日経新聞
[FT]仏大統領選、極右・急進左派の直接対決は悪夢(社説) 2017/4/21 14:59
欧州はようやく足場を固めつつある。英国の欧州連合(EU)離脱決定によるショックは何とかおさまりそうだ。ユーロ圏の経済は好転しつつあり、移民危機は和らいでいる。オランダ総選挙の結果、政界の主流派がポピュリズム(大衆迎合主義)の躍進を阻止できるという希望も生まれた。だが、23日に第一次投票が行われるフランスの大統領選は、こうして得たもの全てを無意味にしてしまうかもしれない
(中略)
悪夢のシナリオは、極右の民族主義者であるマリーヌ・ルペン氏と急進左派の闘士で支持を拡大中のジャンリュック・メランション氏が決選投票に残ることだ。
(中略)
これら体制への反逆者のいずれが勝っても、フランスの国境を越えてはるか遠くにまで激震が走るだろう。両候補は経済保護主義と、既に巨大な国家権力の介入の一層の拡大を資金の裏付けなしに唱えている。また、共に北大西洋条約機構(NATO)からの脱退やEUからの離脱も辞さない姿勢だ。もしそうなれば、EUは打撃から立ちなおれなくなってしまうだろう。
(中略)
23日の投票で、有力候補であるリベラル派マクロン元経済産業デジタル相か、保守のフィヨン氏かのいずれかが良い位置につければ安心だ
(中略)
他国と同様に、フランスの歴代政権もグローバル化の難しい局面で社会に生じた不安に対する答えを見いだせていない。さらに、首都と地方間に広がる格差を十分に認識したり、少数派の国民を苦しめている収奪や差別の問題に取り組んだり、移民問題で広がる憤懣(ふんまん)に対処することができていない。
こうした問題の影響は、極右と共産主義の左派が深いルーツを持つフランスで特に顕著に表れた。さらに、大統領が国の壮大さを具現してくれることを期待するこの国では、最近の大統領選での平凡な候補者の登場や、次々と明らかになる不正資金スキャンダルが特に大きなダメージを与えている。
(中略)
ポピュリスト(大衆迎合主義者)もまた、国民の間で国家が衰退しているという認識が広がっていることで地歩を築いている。フランスの国際的影響力の衰えや、経済力がドイツと比べ劣ってきていることを嘆くことがあまりにも当たり前になっている。このため、世界的企業の存在や、見事に運営されている公共サービス、おおむね快適な生活水準といった同国の優れた点は気に留められないか、あるいは当たり前だとみなされている
(中略)
有権者は政治家に絶望する十分な理由はあるものの、それでも自国の未来について悲観主義に陥ってはならない。国中が不安に包まれているが、今回の選挙は、フランスが経済を再活性化し、欧州での指導力を取り戻すチャンスを与えてくれる。
フランス国民は、4人の候補者のなかで、現行のシステムを引き裂こうとする2人と、すくなくとも、その再生と再建を試みる2人のどちらに投票するかの選択を迫られている。政治的分断の危険があるのは明白だ。有権者は怒りにまかせるのではなく、理性に基づいた判断をしなければならない。棄権してはならない。どの候補が勝利することになっても、その候補は国民からの最強の負託を必要とする。
(2017年4月21日 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)