とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

「あの女はろくでなし」アンデルセン 大畑末吉氏訳

2007年01月07日 10時16分34秒 | 児童文学(絵本もふくむ)
★アンデルセンの弱き者、純粋なものに対する目線の鋭さ、優しさ、深い理解に胸打たれました。短い物語ですが、例によって結実しなかった純愛話もそっと添えられていて、詩的な仕上がりの物語でした。

     「あの女はろくでなし」アンデルセン
            (要約)

 町長さんが窓ぎわに立っていました。そこへ洗濯女の坊やが通りかかりました。坊やは、着物はそまつでしたが、こざっぱりとして、とくに手まめにつぎがあててありました。

「おまえはポケットに入っているものを運んでいくんだろう。それがおまえのおかっかさんの困った癖じゃ。そこにどのくらい持っているんじゃ」

「小瓶に半分です」

「けさもそのくらい飲んだんじゃな?」

「いいえ、それはきのうです」

「半分が二つよると、まるまるひとつになるんだよ!ほんとに、ろくでなしじゃ!下々の連中は、ほんとに嘆かわしい。おっかさんに言いなさい。少しは恥を知るように。おまえは大酒のみになってはならないぞ!」

 男の子は川の方へおりていきました。そこに母親が水のなかの洗濯台の前に立って、たたき棒で重い敷布をうっていました。ちょうど水門が引き上げられたので、流れがはげしくなり、敷布も洗濯台も引き倒れそうになりました。洗濯女は流れにさからっていなければなりません。

「いい時に来ておくれだね。だって少し力をつけさせてもらわなければいけないもの。水のなかは、そりゃ冷たいいんだよ。もう6時間も、こうして立っているんだからね。あれを持ってきておくれかい?」

男の子は瓶を差し取り出しました。母親はそれを口にあてて、ひとくち飲みました。
「ああ、なんてよくきくこと!からだがあたたまるるよ!お金もそうかからないしね。おまえもお飲みな!おや、青い顔をしているね。薄着で寒いいんだろう。むりもないよ。もう秋だものね。おお、寒い、水の冷たいこと。病気なんかになるものか。おまえもお飲みな。だけどほんのちょっぴりだよ。こんな癖をつけたらいけないよ。ほんとうに、おまえは貧乏人の子に生まれて、かわいそうだよ!」

母親は、男の子の立っている岸にのぼりました。腰にまきつけていたイグサのマットからも、スカートからも水がしたたり落ちました。

「わたしは働き通しなんだよ。それで血が爪の根もとから、いまにもふきだそそうなの。それでも、かわいいおまえをりっぱに育てあげることさえできれば、これぐらい何でもないよ」

そこへ、みすぼらしい格好をしたマーレンさんという片目で片足の不自由な女が通りかかりました。

「やれやれ、お気のどくに、冷たい水のなかに立ち通しで働いていてはね!それじゃ、身体をあたためるものが少しはいりますよ。それを世間じゃ、あなたの飲む、ほんのひとったらしのことを悪く言うんですからね!」

マーレンさんは、町長さんが男の子にむかって言ったことを立ち聞きしていたのです。それをすっかり話して聞かせ、子供にむかっては、町長さんはあんなことを言っているくせに、自分自身はブドウ酒をいく本も出して豪華な昼食会を開くことをたいへん憤慨していました。

「それがね、上等のブドウ酒や強いお酒なんですよ!たいていの人が喉の乾きをうるおす程度以上なんですよ。それでも、あんなのは飲むうちにはいらないんですとさ。あの人たちはりっぱで、あなたはろくでなしなんだって!」

   (後略)
結局、この洗濯女は、病死してしまいますが、後半で、この洗濯女が昔町長さんの家に昔奉公していて、町長さんの学生だった弟と恋愛関係になったことを知ります。しかし精神生活のあまりのちがいに互いに愛し合っていながら結婚をあきらめ、別の男と結婚したが、伴侶は死んだことが、分かる。最後に、こうしめくくられます。

「あの女は酒のためにとうとう命をちじめたのじゃ」と町長さんが言う。
同時に、昔の恋愛相手の町長さんの弟の死の知らせがきます。遺言状には、洗濯女に600リグスダラーを贈るというものでした。

「わしの弟とその女のあいだには、何かいきさつがあったようじゃ!」
町長さんは、男の子を呼んで、おっかさんは死んでよかった。おまえは立派な職人になるのだぞ」と世話を約束する。

洗濯女は、貧民墓地に、葬られた。マーレンさんがお墓の上に小さなバラの木を植えました。男の子はそばに立っていいました。

「やさしかった母さん!」涙を流しながら「ぼくのお母さんがろくでなしだって、本当?」

マーレンさんは答えます。
「めっそうもない。お母さんはそれは働き者だった。坊やにはっきり言っておくよ。いいかい、お母さんは役に立つ人でした!天国の神さまも、きっとそうおっしゃるにちがいないさ。世間の人には、かってに言わせておいたらいいよ。あの女はろくでなし、とでもなんでも。」

           完
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« サンテグジュペリ作「星の王... | トップ | 「君はヴェトナムで、何も見... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

児童文学(絵本もふくむ)」カテゴリの最新記事