とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

「柳の木の下で」アンデルセン

2006年11月09日 08時38分53秒 | 児童文学(絵本もふくむ)
 伝記を読んでいないので、確定はできませんが、これは、もしかすると「人魚姫」と同じモチーフかもしれないと思いつつ読みました。

アンデルセンの結実しなかった一途な恋心を、そのまま、恋する若者を主人公として描いた物語。(では、ないでしょうか?)非常に心に残った一篇です。

(要約)
海岸にあるキェーエという寒々とした町に貧しい家族が隣同士に住んでいました。
それぞれの家のみすぼらしい庭には、一方の庭には、にわとこの木が、もう一方の庭には、柳の木が立っていました。隣同士の小さいクヌートとヨハンネは、とりわけ、この柳の木の下で遊ぶのが好きでした。両方の貧しい両親はちょくちょくいっしょになり、幼い二人は庭や道であそびましたが、特にこの立派な柳の木の下で遊ぶのが好きで、楽しい時を過ごしました。

しかし、楽しいときは、長くは続きませんでした。ヨハンネの母親が死に、一家はコペンハーゲンに引越しをしてしまいます。お隣同士は涙のうちに別れ、とりわけ子供達は悲しがっておいおい泣きました。
クヌートはコペンハーゲンの方を見て、ヨハンンネに会いたいといつも思っていました。

(キェーエとコペンハーゲンは、わずか35キロしか離れておらず、キェーエから、晴れた日にはコペンハーゲンのいくつかの塔が湾のかなたに見ることができた、と書いてありますが、まだ昭文社のデンマークのエアリアマップを買っていないので、位置関係はわかりません。エアリアマップは詳しいので便利なのですが、国ごとに買い揃えなければならないので、大変です。)

クヌートは靴職人になり、いよいよ一人前になった時に、修行のたびに出て、生まれて初めてコペンハーゲンへ行きます。クヌート19歳、ヨハンネは17歳になっていました。

コペンハーゲンに着いたクヌートは、よくもこんなに人間が重なり合って暮らしていけるものだとメマイがする。

クヌートはヨハンネの父親を尋ねる。もちろん温かく迎え入れてくれ、立派に大きくなったクヌートを見て喜ぶ。部屋はなに不自由ない暮らしぶり。ヨハンネも娘らしくなり喜びにしていると父親は言う。さあ、いよいよヨハンネの部屋へと父親は若者を導いていく。

そこは、じゅたんがしきつめられ、カーテンが床まで垂れ、ほんもののビロード張りの椅子が一つ、まわりには花や絵や、それにドアほどもある大きな鏡がかけられていて、うっとりするほどのきれいな部屋だった。ヨハンネはすっかり年頃の娘になり、これまで想像していたのとはまるでちがう、それよりもずっと美しくなっていた。なんという上品さ!ヨハンネは最初はきょとんとしていたが、すぐにクヌートとわかり、すぐにとんできました。幼友達に会って心から喜びました。昔話に花が咲きます。ヨハンネが父親にそっと話し、クヌートは一晩泊まらせてもらうことになります。ヨハンネは本を朗読してくれました。その詩はクヌートの心にぴったりで、ヨハンネは、たしかに自分を愛していると思います。またとない楽しい一夜でした。

優しいヨハンネはキップを一枚クヌートに送ってくれます。クヌートは生まれてはじめて劇場へ行きます。舞台上のヨハンネを見ます。それは美しい、かわいらしいヨハンネでした。(おそらくオペラ?)ヨハンネは人々の喝采をあび、王様までもがお気に召しました。

やがて別れの時がやってきます。ヨハンネは、さらなる修行のためフランスへと旅たって行ってしまいます。

そこでクヌートはヨハンネにプロポーズをします。
ヨハンネの顔はみるみる青ざめます。
「クヌートさん!あなた御自身にしても、また、わたしにしても、おたがいに不幸にならないようにしましょうね。わたしはいつまでも、あなたのよい妹ですわ、それは信じてくださいね!―でも、それ以上はいけないわ」
「お兄様」ヨハンネは涙を流しました。

クヌートはデンマークにはとてもいられません。想い出がきつすぎて。
南へ南へとドイツへわたり、さらにアルプスを越えてイタリアのミラノまで行きます。そこで偶然に大オペラ座でヨハンネが出演しているのを観ます。その歌は神の天使だけがうたえるようなできばえでした。オペラがおわり、ヨハンネは馬車に乗り、人々が周りをとりかこんでいました。クヌートは馬車の跡をついていきます。そこは明るく照明された立派な家でした。馬車から降りたヨハンネはクヌートの顔を正面からおたがいに見ますが、ヨハンネはクヌートであることにきづきませんでした。その時、胸に勲章をつけた立派な紳士がヨハンネに腕をかします。婚約者だということでした。

クヌートは、もうデンマークへ帰るしかありません。アルプスの山を登っては下り、デンマークへとデンマークへと、あのなつかしい自宅の庭をめざして急ぎます。だれも、この若者の深い苦悩を知りはしません。クヌートはもうこの世のものではありませんでした。お腹も減り、へとへとになります。するとあの自宅の庭にあるのと非常に良く似た柳の木がどっしりとして立っていました。

若者は、その木の根元に横たわります。みぞれが降っています。そして、うとうとしていたら、それはそれは楽しい夢をみます。キェーエの町を、自分とヨハンネが祭壇に向かって進みます。みんなは祭壇の前にひざまつきます。ヨハンネは顔をクヌートの顔の上に傾けました。

「その目からは、氷のように冷たい涙がこぼれ落ちました。それは、男の熱い愛でとかされた女の心の氷でした。冷たい涙はクヌートの燃えるようなほおの上に落ちました。そのとたんに―クヌートは目をさましました」

見るとクヌートは寒々とした冬の夕ぐれに、見知らぬ国の古い柳の木の下に腰をおろし、雲からは冷たい霙がおちてきて、顔にぱらぱらと落ちていました。

「ああ、今ぼくは一生のうちで一番楽しかった!でも今のは夢だ。―神さま、どうぞ、もう一度今の夢をみさせてください」

クヌートは再び眠り、夢をみました。

明け方、雪が降り出し、雪はクヌートの足の上につもりました。それでもクヌートはまだ眠っていました。

村の人々が教会へ行くみちすがら、ひとりの職人風の若者がうずくまっているのを見つけます。その男はもう死んでいました。凍え死んでいたのです―柳の木の下で―




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