SARS-CoV-2を様々な環境下において、感染力を維持している期間を検討した香港大学のAlex W H Chin氏らは、このウイルスの安定性は高いことを示す結果を得た。驚くべきことに、サージカルマスクの内側と外側にウイルスを含む小滴を付着させると、感染力を持つウイルスが4日から7日後まで検出できたと報告した。CorrespondenceはLancet Microbe誌電子版に2020年4月2日に掲載された。

 以下の実験はすべて、1条件につき3つずつ標本を用意し、感染価を求めて平均値を算出した。

 まず、気温と感染力の持続期間の関係を検討した。感染価を示すlog TCID50/mLが6.8の、SARS-CoV-2を含むウイルス輸送液をそのまま14日後まで維持し、1分後、5分後、10分後、30分後、1時間後、3時間後、6時間後、12時間後、1日後、2日後、4日後、7日後、14日後の時点で、感染価を測定した。ウイルスは、4度では高い安定性を示し、感染価は14日後までほとんど変化しなかった。22度では7日後まで、37度では24時間後まで感染力を維持していたが、56度では30分後、70度では5分後には感染性のあるウイルスは検出できなくなった。

 次に、log TCID50/mLが7.8のウイルスを含む水滴を、様々な材質の表面に5μL垂らして、室温22度、湿度65%の環境下で維持した。一定時間(30分、3時間、6時間、1日、2日、4日、7日)が経過した後に、滴下点の上から輸送用液200μLを追加してウイルスを回収し、感染価を調べた。

 コピー用紙とティッシュペーパーの表面では、30分後まで感染力を持つウイルスが検出されたが、3時間後には検出できなくなった。木材の表面と布の表面では、3標本のうち1標本にのみ、1日後まで感染力を持つウイルスが検出されたが、2日目には全ての標本が陰性になっていた。一方で、紙幣表面では2日後まで(4日後には陰性化)、ステンレス表面とプラスチック表面では4日後まで(7日後には陰性化)、感染性のあるウイルスが検出できた。

 なお、サージカルマスクの内側では、4日後まで(log TCID50は0分が5.88、4日後は2.47、7日後には陰性化)、外側では7日後まで(log TCID50は0分が5.78、7日後は2.79)まで、感染価は当初の1000分の1程度ながら、感染力を持つウイルスが存在していた。

 感染力が検出できなくなった標本を対象にPCR検査を行ったところ、多くが陽性になった。感染力がなくなっても、ウイルスRNAはしばらく溶液中に存在していた。

 続いて、室温22度で消毒薬の効果を検討した。log TCID50/mLが7.8のSARS-CoV-2液15μLに、通常使用する濃度の様々な消毒薬135μLを加えて5分後、15分後、30分後にウイルスの感染価を調べた。家庭用漂白剤50倍希釈、同100倍希釈、ハンドソープ液50倍希釈、消毒用エタノール70%、ポビドンヨード(7.5%)、クロロキシレノール(0.05%)、クロルヘキシジン(0.05%)、ベンザルコニウム塩化物液(0.1%)について検討したところ、ハンドソープ液の場合のみ、1検体で5分後に感染性のあるウイルスが存在していたが、それ以外の全てで、ウイルスは感染力を失っていた。

 最後に、環境のpHとの関係を検討した。室温22度で、pH3から10までの環境にウイルス液をおき、60分後に感染価を調べたところ、どのpH下でも感染価はほぼ同様で、低下は見られなかった。

 全体として、SARS-CoV-2は、ウイルスに適した環境下では安定性が非常に高かった。一方で、標準的な消毒法はいずれも有効だった。

 原題は「Stability of SARS-CoV-2 in different environmental conditions」、概要はLancet Microbe誌のウェブサイトで閲覧できる。