎や、あせも、汗あれなどの痒みに悩んでいる人は、菓子パンやドーナツなどに気をつけて、マーガリンやショートニングと書いてあったら(食べるのを)やめてみたらどうでしょうか」

 野田医師によれば、アイスクリームやコーヒーフレッシュもトランス脂肪酸が多く含まれるので、食べるのは控えたほうがいいと言います。また、揚げ物より油炒めのほうが油の摂取量が少ないので、トランス脂肪酸の摂取量は少なくなるといいます。

 トランス脂肪酸の含有量が最も多いのは、マーガリンを使ったショートニングですが、サラダ油も要注意です。サラダ油はパーム油、大豆油、菜種油など複数の油を混ぜたものですが、ほとんどのサラダ油には100g中1~2gのトランス脂肪酸が含まれています。しかし、単独のオリーブ油であれば0.1gしか含まれていません。油を使うならオリーブ油がお勧めです。

 ともあれ、皮膚障害という新たな健康リスクの疑いも出てきているのですから、食品安全委員会は「日本人のトランス脂肪酸摂取量は、欧米人に比べて少ない」などと根拠のない説明をせず、早急にトランス脂肪酸の規制策を打ち出すべきといえます。
(文=郡司和夫/食品ジャーナリスト)